3 初めてのキャンプ

 急な流れの先。滝壺は小さな池ぐらいのサイズがあり、そこから先は浅くて広くて緩やかな流れになっていた。

 大雨が降った時はもっと水かさが増すのだろう。

 川岸には角が取れて丸くなった石がいくつも転がってる。

「にゃーにゃー!」

「うん、気をつけるよ……。よっと」

 川の中にある岩をぴょんぴょん跳んで、ルビィがあっさり対岸へと降り立つ。

 山菜の入った鍋を持ったまま、僕も岩から岩へと慎重に渡る。

「それじゃあ、ここで一休みしようか」

「ふにゃぁ〜……」

 反対側の岸は、ちょっとした広場になっていた。

 山道を歩いてきて疲れたのか、ルビィは大きな石の上で丸くなってひなたぼっこしている。

 その横に荷物をおいて、僕は周囲を散策することにした。

 実は、川を渡っていた時から気になるところがあったんだよね……。


 剥き出しの岩肌。切り立つ崖。貼り付くように生えているツタや苔。

 広場を奥の方へと進み、崖の下にある大きな穴を観察する。

 大人が立って入れるぐらいの高さ。両手を広げても左右の壁に届かないぐらいの広さ。思っていたほど奥行きはなく、三メートルほど入ったところで行き止まりになっている。

 入口の向きの関係で湿った風が入らないのか、浅い洞窟の中は空気が乾燥していて過ごしやすそうだった。

「ダンジョンの入口かと思ったけど……違ったか。まぁ、でも、寝るにはぴったりの場所かな? ……あれっ?」

 洞窟から出てきたところで妙な物に気が付いた。

 ぐるっと円を描くように並んでいる石。

 使われているのはそこら辺に落ちている石だけど、ちゃんと高さが合うように重ねられていて、中に炭化した木の枝が残っている。

 これって……どう見てもかまどだよね?

 誰かがここで火を炊いて、暖を取ったのか料理でもしたのか。

 かまどの中をじっくり観察したが、そんなに最近の物じゃ無いってことしかわからなかった。


「いろいろ、気になるけど……。その前に、ご飯にしようか」

 森に入って、よく乾いた枯れ木を集めてくる。

 細い枝から太い枝へと順番に、かまどの中で重ねる。

 山菜を川でしっかり洗ってくる。

「あとは、枯れ葉に火を付ければ——火? ライター? あれっ?」

 リュックの中身を確認したが、火を点けるのに使えそうな物は入ってなかった。

 こういうときは、木を擦り合わせて火を起こすんだっけ?

 本で読んだだけだけど、あれってものすごく大変なんじゃ——

「にゃあー!」

 横から作業を見守っていたルビィが、いきなり可愛い声で鳴いた。

 次の瞬間。重ねた枝に火が点いて、勢いよく燃え上がる。

「うわっ! びっくりしたぁ……。お前、魔法が使えるの? だから、火を点ける道具が入ってなかったのかな」

 何故かルビィは視線を逸らし、もじもじと恥ずかしそうにしていた。


         ☆


 枯れ枝をナイフで削って箸を作る。

 皿の代わりに使えそうな大きな葉っぱを探してくる。

 太い枝に火が移って落ち着いたところで、かまどに鍋をかける。

 大きな塊の干し肉から、食べる分だけ切り分ける。

「干し肉は……鍋に入れないで、このまま食べた方が良いかな?」

「みゃあっ!」

 少しだけ齧って確認したが、濃い味付けがしてある訳でも無さそうだ。

 これなら、猫に食べさせても大丈夫かな?

 あとは……ネギとチョコレートが駄目って聞いた覚えがあるけど、山菜はわからないなぁ。

「山菜はちょっと待ってね。先に僕が食べて確認するから」

 薄く切った干し肉を、葉っぱにのせて出してやる。

 ルビィはためらうそぶりも見せずにかじりつき、美味しそうに食べていた。

 山に入れば山菜はいくらでもありそうだし、干し肉もこの調子なら数日は持ちそうだ。

 でも、いつまでもここでキャンプする訳にはいかないし……。明日は川沿いに山を下りて、村や町がないか探してみよう。


 森の奥で鳥が鳴いている。

 パチパチと薪が弾ける音が聞こえてくる。

 ぼんやり考え事をしながら視線を上げると、オレンジ色に染まった空を大きな鳥が飛んでいた。

「あれは……昼間にも見た鷲かな? 兎を咥えてるように見えたけど……。狩に成功して、あっちもこれから晩ご飯か」

「みゃあーみゃー!」

「足りなかった? ごめんごめん」

 僕は急いでナイフを手に取り、干し肉を薄く削いだ。

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