2-2.
その後、30分くらいは街中を流れに沿って車は順調に走っていく。
郊外を抜けて田舎道に入り、竹の子で有名な
ギャギャギャギャャャーーーッ!!!
ボッフォォォォォーーーッ!!!
ギャギャギャギャギャッッッ!!!
「いぃぃぃっやっほぉぉぉいっ! この左カーブから右直角カーブを抜けての立ち上がりストレート! さぁいこぉーーーっ! スタビ強化したからアンダーなしでドリフト突入きっもちぃぃぃっ!!!」
ブッホォォォォォーーーーーンッッッ!!!
あたしのお母さんはユルフワ系の大人しめに見られがち。だけど、ひとたびハンドルを握ると高揚し過ぎてかなり残念な感じのスピード狂に変貌してしまう。
そうなってしまえば、話す口を閉じなければ突然のハンドル捌きで舌を噛んでしまうし。
だから、本当は乗りたくないんだけど暫くは乗り納めだからと思ってお願いした。そしてやっぱり後悔しています。
それでもまぁ、有難い事なのかどうなのか。お母さんの車は運転席と助手席はフルバケットとか言う、リクライニングすら出来ないシートが取り付けられていた。
身体をすっぽりとシートに納め、肩から太ももまでホールドされる椅子なもんだから、全身が揺れることはほぼ無くて済む。
それでも、右に左にエフティがカーブを駆け抜けるたびに、頭がカクカクと揺らされてしまう。
ついでに無茶苦茶乗り心地が悪いし。
そんな蛇行がたっぷり40分程続く。そろそろ身体の強ばりもマックスになりそうな、その時だった。
それまで背の高い木々しか無い山道だった景色からカーブの無くなった場所に出た途端のこと。
まるで、どこかのスタジアムにでも来たのかと思ってしまう程の広大な駐車場が現れた。その奥にはリゾート地に来たのかと思ってしまう程の、高級ホテルの様な建物が出現した。
思わず目を疑ってしまう。
唖然としながらその建物を見ていると、お母さんはゆっくりと駐車場に入って行きながら言ってくる。
「ほんとぉ……お母さんが言ってた通りぃ、綺麗になってるんだぁ。でもぉ、前の時の雰囲気もあって懐かしいぃかもぉ」
っと言いながら、建物の全貌が見えるスペースに車を停めた。
「ここがアリシアかぁ…おっきいなぁ」
っと、あたしが言うと、お母さんはクスクス笑いながら言ってくる。
「違うわよぉ、志乃ぉ。ここはあくまで訓練施設の寄宿舎なのよぉ。学園はここから更に奥にあるのぉ」
マジかぁ……
これ絶対に、小倉駅前のリーガーロイヤルホテル以上の大きさがあるんじゃないのぉ?
アリシアすげ〜〜〜っ!
あたしは助手席の窓から寄宿舎を眺めているんだけど、いやホントにマジ大きくて。
多分、奥行が100メートルはあるだろうし、横幅は20メートルくらいありそうだ。
高さまではわかんないけど、7階建ての高級ホテルにしか見えない。
車の中で寄宿舎の全貌を眺め、視線を寄宿舎の入口に戻す。と、寄宿舎前に横付けされた学園専用のバスが止まっているのが見えた。
そのバスからは見たことの無い制服を着た女の子が、キャリーケースを持って降りてくる。
そして寄宿舎を見上げ、ここからでも分かるくらい口をアングリ開けて驚いているようだ。
ただ、女生徒の姿はあっても保護者の姿は誰ひとり見えない。
まぁ魔力測定試験には新入生のみの参加だと、入学説明会で貰った資料に書いてあったし。
あたしは寄宿舎から振り返ると、お母さんは柔らかな笑顔でコクリと頷く。
シートベルトを外して車のドアを開け、シートにくい込んだお尻を抜き出して地面に足を付けて立ち上がる。
そのまま後ろに行ってトランクを開け、今日の為におばぁちゃんが用意してくれたラベンダー色のキャリーケースを持ち上げた。
手持ちのスライドバーを引っ張り上げてからトランクを閉める。そしてあたしは運転席の方に移動し、窓を開けて此方を見ていたお母さんに声をかけた。
「じゃあ、行ってくるね。色々落ち着いたらチャットするから」
すると、お母さんはあたしにウインクを飛ばして言ってくる。
「お母さんには後でいいからぁ、由乃にチャットしてあげてねぇ」
「了解っ!」と言って、あたしはお母さんに敬礼。
ふたりでクスクスッと笑いあった後、あたしは1歩車から下がる。すると、お母さんは左手をユルユルと振りながらゆっくりとエフティを走らせた始めた。
駐車場の出口まであたしも後を追うように歩く。お母さんのエフティが道路に出て帰り道の方に移動させてから一旦停止し、あたしに再び手を振ってから前に向き直る。
エフティはゆっくりと来た道を下って行き、最初のカーブを曲がる寸前。車の排気音がけたたましく鳴った後、一瞬で見えなくなった。
バォォォォォオォォォォォッッッ!!!
ギャギャギャギャギャッッッ!!!
ブッホォォォォォォンッッッ……
いや、飛ばしたかったんかぁいっ!
遠ざかっていく聞き慣れた排気音に、今頃お母さんは峠道をぶっ込んでるんだろうなぁと思いつつ、あたしは寄宿舎に身体を向けて「よしっ!」と、気合を入れて歩き始める。
寄宿舎の前では突然鳴り響いた爆音に驚いた女生徒数人が、お母さんのエフティの去って行った道路を見ていた。
「おはよぉ」と、5人くらいに声をかけ、あたしは寄宿舎に入り込む。
すると、そこには本当に、ホテルのロビーなのではないかと思ってしまう程の光景が視覚に飛び込んでくる。
しかも、そのロビーの様な場所は吹き抜けで天井が高い。多分3階建てアパートくらいの高さの開放感があり、その広さは教室3つ分は有りそうだ。
その空間にはホテルなんかに有りそうな、ソファやテーブルは見られなかった。
見たことの無い様々な制服を来た女生徒が大勢キャリーケースやボストンバッグを足元に置き、誰とも話さずに紙の資料を見たりスマホを弄ったり。
あたしは入口の前で右から左に視線を巡らせた。
すると、左端の方に『魔力測定試験受付』と印刷された紙を貼り付けているボードを見つける。そして、そちらの方にキャリーケースを引き連れながら移動。
同級生になるであろう面々を眺めながら移動すること暫し。ホテルのカウンターと言った方がいい所で横に5人ほど並んだ職員の、1番右側の女性に声を出した。
「私立天照院学園から入学致します、神之原志乃です」と言って、魔力測定試験表を差し出す。
するとロビーの方から突然ざわめきが起こり、声をかけられた女性職員も目を見開いてあたしを見つめた。
えっ? えっ!? えっ!?!?
何? なに?? ナニ???
あたし何か変なこと言っちゃった? 卒業した学園と自分の名前を言っただけだよね? それ以外、何か失礼なこと言っちゃったのっ!?
あたしは視線をロビーの方に向けると、あたしの声が聞こえたであろう30人くらいの視線とぶつかった。だけど、何故かその全員が頬を染めてフイッと視線を逸らす。
いや何その反応? おかしくない? 何か変なの着いてたら教えて欲しいんだけど!
すると、ようやく女性職員があたしに声を出した。あたしもそちらに向き直るも、こちらも何故か頬を染めていて視線を合わせてくれない。
「あっ……はい、あの……天照院学園の神之原志乃さんですね。えと……あ……はい、試験番号1番……確認致しました。本日の試験対象者が揃い次第説明会を行いますので、暫くはロビーでお待ち下さい」
と言われ、試験表と資料の入った分厚い封筒を頂いた。
「有難うございます」と言うと、何故か受付の女性は顔を真っ赤にして視線を落としたまま、か細く言葉を出した。
「いえ……こちらこそ有難うございます……」
いや何でお礼? あたし何かいい事した? ちょっと意味分かんない!
何となく脱力しながらも踵を返し、そのままロビーの奥に進もうとキャリーケースを引き連れて移動を始める。
ただ、何故かあたしが向かっていく方向の女生徒達は頬を赤く染めたまま視線を逸らす。そして、そしてスススッ両脇へと避けていく。
えぇぇぇぇっ……何? これってイジメ? まだ話したこともない子達に何であたし避けられるのぉ?
マジかぁ………
なんか話しかけ辛いじゃんか……
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