第3話 決別

こうなる事は事前に分かっていた。

《アカシックレコード》には宇宙の始まりから全てが記録されており、未来だって知る事が出きる。

僕の選択で未来を変える事だって出来るが、いや実際不慮の事故を避ける為いくつか未来を変えてきた。

未来を変えたら《アカシックレコード》でその後の未来を予測出来なくなるんじゃないか?という疑問もあったが、《アカシックレコード》は僕が本来とは違う選択をすることも全て把握していて、僕がAの選択をしたらAの未来、僕がBの選択をしたらBの未来と沢山のパラレルワールド(並行世界)が生み出されるのだ。

すでに僕が死んでしまった世界だって存在している。

僕がなぜ追放という過酷な未来を受け入れたかというと、公爵家に残るよりヘルボンの地へ追放される方が僕にとって最良の未来だからだ。

僕は父から渡された僅かな金をオイゲンに渡し旅の支度をするように指示する。


「ぼっちゃま…おいたわしゅうございます……」


オイゲンは涙を流して言う。


「爺、そんなに泣かないでくれ。いつかまた会えるさ」


そう言って別れを告げる。


「ぼっちゃま…せめて私を供にお連れ下さいませ」


「駄目だよ。父上は僕に一人で行けと言ったんだ。父上の命を破れば爺だってただじゃ済まないよ」


僕はオイゲンの手を握り、


「ありがとう。爺がいてくれたおかげで今日まで生きてこられた。感謝しているよ。本当にありがとう」


と言って自分の部屋を後にした。

屋敷を出る時、ふと見上げると屋敷の上階の部屋からこちらを見ている人影があった。

それは母だった。

母は泣いているのか肩を震わせていた。


「母様……今まで育ててくれて……愛してくれて……ありがとうございました」


そう言い残して屋敷を出た。

僕を見送りに来たものは誰もいない。

兄は僕をライバル視して僕には冷たい態度をとってきた。

下の弟や妹たちはそれぞれ違う教育係や乳母が付き、会うのは食事の時だけ。

食事中に会話をしようものなら父上から食事の時に無駄話をするなと叱責され、これまで兄弟と話した事すらない。

兄弟といっても僕にとっては他人同然の存在なのだ。

兄弟も同様に僕の事なんて気にもしていないだろう。

だから僕が屋敷を出るときだって見送りにくるはずもない。

心残りは僕に優しくしてくれた母と爺だけだった。


「さよなら…」


小さく呟いて屋敷に背を向けた。


「さぁ行くか!」


こうして僕はヘルボンの地へと独り旅立つのであった。

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