2-13.

 すると、エンブレムちゃんの後ろの子が恐る恐る言ってくる。


「でも、あの子の家系で私達の地元はすっごく迷惑をかけられて。なのに全然悪びれることもなくって……」


 そしてまた、あたしは遮るように言った。


「だから月詩ちゃんに恨み節? それって変じゃない? もし貴女達があの子の立場で貴女達みたいな態度をとられたらどうする?」


「それは……」


 と言って、俯いた。


「聞いてくれる?」っと言ったあたしに、ふたりはゆっくりと顔を持ち上げ、視線が合ったタイミングで話し始めた。


「アリシアってさ、全国から女子はたった240人しか来れないんだよ。しかも、各地の魔力上位者の中から更に絞られて推薦されて来る子が殆どだし。一般入試なんて合格率は針の穴程度なんだって。貴女達もきっと地方からの推薦なんだろうけど、せっかく入れた同期の子に『神凪家』だからって恨み節を投げつけるのは違うんじゃないかな?」


 彼女達はあたしの話しを、真剣な眼差しで聞いている。


「あたしは、アリシアに入れる子にそんな意地悪な子は居ないと思ってるの。それに、あたしって大概のことは気にしないけど、イジメだけは見過ごせない性格なんだ。だから仲良くしろなんて言わないけど、イジメだけは止めてくれるかな? もうさ、中学生とかじゃないんだからさ。少なくともあたしは、今日ここで試験を受けた子とはいがみ合いたくないからね」


 黙って聞いてたふたりは、あたしの言葉が終わって暫く黙り込む。そして互いに見つめあってから頷き合い、エンブレムちゃんが言葉を出した。


「ごめんなさい、神之原さん。本当はあたし達もあの子が何かをしたなんて思ってはないんです。むしろ頑張ってるように見えて……でも、昔から『神凪家』はって言われ続けて来たから……」


 後ろの子も言葉を出す。


「それに、神凪さんって西日本の『解縛式』を終えた子達の魔法武術大会じゃ負け無しの実力者だったから、少し……って言うか、やっかみがあって……」


 そんな彼女達に、あたしは微笑んで言った。


「それじゃあ貴方たち、そんなに月詩ちゃんの事を嫌ってる訳じゃないんだ。それは本当に安心したよ」


 何故か、顔を赤くして俯くふたり。


 何で? って感じだったけど、とりあえずあたしは笑顔で自己紹介をした。


「あたしは地元、福岡県北九州市の天照院学園から来た神之原志乃。よろしくね」


 あたしの自己紹介で、彼女達はさらに顔を赤くするのが謎だけど、その後で慌てて言ってくる。


 まずはエンブレムちゃん。


「私は高知県の私立土佐竜宮女学園から来ました、海治舞花うみじままいかって言います。よ……よろしくお願いします」


 次に、後ろの子。


「私は徳島県の私立鳴門学院中等部から来ました、岬咲良みさきさくらです。よろしくお願いします」


「志乃でいいよ」と言って彼女達に視線だけを残して踵を返し「仲良くしようね」と言うと、ふたりは「「はいっ」」とユニゾン。


 その返事を聞いて「おやすみぃ」と、言葉を残して移動しエレベーターに乗り込んで部屋に戻った。


 実はあたし、ディナー前におばあちゃんやお母さんに『神凪家』の事について教えてってチャットをしてて。


 その返事を見て、月詩ちゃんの誤解だけは解いておこうと彼女達に声をかけたんだけど。


 まぁ、あのふたりも根っから月詩ちゃんの事を嫌ってた訳じゃ無いにしろ、『神凪家』に良い印象は持ってないみたいだったし。



 それもこれも50年以上前のすったもんだがどうのこうの…



 それはまた別のお話でして。あたしは最低でもアリシアに居る間の月詩ちゃんが俯かないような学園生活を送れればいいなと思いつつ、部屋に備えられたシャワーを浴びてベッドにダイブ。


 その後で由乃とリモートでお話すること15分で、画面の向こうの由乃が悲しそうに言ってくる。



『お母さんにさぁ、リモートとか電話は15分までって言われちゃってさ。約束破ったらスマホ取り上げるって言ってくるんだよぉ。もう鬼だよ鬼』



 と言って口を尖らせる。


 まぁでも毎日15分、工夫すれば30分は連絡とれるじゃんって言うと、由乃はパアッと明るい表情になって言ってくる。


『そうだねっ! 私、しぃちゃんとお話し出来るの楽しみにしてる』


 あたし達は「明日ね!」と言い合って、通信を切った。


 それからチャットで30往復してから親友グルチャで15分くらいやり取りし、スマホを枕元に置いてため息を吐く。


 今日は朝から本当に目まぐるしかったのもあるけど、あたし的にはこれからの『こんにゃろうタイム(プニッシュタイム)』をやらなければならない事にため息を吐いたようなものだ。


 まったく大昔の『闇の魔女』は、はた迷惑な呪をかけてくれたもんだと嘆きくばかりだ。


 それでもやらなければならないもんだからって事で、あたしはベッドの横のテーブルに置いてある小袋から『こんにゃろう(プニッシュ)』を取り出して『こんにゃろうタイム』を始める。



 ━━━━━━━━━━━━━━━エチエチ。



 明けて翌日、約束の時間にあたし達6人はフードコートに集合して朝食を済ませ、一旦部屋に戻って身支度を整え……


 と言っても、全員が各々の中学校時代の冬用体操着で参加する様に指定されている。だからヘアスタイルやベースメイクの為に戻ってきただけに過ぎない。


 それでも10分後には2階の大フロアに全員集合し、アリシア学園の事務局職員の田代妙子さんから体力測定の説明を受ける。


 それから午前中の測定。ランチ。午後の測定を無難に終えた。


 ランチが終わってフードコートから退出する時、月詩ちゃんに絡んであたしが諭したふたりが月詩ちゃんを呼び出す。そして、人気のいない所で月詩ちゃんに頭を下げているのを見かけた。


 やっぱり根はいい子達なんだなと思った瞬間だったし、月詩ちゃんも午後の測定の時は吹っ切れた表情でいたし。



 そうそう、あたしは月詩ちゃんの事を『ツク』と、歌音ちゃんは『カノっち』と、安娜ちゃんは『なぁちゃん』、安寧ちゃん『ねぇちん』、葉月ちゃんは『ハヅキチ』と呼ぶようにした。


『ねぇちん』だけは、あたしでもどうかなって思った。


 けど、本人は無表情なままで「それでいい……それがいい」と言うもんだから、そう呼ぶことで落ち着いた。


『ハヅキチ』に関しては、「何で私のあだ名知ってんねん」と、突っ込まれる。



 その日の夜は、ツクに謝ってたマイマイ(海治舞花)とさくら(岬咲良)も交えて8人でビュッフェディナー。


 その後、娯楽施設で翌日の男女合同の魔力測定に散々文句を言い合って各部屋に戻って行った。


 戻り際にマイマイとさくらに呼び止められ、昨日のお礼を言われる。あたしは「みんなで頑張ろう」と言って部屋にもどり、由乃とチャット&電話、その後で親友グルチャからのオヤスミ送信。



 多分、これからずっと由乃からのくだりはあたしの日課になるだろうなと思いつつ『こんにゃろうタイム』に突入。


 こっちは既に、ため息とともに日課になっている。



 ━━━━━━━━━━━━━━━エチエチ。



 翌日の朝、ローカルニュースでこんなを放送していたらしい。



『本日の未明、福知山山中で中級悪魔、15メートル級の『バウンドドラゴン』が発生しました。一般クラスまでの魔力保持者での討伐が失敗に終わり、現在はマギクラスの討伐グループが捜索しているもようです。念の為に、一般クラスまでの方々は山中に入らないようにと、福岡県魔法統括機構から要請されています』

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