2-4.

「はぇ?」と、間抜けな声を漏らしたあたしの様子を見たその子。達成感たっぷりの表情に変わって踵を返し、トテトテと去って行った。



 いや……えっとぉ……


 どちら様の何子ちゃんなのかなぁ……


 今度は負けないって……


 あたし達初めて会ったよねぇ……



 いやはや、たった3人しか話してないけど、なんならあたしは殆ど話してないけど。それに真中とも会話は成立していないけど……


 とにかく個性の強そうな子達ばかりだなと思っていると、またまたあたしの目の前に1人の女生徒が立った。次こそあたしも声を出そうと決意し、その彼女を眺める。


 さっきまでの3人よりも背は低く、腰上までのロングヘアーでクリっとした目と形の整った鼻。ちょっとぷっくりした唇が小顔にバランスよく配置されている。


 薄いグレーのブレザーの上に、淡いレモンイエローのカーディガンを羽織って、赤とグレーのチェックのスカートがアイドルっぽさを醸し出していた。



 うん……いい!



 こちらも、あたし好みの美少女が顔を高揚させて声を出してくる。


「あの……神之原志乃さんですよね……初めまして。私、東京の奥多摩聖心学園から来ました神楽坂歌音かぐらざかかのんって言います。よろしくお願いします」


 と言って、深々とお辞儀をされた。


「いえいえ、こちらこそ」


 つられてあたしも深々とお辞儀し、双方姿勢を戻したところで神楽坂さんは言ってくる。


「歌音でいいです……えっと、歌音って呼んでください。あの……私の家族は大の『神之原』ファンで、私もファンで。その……アリシアに行って神之原さんに合ったら写メを送ってくれって言われてて……あの、私と撮ってくれますか?」


 と、高揚した顔で上目遣いに言われてしまった。



 グハッ!!!



 こいつぁ久々に理性を吹っ飛ばされちまいそうぢゃねぇか。


 まさに、欲望が「こんにちは」と言ってヒョッコリ顔を出す手前で理性を羽交い締めにし、何とか正気を保ちながら答える。


「いや……まぁいいけどぉ」



 どことなく声が上擦ってしまった。



 下心丸出しでニマニマしそうな顔を誤魔化す様に、あたしは右手で後頭部を掻きながら天井を仰ぎ見る。


 そんなあたしを見た歌音ちゃんはパァッと笑顔になって、後ろ手に用意していたスマホを引き寄せた。


 2人寄り添いあって何枚も自撮りし、近くに立っていた女生徒にスマホを渡して縦画面で撮影してもらったり。


 最後にはあたしひとりでの撮影になり、たっぷり5分間の撮影タイムの後に解放された。



「有難うございます!」


 そう言って、深々とお礼をした歌音ちゃんは踵を返し、歩きスマホで画面みながらニコニコと遠ざかって行った。



 いや……


 撮影だけッスか? そんだけっスか? 他に世間話とか無いの?


 なんだろう……あたしってなんだろう……



 呆然しつつ、去りゆく歌音ちゃんを眺める。


 でもあの子……


 何となく、言葉遣いと仕草に無理があなぁっと思っていると、ロビー内に突然チャイムが鳴り響いた。



 その後、2階の大フロアで説明会を開くとの放送が流れ、ロビーにいた女生徒と2階に向かう。ただ、何故かあたしの周りの半径3メートルには誰も近寄らなかった。


 苦笑いのまま大フロアに到着し、数字の割り振られた個別の机に各々が移動して腰掛ける。


「いや、奇遇だな。神之原さんの隣の席になるとは光栄だ。暫くの間宜しく頼む」


 と言って真中が声を掛けてきた。


「志乃でいいよ」と言うと、真中は両手を横に広げて肩を竦めながら言ってくる。


「恐れ多いな。だがしかし、そうさせて頂こう。あまりかしこまった呼び方は性にあわないものでな」


 そう言って居住まいを正し、正面を向いた。何故なら、大フロアに黒いタイトなビジネススーツを着たふたりの女性が現れたから。


 そして、あたし達の正面に備えられている横に広い机の前に移動して此方に向き直った。


 あたしも背筋を伸ばし、ふたりの方向に視線を向けること暫し。ふたりのうちのひとりがマイクを調整してから声を出した。



「えぇ……本日、『私立アリシア魔法学園』の魔力測定試験に参加される皆様、おはようございます。並びに本学園入学、誠におめでとうございます。私、本日より4日間行われる、新入生魔力測定試験説明会の司会進行役、『私立アリシア魔法学園』事務局職員、田代妙子たしろたえこと申します」


「本日はよろしくお願いします」と言って、司会進行役の田代さんは一礼した。


 これから1時間後にある学科試験の説明と試験会場、昼食時の食堂やリラクゼーションルームの説明を終えて一礼し、マイクの置かれた場所からけた。


 次に、もうひとりの女性がマイクの前に立ち言葉を出す。


「本日、『私立アリシア魔法学園』の魔力測定試験に参加される皆様、おはようございます。並びに本学園入学、誠におめでとうございます。私、当寄宿舎の説明をさせて頂く『私立アリシア魔法学園』施設担当部職員、山部由加里やまべゆかりと申します」


 そう言って深々と一礼。学科試験後の宿泊施設の説明や、その他施設の利用方法、利用時間等の説明した後に一礼をしてマイク前から退く。


 そして再び事務局職員の田辺さんがマイクの前に立ち、試験会場と試験者番号を読み上げた。



 この寄宿舎に集まってきた新入生は女子のみ240人で、1会場に40人が、6会場で学科試験が行われるらしい。


 ただ、この『私立アリシア魔法学園』は、共学にも関わらず今のところ男子の姿を見ていない。まぁそれも当然で、男子用の寄宿舎はここより峠道を10分程進んだ奥にある。


 今日の学科適正試験と明日の基礎体力測定は別個に行われ、明後日の魔力測定は男女合同で行われるそうで。その日に初顔合わせとなるようだ。


 要らないイベントだなと思っていると、隣に座る真中が「ふんっ!」と鼻を鳴らして言ってくる。


「学園側も随分と無駄な事をするものだ。こうして男女別の施設が有るのだから、日程をズラして魔力測定をすればいいものを。何故に合同でやらねばならんのか、理解に苦しむな。志乃もそうは思わないか?」


 っと振られ、あたしは机に立膝をつき顎を乗せてから答えた。


「そだねぇ、宿泊施設と身体測定の場所が違うのは当然だけど、魔力測定会場と日程が被ってるのは意味わかんないってとこで同意だね。アリシアって男子校と女子校に分けて別々の場所に校舎があるんだし。それに、交流なんてそんなに無いって言うじゃん。だったら合同で魔力測定なんか必要無くない?」


「全くだ」と言って、真中は腕組みをし、配布された日程表を睨みつけていた。



 それからあたし達は各々の試験会場に入り込み、午前中の2教科の試験を終わらせる。そして、今現在は寄宿舎の食堂でお昼のひと時を過ごしている。


 この寄宿舎の食堂は、ビュッフェスタイルになっていた。


 和洋折衷様々な料理が食堂の真ん中に陳列され、その周りに長テーブルが沢山並んでいる。


 多分300人は余裕入るであろう空間に、本日の試験に参加している全員が静かに食事をしていた。


 この寄宿舎の概要によると、この食堂は3階にあってフロアの半分は食堂が閉めている。


 後の半分は、調理室とフリースペースとなっていた。


 とりあえず、あたしはカツカレーを取り上る。それをトレイに乗せてドリンクコーナーに進むと、そこには一人の女生徒が空のカップを持ってウロウロと彷徨さまよっていた。

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