2-3.
なんだかモーセの十戒の如く、あたしの歩く先が開けていく。とにかくもう苦笑いしか出てこない。
これ、やっていけんのかなって思いつつ、あたしはロビーの奥の大きな窓の方に近寄って外を眺める。すると、そこには陸上競技場のようなトラックが視界に入ってきた。
その先は森の木々以外何も見えない。
そりゃぁ、あれだけの峠道を超えた山頂の施設に来たのだから当然だ。けど、年頃の女の子がこんな山の中での隔離生活ってどうなの? って思うし。
しかも、ここは寄宿舎で、アリシア学園自体がこれから更に奥にあるって……
凄くね!
コンビニのひとつでもないかな? って思いながら、窓の外を右に左に視線を巡らせる。しかし、目の前の陸上競技場のトラック以外は木々ばかり。
こんな環境で、あたしの置かれたこの状況。
ただでさえ甘やかして貰うのが大好物なあたしだけに、こいつぁいつホームシックにかかってもおかしく無い……
ナイナイ。
まぁ、そんな軟弱ハートだった方が楽なのかなぁって苦笑いしながら暫く外を眺めていた。
すると、突然後ろから話しかけられて振り向く。と、あたしよりも拳ひとつ背の高い女生徒が立っていた。
目尻がキュッと上がり、鼻筋は美しく整っている。少し薄い唇の端を上げ、髪の毛は腰まであって首筋は長い。
首元から下の真っ白なセーラー服が、その人全体の高貴さを漂わせている。が、出る所が出すぎているのかセーラー服の裾がお腹から少し離れているところが気になる。
まぁ、けしからんおっパイは置いといて。ショートボブなあたしから見れば羨ましいくらいのサラサラロングヘアーだ。
一目見てこの人は、人の上に立つことを運命づけられた存続だと思うほどのオーラを放っていた。
「君が天照院学園の神之原志乃さんかい?」
と、にこやかにファーストコンタクトをとり、そして自己紹介された。
「いきなり驚かせてすまない、わたしは神奈川県の
と言って右手を差し出し、握手を求めてきた。
「よろしく乃木さん」
そう言って、あたしも右手を出し互いに強めの握手交わす。と、「真中でいい」と言われて握手を解いた。
すると、乃木さ……真中は目を瞑りながらフッと笑って言葉を出す。
「なるほど、流石は『神之原』と言ったところだな。握手を交わしただけで隙の無い人間なんだと言うことはよく分かった。いや、別に試そうとした訳では無い。だが、前年度世界一の魔力スコアを出した人物に興味があった事は事実だ。それに、これから3年間は同じ学び舎で切磋琢磨する仲間として見知って貰おうと思っただけの事さ」
まぁ、ファーストコンタクトとして握手を交わすのは大事だ。その握手で相手の事が少しは把握できるのも頷ける。
現にこの乃木真中と言う人物、天照院学園時代には居なかった強さを感じた。
まさしく、只者では無いといったところだ。
ようやくこの寄宿舎に入ってまともに会話が出来る人物が現れたかと思い、ホッとした矢先だった。
真中の後ろから近づいてくる人物がいて、あたしと真中の前で立ち止まった。かと思えば鋭い目付きを、まるで見たものをナイフで切り刻むような表情を見せる。
ショートカットで紺色のブレザーに真っ白ブラウス、真っ赤なリボンは首元で崩している。
こちらも出る所は出ていて、胸元から括れた腰周りがハッキリ分かるくらいタイトな制服姿の女生徒。そんな彼女が腕組みをしてギョロリっと、あたしを見ながら言ってくる。
「貴様が神之原か……ふんっ! つまらんな。もっと猛々しい奴だと想像していたが……まぁいい。とりあえず今すぐ私と戦え」
っと、言ってきたが……
はぁ? 戦え? あたしが? 何でぇ?
そう思いつつ、キョトンとしながらその子を見ていると、真中が左手をあたしの前に出してから言った。
「待て
どうやらこの真中と彼女、響希とか言う女生徒は面識があるのだろう。その響希さんが真中に視線を向けて言葉を出した。
「真中か……ふんっ! 貴様もそれが目的で、こいつに近づいたのだろうが」
そう言って牙を剥く響希さんに対し、真中の方は大人の対応だった。
「だとしてもだ、いきなり戦いを申し込むのは筋違いもいい所だろう。まずは握手でもして、お互い名乗り合う事が先決じゃないのか?」
そんな真中の言葉に、響希さんは眉をギュッと釣り上げて反論する。
「くだらん、何が握手だ! 何が名乗りだ! そんなものは戦いの中で拳を交えれば分かると言うものだ! そんな馴れ合いをする為に私は此処に来た訳では無い!」
いやぁ……この子、ガチ戦闘民族だぁ……
こんな子、今まで見たことないし、天照院学園に居なかったから新鮮だわぁ。
「それにしてもだな……」とか、「貴様は甘すぎるのだ!」とか。あたしを他所に口論を始めた2人の声を聞きつけ、カウンターに居た一人の女性職員がこちらにやってきて声を出した。
「申し訳ありませんが、他の生徒さんもいらっしゃりますので、もう少し声のトーンを落としてお話出来ませんか?」
本当の大人が大人の対応をし、一瞬響希さんがそちらを睨むと、「ふんっ!」とそっぽを向いてあたし達から踵を返す。そして、2歩ほど離れてピタッと停止して声を出す。
「
っと言って歩き出し、暫くして姿が見えなくなった。
すると、真中があたしの隣で同じ方向を見ながら言ってくる。
「気にしないでやってくれ。あいつは斑鳩響希と言って、千葉の館山学園の異端児でな。あの様な態度しか取れないが、純粋に強さを求めているだけのヤツなんだ」
そう言って、ため息を吐く。
気にするなと言われても最初っから気にはしてないし、あまりお近づきにもなりたくない相手だなと思っている。と、真中は私に向き直って言葉を出した。
「さて、とりあえず私は失礼させて頂こう。少々気になる面々も居るようだし、少し声でも掛けておくとしよう。ではまた、試験ではお互い良い結果が出るといいな」
真中はそう言い残し、サッと手を挙げて去っていく。その後で数人の女生徒に声を掛けて握手を交わしていた。
人の上に立つ者はああでなくてはいけないんだろうなと、しみじみ感心するばかりだ。
そんな事を考えていると、あたしの後ろに誰かがやって来たのを感じた。今度はどんな野蛮人かなと思って振り返る。
そこには、あたしよりも若干背の低い女生徒が、こちらを睨みつけていた。
パッチリとした目元は少し下がり、小鼻は子猫のように可愛らしく、口元はキュッと真一文字に引き締めている。ただ、何故か決意の篭った表情をあたしに向けていた。
その子の制服は、ベージュを基調としたセーラー服。
さっきの2人ほどでは無いけど出る所はしっかりと出て、絞れるところはキュッと絞れていた。
腰下辺りまでのロングヘアーの、あたし好みの美少女が睨みつけてくるのが庇護欲を
うん……いい!
だがしかし、その子はあたしを可愛く睨みつけているだけでなかなか言葉を発しないでいた。
そろそろ痺れを切らして声を出そうとすると、ようやくこんな言葉を出してくる。
「こっこっ……今度こそ、負けません」
っと言って、自分の胸元に両手でグッと拳を作った。
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