2-8.
「午前中の試験、難しくなかったですかぁ」
歌音ちゃんがそう言いうと、すかさず月詩ちゃんが反応する。
「本当ですよねぇ、私……ちょっと自信ないなぁ」
そう言って、苦笑いしながら紅茶を啜る。
すると、歌音ちゃんがあたしの方を見て「神之原さんは?」と、聞いてきた。
「志乃でいいよ。あたしはあまり難しいとは思わなかったけどねぇ」
その言葉を聞いた歌音ちゃんは、「さすがは神之原さんですね」っと、『神之原』強調しながら言い、月詩ちゃんもうんうんと頷く。
「いやぁ、神之原は関係ないし。それにさっきまでの2教科の試験って、入学案内の時に渡されたテキストの問題そのまんま抜粋してたから簡単くない?」
あたしの言葉に2人共……
「「えっ???」」
っと、驚愕してテキストを持ち上げて暫し。
「「あっ!!!」」
っと、声を上げてまたまた再び驚愕。
「本当だぁ、全然気が付かなかった。ありがとう神之原さん」
そう言う月詩ちゃんに「志乃でいいよ」と、言って再びカップを持ち上げてひと啜りし声を出す。
「そう言えば2人とも試験会場で見なかったけど、何処の会場? あたしは1番会場だったけど」
「私は2番です」と、歌音ちゃん。
「私は4番かなぁ」と、月詩ちゃん。
まぁこの寄宿舎には240人の新入生がいるんだから、別々の会場でもおかしくないか。
そんな事を思いつつ、2人の予習に拍車がかかったのを眺めていた時だった。次の試験の時間まで残り10分の案内が放送される。
あたし達は、空になったカップを返却口に納めて試験会場に向かっている。と、突然月詩ちゃんが前に躓くように一歩飛び出した。
そんな月詩ちゃんの横を睨みつけるように、先程イチャモンを付けてきたふたりが追い越す。
そのふたりをあたしはギロリッと睨むと、気まずそうに顔を伏せて小走りに移動して行った。
「なんですか、あれ? ぶつかっておいて謝りもしないなんて。本当、失礼な人達ですね」
と言って、歌音ちゃんが憤慨する。だけど、月詩ちゃんは俯いたまま泣きそうな顔で立ち止まる。
そんな彼女の肩を、あたしはポンッと叩いて言葉を出した。
「強くないと、やって行けない所もあるんだよ」
月詩ちゃんは、あたしにユルユルと視線を持って来た。だから、目が合ったタイミングで右手の親指を突き立ててニカッと笑ってみせる。
すると、月詩ちゃんはビックリした表情になって、でもすぐに視線を落とす。
それでも、ゆっくりと頭を上げて進行方向に視線をやる。と、決意の籠った目付きになって「うんっ!」と、気合いを入れた。
再び歩き出そうと足を一歩前に出した瞬間、歌音ちゃんが声を出してくる。
「ねぇ、試験が終わったらまたお茶しない?」
あたしは即答「OK」で、月詩ちゃんは進行方向を向いたまま決意みなぎる眼差しで佇む。
「えっと……」と、声を掛けようとする歌音ちゃんを制し、あたしは月詩ちゃんの後ろに回って……ガバッと抱きついた。
「うひゃぁぁぁっ!!!」
面白い悲鳴を上げた月詩ちゃんを逃がさないように、がっちり羽交い締めにしてあたしは言葉を出した。
「試験が終わったら、またお茶しないって美少女に誘われて無視とかないっしょ! 返事は? 返事はぁ?」
すると、月詩ちゃんはもがきながら声を出す。
「ひやぁぁっ! 止めてぇ神之原さん。行く! 行くからっ! 行くからぁっ!!!」
なんだかエロエロな感じの悲鳴だっただけに、超満足なあたしは月詩ちゃんを解放し、歌音ちゃんにOKマークを見せる。
「それじゃあ、さっきのフードコートのドリンクコーナーの前で待ち合わせね」
そう歌音ちゃんが言って各々の試験会場に入っていき、午後からの3教科の試験を受けた。
全ての試験が終わってから、会場を見渡すあたし。
今日、出会った月詩ちゃんと歌音ちゃん以外のふたり、真中と斑鳩響希さんの姿が無かったところを見ると、彼女達も別会場だったんだと推測できる。
「さてと……」と呟き席を移動しようとした瞬間。目の前に誰かが立っているのに気付き、その子に視線を合わせた。
目の前の子は、
スレンダーな体型に、白地でグリーンの襟元のセーラー服。グリーンのカーディガンを羽織った学級委員長と呼びたくなるような美少女が、あたしの目を真っ直ぐに見ながら言ってきた。
「突然で申し訳ありません。私は群馬県の赤城魔法女学院から来た、
いやマジ唐突だわ!
今しがた終わったばっかでしょうが!
っと言いたかったが目の前の真浄寺咲奈ちゃんは、あたしが言葉を発する前にズイッと近づく。
仰け反りながらも鼻の頭がぶつかりそうになったところで、あたしは言葉を出した。
「いやまぁ自己採点なんてしてないけど、自信はあるかも……かな?」
まぁまぁと両手で制しながらそう言うと、真浄寺さんはそのままの姿勢で言ってくる。
「『神之原』ともあろうお方がなんともアバウトな事を。では、英語の試験の、最後の課題長文は何と書きましたか?」
さらにグイグイくる真浄寺さんに、あたしは苦笑いで答えた。
「えっとね、長文……長文ね。えっとぉ、I came here with the support of various people、(色んな人に支えられてここまで来ました)I will continue to do my best with gratitude(これからも感謝しながら頑張ります)……かな」
そう答えると、真浄寺さんは驚愕の表情で後ずさり言葉を出す。
「なっ……なんと言うネイティブな発音。それでいて滑らかな言葉運びで日本人にも聞き取りやすく、耳心地の良い話し方。こっ……これが『神之原』の実力か」
いや、神之原は関係ないでしょうよと思ってしまうのですけど。
真浄寺さんはそう言いながら立ち止まり、悔しげに下を向いた。その後で目付き鋭く、口をキュッと結んであたしに視線を戻し言ってくる。
「なるほど、どうやら私の完敗のようですね……分かりました。でも、次こそは必ず貴女に勝ってみせます!」
と言って、ビシッとあたしに指をさし宣戦布告してから試験会場から出ていった。
まるで小さな竜巻がやって来て、勝手に去っていった様な感覚だけど……
えぇぇっ!!!
次って何?
あたし達って、何か勝負してたっけ?
なんだか頭が痛くなりそうで、こめかみを右手で軽くもんでから試験会場を出ようとした。
すると、今度は入口付近に立っていた女生徒に呼びかけられる。
「あんたが神之原?」
そこには、ポニーテールでぱっちりとした目元に小鼻で小顔。
ニッと唇の右端を上げた、白地に紺で真っ赤なリボンが特徴的なセーラー服で少し小麦色の健康そうな女子生徒が、腰に手を当てて立っていた。
その子はあたしに対し何度も視線を上下させ、そして言ってくる。
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