5 初めての朝/トパーズ
「にゃーん……にゃあぁぁ……。ペロッ……」
柔らかい肉球で頭を揺すぶられる。
ざらざらの舌で口元を舐められる。
目が覚めた時にはもう、ルビィは元のサイズに戻っていた。
時間制限があるのかな? それとも、自分の意思で戻れるのか……。
ぼんやり考えながら洞窟を出ると、外はすっかり明るくなっていた。
川で顔を洗い、ついでに山菜を採ってくる。
ほとんど炭になっていたかまどに枯れ木を足し、ちゃんと火を起こす。
手際よく作業を進めて、昨日の夜と同じメニューで朝食を済ませた。
「それじゃあ、そろそろ——」
——ピーゥ! ピーゥピーゥ……。
聞き覚えのある鳥の声が、遙か上空から聞こえてくる。
見上げると予想通り、鷲がどこかに飛んでいくところだった。
鷲もかっこいいなぁ……。昨日も見たし、今なら……。
「ルビィ……。悪いけど、ちょっと待っててもらえる?」
「ふにゃあぁぁ……」
しっかり干し肉を食べて満足したのか、ルビィは大きなあくびをすると、そのまま、日当たりの良い石の上で丸くなった。
リュックの底から粘土を取り出し、少しだけちぎって大きくする。
まずは瓜のような形の身体をつくり、太めの脚を付けて地面に立たせる。
鋭い顔つき。閉じている姿からだと想像出来ないぐらい大きな翼。
羽は基本的に綺麗な茶色で、風切り羽はもう少し色が濃くて。翼の先端は白くなってて、尾羽は下から見ると、付け根の方が白くなってたっけ。
クチバシは明るい黄色で、先の方が黒くなってたはず。足も同じような感じだったかな?
直前に見た鷲の輪郭に、ずいぶん前に図鑑で見たイメージで肉付けする。
動物図鑑で見たのはイヌワシだったけど……。あっ、そうか。
ルビィだって尻尾が二本あるし、そのまま再現する必要はないのか。
だったら、いざという時には口から衝撃波を出して、翼を飛ばして護ってくれるような、すごい鳥に……。ゲームで見た鳥のイメージが混ざってる? これは流石にやりすぎかな。
最後に全体のサイズを調整し、何年も熟成させたウィスキーのような輝きの瞳を入れて、大鷲の塑像が完成した。
「うん、完璧。あとは……
「ピーゥ! ピーゥピーゥ」
鷲の頭に手をかざし、記憶に残っていたキーワードを唱える。
粘土で造った像がピカッと光り、鋭い鳴き声が聞こえてきた。
「おおぉぉぉ……。自分で言うのもなんだけど、かっこいいなぁ……」
「ピーッ! ピゥピゥピゥ……」
大きな鷲が自分の身体を確かめるように頭をキョロキョロ動かし、足や翼を動かしている。
精悍な表情。鋭いクチバシ。
広げた翼は端から端までで三メートルほどだろうか?
軽く羽ばたいただけで、身体がふわりと浮いた。
動きが落ち着いたところで肩を撫でてやると、僕の手に、鷲の方から頭をこすりつけてきた。
「お前の名前はトパーズだよ。ルビィとも、仲良くしてね」
「ピーゥ! ピーゥピーゥ」
「みゃあー!」
先輩になる白猫は、興味深そうにこっちを眺めていた。
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