第2章:寄宿舎

2-1.

 翌日は、朝5時50分に由乃と同時に起床。『神之原家』恒例の、朝のお参りをするべく由乃と身支度を整える。


 と言っても、由乃の衣類全般はあたしの部屋にある。そもそも由乃の着衣は靴下と下着以外はあたしのお古だから、部屋に戻って着替えることはない。


 一緒に着替え、洗面所で一緒に歯を磨いて顔を洗う。



 いつも通りの朝の風景だ。



 そして、朝のお参りをする武道場(もはやアリーナ並の大きさ)までの通路を一緒に歩き、武道場の片隅にある神棚の前に座って『心経』を拝む。


 実はこの、『神之原家』恒例のお参りのおかげで、『神之原家』は世界屈指の魔力の使い手となって『悪魔』との戦いや、魔法武道競技会でトップの成績を収めていると言っても過言ではない。




 それではここで、ちょこっとだけ志乃ちゃんの『アルテミットGeweL講座』【魔力と神之原編】に、お付き合い下さい。


 この『闇の魔女』に呪われた世界には、『基本魔力』と『主要魔力』があります。


『基本魔力』とは、いわゆる生命エネルギー。


 女性の場合、『基本魔力』は産まれてから15歳の誕生日前まで、子宮に溜まり続けます。


 そして、誕生日当日の『解縛式』で、『プニッシュ』と言う神具を女の子のエチエチな部分から体内に挿し込み、子宮に溜まり続けた『基本魔力』を体内に押し出します。


 以降、減ることはありません。けど、定期的に(若い頃はほぼ毎日)『プニッシュ』で循環させなければ魔力が濁ってしまい、体調を悪くしてしまいます。


 男性の場合は15歳の誕生日前後の満月の夜に『基本魔力』が筋肉に宿ります。


 それ以降は、常に筋肉を鍛えなければどんどんと減ってきますけど、過度に筋肉を付けても『基本魔力』量は変わらないみたいですね。


『基本魔力』には属性というものがあります。それぞれの属性に合ったリラックス方で心身を落ち着かせる事が出来ますが、その辺はまた後ほど説明すると致します。


 属性は、地(橙)・水(青)・火(赤)・風(緑)・音(紺)・光(金)・闇(紫)の7属性と色があり、女性の場合は『解縛式』で使用した『プニッシュ』に属性の色が定着します。


『プニッシュ』云々うんぬんも、後ほどと言うことで。


 次に『主要魔力』とは、大気中に漂う自然魔力です。


 この世界に無限に存在する自然エネルギーで、いわゆる『攻撃魔力』と呼ばれています。


 主に、体表に纏わせ身体強化魔法として格闘に使用し、とどめとして放出魔法に転換してド派手に決める魔力ですね。


 こちらも7属性7色、火(赤)・水(青)・風(緑)・雷(黄)・地(橙)・光(金)・闇(紫)と、ありますが『基本魔力』とは全く異なります。


 そして実は、『神之原家』は、この2つの魔力以外の生体エネルギーである『気』を、自在にコントロールをする事に長けた一族なのでして。


 それは何故かと言われたら、『神之原家』は代々、毎朝『心経』を、30分で30回を拝む事を日課としています。


 その30回中に、『丹田』という場所から『気』を体内に巡らせて身体の隅々に行き渡らせます。さらに体内に巡らせた『気』を丹田に戻す。を、繰り返す。


 これを幼少期から日課にする事により戦闘時や試合時に『気』を自在に操ることで、『主要魔力』を増幅させる事が出来るのです。


 神之原家初代当主が神社の巫女さんだったから、神様的何かがあるのかは定かでは有りませんが、無きにしも非ず………かもね!


 とは、おばぁちゃん談。


 ただ、あたしの場合は『神之原家』でも希少な『プリービアン』(前世の記憶)という能力に、13歳の誕生日の朝に突然目覚めました。その為に、他の家族とはちょっと異色でして。


 初代からお母さんまで14代続く当主の中で、この『プリービアン』の能力に目覚めたのは、あたしを含め3人だけだとか。



『魔力』や『幻獣』には無縁だった、前時代の文明に生きていた前世のあたしは男性でして。


 その時代では、あたしは神道系の教会に通っていたらしく、毎日『心経』を拝んでいたようで。



 しかも100回も。



 その習慣を受け継いだ為に、あたしは我が家族の面々よりも同じ時間で3倍の回数『心経』を拝めるようになってしまいまして。


 結果、その日からあたしは長い月日『心経』を拝んでいる、おばぁちゃんやお母さん並に『気』を操れるようになったのです。


 ちなみに、同じ『プリービアン』であるおばぁちゃんは、前世で武道家だったらしい。その為に『精神統一法』を13歳の誕生日の朝に、突然身につけたとのこと。


 まぁその『精神統一法』で編みでした技が、一瞬で魔力をMAX状態に持っていけるというもので。


 どんなに凶悪な『悪魔』だろうと、どんな魔法競技大会であろうと『秒』で相手を倒す程の威力なのです。



 その戦い方が強力過ぎて、鮮やかすぎて。



 世界では『セク・フィニッシャー・シャミン』と言う通り名を持って、未だに英雄として超超超有名なのです。


 技名は確か、『乗っけっからクライマックス』とかで。


 ただ、おばぁちゃんの人生の中で唯一『秒』で勝負が着かなかった相手が、お母さんだけだったとか。



 それでも1分3秒でケリを付けたとかで。



 そんなこともあり、おばぁちゃんはお母さんに当主を譲ることになった、とのことです。


 っと言うわけで、ちょこっとだけ志乃ちゃんのアルテミットGeweL講座【魔力と神之原編】を終わらせまして本編に戻りましょう。




 そんな、『神之原家』の毎日のルーティーンを終えて、武道場の横のトレーニングルームでストレッチをしてから朝食を済ませた。



 いよいよアリシア学園に向かうべく、あたしは天照院学園時代の制服に袖を通して我が家の玄関を出た。


 門扉の前で振り返って、15年慣れ親しんだ実家をしげしげと眺める。


 我が家は今どきの2階建て住宅とは違い、広大な武道場の裏に立てられた今どき珍しい平屋建てだ。


 とは言え、近代的設計で周りの家並みにも違和感が無い。


 次に帰ってくる時は、17歳の9月かぁ……


 そう感慨深く思っていると、玄関から寂しげな顔をした由乃がこちらを見ながら手をユルユルと振っているのに気付く。


 朝起きてから玄関を出るまで片時も離れなかった由乃。今は5メートル先に立っていて、泣きそうな表情をあたしに向けている。



 全く……



 昨日も今日も毎日チャットや写メも送りあったり、週に最低2回は電話をしようと約束したのに。



 仕方ないなぁ……



 あたしはひとつ、「ハァァァッ……」と、息を吐いて由乃を見つめる。そして持っていた手荷物を足元に置いて、バッと両手を大きく広げてニカッと笑う。


 すると、対面の由乃が両目から涙をポロポロと零した。それでも満面の笑みを浮かべて突進してくる。


「わぁ〜〜〜いっ! しぃちゃん大大大大大だぁ〜〜〜い好きぃぃぃぃっ!!!」


 突撃して来た由乃を抱き止める。と、最愛の妹に『志乃吸い』という神之原一族の謎の行為で志乃分(栄養分)をたっぷり吸われてしまった。



 こうして、あたしはお母さんの愛車、真っ白なエフティに乗り込んだ。


 見送りに来たおばぁちゃんとお父さんに手を振り、由乃に片手でハイタッチ。その後、お母さんはゆっくりと車を走らせる。


 後ろを振り返ると、由乃が両手をブンブンと振る姿が遠のいていく。あたしも由乃の姿が見えなくなるまで手を振り続けるのだった。


 やがて、エフティは左に曲がり、由乃の姿が完全に見えなくなってあたしは正面に向き直る。と、お母さんから無言でハンカチを手渡される。



 母親スキルがとっても有難い。



 あたしはそのハンカチを受け取り、グッと目元に押し当てて涙を拭った。


 あたしだって、あれだけ愛情を一直線で向けてくれる妹と離ればなれになるのはつらい。


 でも、そんな由乃に成長した姿を見せてあげるためには泣いてばかりも居られないし、甘えてばかりも居られない。


 お母さんもそれを分かったうえで、無言でハンカチを渡してくれたのだ。


 あたしはハンカチを膝元に置き、両手で頬をパンパンッと強めに叩いて前を見据えた。


 絶対に今以上のあたしになって実家に帰り、立派になったあたしの養分を由乃に要らないと言うまで吸わせてあげようと決意する。


 あたしはまだ見ぬ『私立アリシア魔法学園』に闘志をメラメラと燃やしていると、運転しているお母さんがフワフワな感じで言ってきた。


「ふふふっ、いい顔になったわねぇ志乃ぉ。志乃ならきっと大丈夫だからぁ、頑張ってねぇ」


 なんとも闘志の抜ける言い方だけど、そんな通常運転な話し方がお母さんらしくてすっごく落ち着く。


「うんっ!」と返事をし、あたしはハンカチを返そうとして少し、考える。



 考えて考えて考える。



「ねぇお母さん、このハンカチお守りとして貰ってくね」


 っと言って、丁寧に畳んで上着の内ポケットに入れ込んだ。「いいわよぉ」と、此方を見ずにそう言って微笑んでくれるお母さんだった。

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