4 初めての夜

 採れたてを料理したのがよかったのだろうか?

 調味料なしで茹でただけの山菜だったが、うっすら塩の利いた干し肉と一緒に食べると、思ってたより美味しかった。

 ある程度満腹になったところで、今度は寝る準備をはじめる。

 目当てにしていた洞窟は下が剥き出しの地面だったので、少しでもマシになるように乾いた葉っぱを集めてきた。

 すっかり日が落ちて、辺りが真っ暗になって困っていると、ルビィが魔法で足元を照らしてくれた。


 洞窟の奥で枯れ葉の上に寝転び、リュックから出した薄い毛布を被る。

 何も言わなくてもルビィは、胸元に飛び込んできた。

 おじいちゃんの家に泊まった時も、よく、猫と一緒に寝たっけ。

 小さい頃、山で一人で遊ぶのは珍しくなかったけど、こんな風に一人でキャンプをするのは初めてで……。キャンプと言うよりサバイバルかな?

 それでも、そんなに心細くないのは、ルビィが居てくれるおかげだな。

「ありがとうな、ルビィ」

「にゃあぁぁー……」

 小声で話しかけると、眠そうな声が返ってきた。


         ☆


 スマホが無いからわからないけど、三時間ぐらいは眠ったのかな?

 あまりの寒さに目が覚めた時、洞窟の外はまだ、真っ暗だった。

「ん〜……。思ってたより、ずっと……寒い、な……」

 頬に当たる空気が冷たい。

 靴を履いていても足先が凍える。

 山の冷え込みを舐めてた?

 今からもう一度、焚き火にあたって身体を温める?

 洞窟の前で火を起こせば……それはそれで、酸欠が怖そう。

 寝起きの頭でつらつらと考えていると、赤い瞳と目があった。

「ルビィも目が覚めたのか……。この寒さは……どうしよう……」

「にゃあっ」

「えっ……? 僕が、どうにか……?」

 寝起きとは思えないほどしっかりした表情。

 白猫の瞳は、何かを期待しているように見える。

「そういうこと、かな……? それじゃあ……『大きくなれ!』」

 ルビィの背中に手を乗せて、夢の中で綺麗なお姉さんに教えてもらったキーワードを唱える。

 すると、胸元で丸まっていた白猫がぐんぐん大きくなり、あっという間に僕を包み込むほどのサイズになった。

「ふみゃあぁぁぁ……」

「うわっ、んっ……。くすぐったいよ……あはっ……」

 ざらざらの舌で頬を舐められる。脚に脚が絡んでくる。

 太い腕を首元に回される。ふわふわの白い毛が暖かい。

 これはもう、猫じゃなくて……虎? 雪豹かな? 体重がかからないように気を使ってくれているのか、ルビィにのしかかられても苦しくなかった。


 それにしても……身体がここまで大きくなるって、質量保存の法則はどうなってるんだろう?

 確か、質量とエネルギーの変換は『いーいこーるえむしーにじょう』だから、ものすごいエネルギーを出して身体を作った? 魔法のある世界だし、そもそもの法則からして元の世界とは違うのかな……。

「助かったよ、ルビィ……」

 穏やかに脈打つ心臓の鼓動が伝わってくる。

 自分でもよくわからないことを考えながら、僕は再び眠りに落ちた。

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