2-7.
様々な料理が並べられたセンターテーブルを抜けて、麺類コーナーに駆け込む。
すると、そこには燦然と輝く北九州市民お馴染みの『資』のマークが視界に飛び込んで来た。
そのブースに辿り着き、とあるメニューを注文してから約3分で受け取り、あたしはご満悦。
天かす少々、トロロ昆布ひとつまみ。漬物を小皿に乗せて元の席に戻ろうとして振り返る。
すると、すぐそこに見知った顔を見つけた。だからあたしはその子に「一緒に食べよう」と、声をかけた。
その子は顔を高揚させて快諾してくれたので、一緒に目的のテーブルに戻っていく。けど、何故に高揚させたのかは謎のままだ。
元の場所戻ると、あたしを確認してホッとした表情に変わった月詩ちゃん。だけど、あたしがもう1人を連れてきたものだから不思議そうな表情になる。
ホントこの子は表情がコロコロと変わって可愛くて、あたし好みだ。
あたしは元の席に座り、連れてきたその子をあたしの右側に座らせて紹介した。
「こっちは、東京からやってきた
キョトンとしたまま固まってる月詩ちゃんに向かって歌音ちゃんが声を出す。
「初めまして、私は東京の奥多摩聖心学園から来ました神楽坂歌音です。よろしくお願いします」
そう言って、ニッコリ微笑む。
自己紹介された月詩ちゃんはポ〜〜〜っと歌音ちゃんを眺めてたけど、突然ハッとして居住まいを正し、声を出した。
「あの、私は香川県の国分寺学園から来ました
神凪さんかぁ……
って、さっきも聞いたけど……
マジかぁ……
お母さんの予想は大当たりだなと思いつつ、あたしは自己紹介を終えた神凪月詩ちゃんに丼を差し出して言った。
「神凪月詩ちゃんって言うんだね。じゃあ月詩ちゃん、これ食べてみて」
そう言われた彼女は、不思議そうにどんぶりの中身を見てから、あたしに視線を戻して聞いてくる。
「あの……神之原さん、この天ぷら……何ですか?」
この福岡県では定番の天ぷらだけど、香川県とかには無いのかなと思いながら答えた。
「ごぼ天だよ、知らなかった?」
それを聞いた月詩ちゃんは不思議そうにごぼ天を観察し、おもむろに箸を持ち上げる。そして、ごぼ天を一本取り上げて口の中に突っ込むと……
っ!!!!!
その途端、電気が走ったかの如く身体をビクッとはね上げて目を丸くする月詩ちゃん。
突然ガバッと丼を両手で掴んだかと思えば口元まで運び、ズッとひと啜りして驚愕の表情。
これは来たなと、あたしは心の中でサムズアップ。
「………あまちこい……美味しい!!!」
はいっ!
美味しい頂きましたぁ!!!
月詩ちゃんは目を輝かせながらもうひと口、ツユを啜りフワッとした笑顔になる。
丼をテーブルに置き、あたしを見る月詩ちゃんを眺めながらドヤ顔で解説を始めた。
「そのごぼ天は福岡県じゃポピュラーな具材でね、そのツユは甘く煮られたお肉からでる汁がうどんのツユと交わっての甘さなの。そしてこれこそが、福岡県北九州市民の胃袋を鷲掴みにして離さないソウルフードで、ランチ時のちょっと贅沢メニュー『肉ごぼ天うどん』なのであります。
と言って、あたしは鼻をツンと上げて満足気に鼻を鳴らす。
あたしと月詩ちゃんと歌音ちゃんの間に暫しの沈黙が流れ、その沈黙を破ってくれたのはあたしの予想通り歌音ちゃんだった。
「ぷっ……くくくっ……アハハハッ! 神之原さんって面白い!」
あたしから視線を外し、歌音ちゃんの笑顔を見ていた月詩ちゃんも少しづつ笑顔が戻ってくる。
まぁ人間誰しもそうだけど、笑顔の似合わない人は居ない。それにこれ程の美少女2人を笑顔に出来てあたしも満足だし。
あたしは2人の笑顔をオカズに、もう既に冷めてしまったカツカレーにスプーンを差し込む。
先程切り分けたカツも乗っけて多めのカレーライスをすくい上げ、口の中に差し込んだ。
その様子を見て歌音ちゃんもトレイに乗せていたチーズリゾットにスプーンを差し込み、月詩ちゃんはうどんの麺を嬉しそうにすくい上げて口の中に入れる。
ズルっと啜ってから咀嚼して……咀嚼のスピードが落ちて……呟いた。
「……のびてる」
待ってましたその言葉!
しかも口の中のカレーを飲み込んだタイミングでその発言!
さすがあたしの好みの美少女は分かってるねぇと思いつつ、ご当地自慢を披露する。
「ふっふっふっ……甘いよ甘いよ月詩ちゃん、そのうどんのツユ並に甘いねぇ。うどん発祥の地、福岡県の麺はモチモチですっごく柔らかくてね、歯のない赤ちゃんの離乳食や、歯の抜けたお年寄りにも優しい歯ごたえが特徴なんだよぉ」
あたしの言葉にすかさず反応する月詩ちゃん。きっと、地元の郷土料理に誇りを持ってるんだと分かる解説を始めた。
「でも、やっぱりうどんの麺はコシがあって、口の中で咀嚼するとブチンブチン! と切れて、飲み込んだ時のゴッソリ流れていく喉越しが最高なんです!」
何となく調子が出てきた月詩ちゃんを眺めて、あたしは頷いた。
「うん、そうだね。あたしも讃岐うどんは好きだよ。ただ、北九州で生まれ北九州で育った者は、このうどんの柔らかさに洗脳されまくってるからね。それはそれ、これはこれの割り切りが出来ちゃってんだよね」
そう言われた月詩ちゃんはキョトン顔になった後で再びうどんを啜って咀嚼し始め、そっと目を瞑って暫し。
徐々に満足気な表情に変わって言葉を出した。
「そっか……そうだね。このうどんは福岡県のうどんなんだって思って食べたらとっても美味しいな。私、うどんは香川県のものが全て正しいって思ってたけど……そうだよね、ご当地料理って何処も違うから面白くて美味しいんだね」
すると、あたしの横でリゾットを掬っていた歌音ちゃんが声を出した。
「ねぇ神凪さん、私のリゾットと、そのうどんシェアしない? 私も食べてみたいな」
「うんっ!」と、楽しげに月詩ちゃんはどんぶりを差し出し、歌音ちゃんはリゾットを交換してスープをひと啜りして目を見開く。
「お〜〜〜いしぃ! あま〜〜〜い!」
と言って、ウットリとしながら満足気に麺を啜る歌音ちゃん。
「わぁ、本当に柔らかくてモチモチしてて、それにこのスープが程よく絡んでて。お肉の破片がちょこっと付いてるのがまた甘味を引き立たせてくれて本当に美味しいねぇ」
そう言いながら、落ちそうな頬を持ち上げるように左手を頬に当てて満足顔。
いやぁ、都会の食リポは一
あたしがそう言うと、2人とも楽しげにクスクスと笑いだし、そしてあたしはもう一声出した。
「そこは『うまい』って言ってくれなきゃね」
すると、2人は直ぐに揃って「「上手い」」と言ってくれた。
「旨いだけにね!」と言って、ウインクを飛ばすと、2人ともいい笑顔見せてくれる。
やっぱり食事は大人数で楽しくなきゃね。
月詩ちゃんも元気を取り戻してくれたし、気軽に話せそうな子達と会えてあたしも嬉しいし。
一石二鳥、めでたしめでたし!
あたし達はその後、20分かけてランチを終わらせた。
今現在は娯楽スペースに紅茶を持っていき、4人用の丸テーブルに腰掛けて次の試験の予習をしながらお話をしている。
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