1-3.
そう言いながら左側から抱きついてくる由乃。そんな妹に、あたしは左腕を伸ばして腕枕をしてあげてた。
「でも、ゆぅちゃんだってアリシアに行くんでしょ? だったらまた一緒になれるじゃん」
まだ『解縛式』も終わってない由乃だから、『基本魔力』の数値も初期魔力スコアも無いんだけど。
それでも現在の身体能力や成績を考えれば、アリシアからの推薦は間違いないと言われている。
「でもさぁ、後2年もあるじゃん。2年も待たされてたった1年しか同じ学園に居られないなんてつまんないし。飛び級で入学させて欲しいんだけどぉ」
と言って、口を尖らせる。
この愛情、いつまであたしに向けてくれるのかなって思いながら足元の布団を持ち上げた。
実は由乃、布団にくるまると寝落ちしたんじゃないかと思うくらいに寝つきがいい。だから、お話している時は掛布団を足元に下げている。
話をしている時は興奮していて、そんな由乃も今では眠そうに目元をトロンとさせていた。
そろそろ限界を感じ、あたしはもう眠らせてあげようと思ったのだ。
掛布団をいよいよ肩まで上げようとしたところで、由乃が待ったをかけるように右手で布団を押さえて話し始める。
「ねぇしぃちゃん、しぃちゃんがアリシアに行ってもチャットしていい?」
眠そうな目であたしを見ながらそう言う由乃に、あたしは微笑みながら答えた。
「もちろんいいよ、あたしも楽しみにしてる」
そう言うと、眠そうな目でニッコリと微笑んで言ってくる。
「やった! それじゃあ毎日200往復しようね」
いや、多いでしょ! それ!
そう突っ込むと、由乃は残念そうに「じゃあ100往復」と、半分にしてくれた。
いや、それでも多いでしょうが!
それに、チャットと言えば天照院学園幼稚舎や初等部からの親友で、今年からアリシアと並ぶ三大魔法学園のひとつの青森県にある『私立稲葉白兎学園』に行った、みゅうみゅうとリカリぃ。
そして三重県にある、『聖シルフィーエルス魔法学園』に行った、永愛ちゃんとルナっち。
それぞれ、グルチャは毎日欠かさずにやろうって事になってるし。
あたしがそう言うと、由乃はジト目をくれて短く言った。
「そっちは無視していいから」
いや、よかねぇし!
あたしの突っ込みに口を尖らせる由乃だけど、毎日かならず30往復と写メを交換するってことで話はまとまった。そしてようやく掛布団を肩まで持ってくる。
すると、本当に不思議な事に、由乃の
「しぃちゃん…寂しいよぉ…絶対写メしてねぇ…しぃちゃん…風邪ひかないでねぇ………しぃちゃん………しぃちゃん………おやすみぃ……………しぃちゃん……………寂しい……よぉ……」
と言って、頬から涙を零して眠りについた。
あたしはパジャマの裾で由乃の涙を拭いながら、これまでの短い人生を振り返る。
物心ついた時から、あたしにはおばぁちゃんがいておじぃちゃんがいて両親がいた。
そして兄が2人いて、赤ん坊だった妹がいた。
おじぃちゃんは、もう亡くなったけど。
とても明るくて楽しい家族で、その頃からおばぁちゃんやお母さんは超有名人。
我が家、『神之原家』は世界屈指の魔力を持つ一族だ。
この世界の大地に溶け込んだ『幻獣』から湧き出る『悪魔』討伐。その最高ランクに位置付けられる特急危険地帯で第一線に立つ一族であり、その歴史も長い。
初代は、約350年前に湧き出した巨大な『悪魔』が出現したと同時に、強力な魔力を覚醒させた7人のうちのひとり。元は地元の神社で巫女をしていたらしい。
巨大な『悪魔』討伐以降、勇者として扱われるも、凶悪になっていく『悪魔』に対抗するべく育成施設の設立に尽力したとの事。
また、独自に『神之原流体式術』を立ち上げて初代を表明。次世代の討伐者育成に尽力しつつ、自らも最前線に立ったらしい。
その血はそれ以降、現在まで受け継がれている。
13代目のおばぁちゃんも、14代目のお母さんも時折『世界魔法統括機構』からの依頼で世界各地の特急危険区域と呼ばれる場所に出向く。
そこで『悪魔』討伐の活躍をメディアで中継されるものだから、『神之原』の知名度は世界規模なのだ。
あたしも幼少の頃から、いつかはおばぁちゃんやお母さんみたいに活躍してやる! と、テレビ越しの2人を見ながら意気込んでいた記憶がある。
天照院学園の幼稚舎に入って友達も出来た。
家が造り酒屋で、天真爛漫な元気っ子のルナっち。
国際警察のお偉いさんの両親を持つ、頭脳派なみゅうみゅう。
資産家で高魔力の名家、白鳥家の超セレブなお嬢様のリカリぃ。
個性の強い4人でいつも一緒に遊んでいた。
幼稚舎に入園した頃の由乃を皆んなに紹介したけど、何故かその3人とはソリが合わなかった。
3人を家に招いても頬をぷっくりと膨らませ、まるでハリセンボンのようにツンケンと接していたのを思い出す。
あたしは、左横で抱きついて眠る由乃を眺めながら、少し微笑んだ。
初等部の2年生の頃に転入し、誰とも話さずいつも1人で俯いてた
そんな彼女の手を引っ張って、永愛ちゃん家が目の前のルナっちの元に連れて行った。
それ以降ボクっ子で男嫌いな永愛ちゃんを含めた5人組となって、中等部卒業までずっと一緒に行動して来た。
13歳の誕生日の朝、あたしは突然前世の記憶に目覚めた。後に『プリービアン(前世の記憶に目覚めた者)』と呼ばれる、『神之原家』でも数人しか覚醒してない能力を得た。
とは言え、その能力は魔力がどうのでは無い。前世で長く続けていた習慣みたいなものを受け継いだって事だけど、その習慣を魔力に転換して歴代の当主は更なる魔力の上昇を果たしたらしい。
『プリービアン』の事も、いずれまたと言うことで。
そして、中等部3年生の時には親友達と絆を深める出来事がいっぱいあった。
その4人も今は地元を離れ、新たな学舎へと向かって行った。離れてもグルチャは毎日送ろうと約束したのは、つい最近の事だ。
自室に戻る前にもグルチャを交わすと、写メまで送ってくれた。
そしていよいよ明日、あたしが『私立アリシア魔法学園』に出発する。
まだ15歳のあたしだけど、たったこれだけの人生で本当に色んな人に出会った。喜びも悲しみも喧嘩もしたし、泣き笑いもした。
色んな人に支えられて、ここまで来れたことには、本当に感謝でしかない。
あたしは明日、実家を離れてアリシア学園で新たに出会う仲間と共に切磋琢磨の日々が始まる。
いずれはおばぁちゃんやお母さんのような立派な『悪魔』討伐者になる夢を果たす為の、最初の舞台に立てる。
きっと、これまでのようなヌクヌクした生活とは無縁な学園生活が待っているのだろうと思う。それに、一日の疲れを癒してくれる家族がいる訳でもない。
学園内ではハッキリとしたランク付けが行われている為に、気を抜く事も出来ないと聞いているし。
アリシア学園もまた、日本三大魔法学園のひとつだから、全国屈指の魔力スコアを持つ生徒が集う場所。だから、全く油断出来ない所だとも聞いた。
あたしは顎にかかる由乃の寝息を感じながら、離ればなれになる最愛の妹を眺める。
おもむろに額にチュッとキスをして微笑み、そして天井を見て深く息を吐いた。
次にこの家に帰ってくる時は今よりも、もっと成長した姿を家族に見せなければと決意を新たにし、あたしはゆっくりと目を閉じる。
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