第18話 体育交流会開始!
体育交流会。
それは、大きい公営の運動施設を借り切ってのイベントだ。
何面もあるグラウンドに、体育館。そして、外のコート。
バレーなんだから室内かと思ったらとんでもない。外のバレーコートだった。いやまぁ競技するわけじゃないからそうだわな。そうですね。
ちょっぴり拗ねつつも、俺はバレーに挑む。
二週間みっちり特訓した成果! 今ここで見せてやる!
必殺っ! 超絶レシーブぅぅぅっ!
なんて、アホらしい中二病は発病していない。
ぽーんと山なりに飛んできたボールに狙いを定め、基本の姿勢できっちりと前にレシーブする。
地味だ。めっちゃ地味だ。
でも、これが思いのほか効果的だったりする。
「おっしゃあっ! ナイスレシーブっ!」
クラスメイトがそう言いながら、派手な動きでトスをあげる。なんて素晴らしい運動神経。ちょっとくれ。
「いくぞっ!」
その見事なトスをアタックするのは斉藤だ。
まぁテレビでしか見たことないような芸術的な跳躍と姿勢。そして恐ろしい速度のアタック。
もちろん素人のブロックの上で、当たり前のように地面へ突き刺さる。
間違いなく素人の動きじゃねぇ。
バレー部のインターハイとかでもフツーに通用するんじゃねぇかこれ。
神様、斉藤に才能を与えすぎではありませんか。
なんてちょっと恨んでる間にゲームセットだ。
「さすが斉藤だなっ! こっちのリーグトップだ!」
みんながはしゃいで斉藤を胴上げしてる中、俺も一応参加するフリ。
とりあえずこういう時は同調しろって教えてもらったんだ。マキから。
「挟間もナイスレシーブだったぞ!」
「お前バレーめっちゃうまいじゃん!」
「何回もファインプレーしてたしな!」
ついでに俺もなんか褒めてもらった。
悪い気はしない。ってここで「ふひっ」とか言って笑ったら全部台無しだから、俺は微笑むだけにしておいた。
それでもちょっとキモかったと思う。
ともあれ、だ。
残す競技はリレーだけだ。
もう一つの団体競技、大縄跳びはもう朝のうちにクリアしたので問題なし。っていってもまぁそんな何回も跳べなかったんだけどさ。
で、肝心の得点だけど……。
際どい。
俺たちのクラスは今三位。で、二位とは一点、一位とは三点差。で、このリレーで一位を取れば、大逆転ってヤツだ。
何それ責任重大すぎません?
まぁリレーは選抜メンバーだから俺には直接関係ないんだけど。
なので俺は選手を誘導する係だ。
本当は代表委員である斎藤の役目なんだけど、斎藤はリレーのアンカーである。
だから代役だ。
別にそれくらいなんでもない。バレーでもぶっちゃけレシーブ専門(しかも向こうから飛んでくる球に対して。俺からは取りに行かない)みたいなもんだったから、全然疲れてないんだよな。
運動音痴の役得である。
「うおおおおお、がんばれええええ!」
「一位取れよおおおおおお!」
「きゃーーーっ!」
うっわー、すげぇ声援。
こんなんモロに浴びたら俺気絶するわ。案内役なのになんかビリビリするもん。
で。案の定みんな緊張してるし。
まーそりゃそーなるわな。
リレーの選抜メンバーってことは、対抗戦でもがっつり頑張ってたはずだから疲れてるだろうに、この大一番だもんなー。
「よし、気張っていこう」
そんな緊張感を引き締めるように、斎藤が手を一度だけ叩く。
表情は真剣そのものだ。
俺はそれを横目にしつつ、一人ずつ配置していく。
リレーは四〇〇mを四人で走る形式だ。
で、当然アンカーの斎藤は最期なワケで、緊張もハンパじゃないんだろう。むしろ追い詰められているようにも、見える……? うん? ちょっと待て。
俺はふと斎藤の動きがおかしいことに気付いた。
いや、明らかに変だろ。
間違いなく右足を庇ってる。
っていうか、痛そうにしてるし、微妙に引きずってる。いやいやいやいやいや。これお前絶対ケガしてるだろどういうことだよ。
俺はすぐに斎藤へ近づいて耳打ちした。
「お前、その右足どうしたんだ」
一瞬で斎藤の表情が変化する。めっちゃ強張りやがった。いやいやいや。
「頼む。黙っててくれ」
「見せろ」
俺は半ば強引に斎藤の右足を見る。
ってなんですかこの足首は。
見事なまでにパンパンに腫れあがってますやん。こんなん下手したら思いっきり骨折してるやろってレベルやろ。絶対痛い。こんなんで走れるはずがない。
「こんなんで走れるわけないだろ、何考えてんだ」
「けど、このリレーで一位取らないといけないだろう」
「お前な……」
俺は呆れた。
こんなん、一歩でも本気で走ったら終わる。
「何やってんだよ、無茶って言葉を覚えろ」
「しかし、もう入場してしまったぞ。交代はできない」
むしろ、ここでケガしてるなんて言ったら棄権になってしまう。
そうなったら優勝はなくなるのは確実だ。
でも、ここで走らせても負けは確定だ。
俺は、大きい息を吐いた。
仕方ない。
俺は無言で斎藤のタスキを奪う。
「って、おい? 挟間くん!」
「俺が走る。そうしたら大丈夫だろ。お前、案内役しろ。代表委員だから別に問題ないだろ」
むしろ本来は代表委員の役割だからな。
「けど、君の足で勝てるはずないだろ。君は運動音痴なんだから」
「それでも今のお前よりかは速いよ」
ずばっと言うと、斎藤は声を詰まらせた。
それでも抵抗する感じだから、ちょっとだけ右足首に触る。
「……………………っ!」
激痛が走ったのだろう、斎藤は無言で呻く。
歩けてるのも奇跡ってレベルだろこれ。
俺はジト目で斎藤を睨んでから、仕方なくトラックへ向かう。予想通りクラスからはざわめきが聞こえてきた。
「挟間?」
「お、おい、なんで挟間が?」
「おい見ろ、斎藤の足がおかしいぞ。あれケガしてんじゃね?」
「うわ、マジかよ! おいおいおいおい!」
慌てまくるクラスメイトたち。
俺はとりあえず無視してぐっとストレッチ。俺の武器は瞬発力だけ。一気にトップスピードに乗って、根性でそのまま走り切る! それしかない!
なんて考えてると、パァン、と音がした。
一気に歓声が沸いて、リレーが始まる。
こうなるともう進行はあっという間だ。
我がクラスはめっちゃ頑張ってて、なんと一位争いをしている。うわー。いっそズタボロに負けててくれた方が良かったのに。
なんて一瞬でも思って、俺は切り払う。
やるからにゃ、本気でショ。
俺は息を整える。
大事なのはタイミングだ。バトンパスでミスるワケにはいかない。
「狭間、今だ!」
近寄ってくる足音。歓声。そして斉藤の合図。
俺は躊躇なく地面を蹴った。
「挟間ぁっ!」
息切れを起こしながら、クラスメイトが必死にバトンを伸ばしてくる。
俺はそれを受け取って――一気に加速!
俺の武器は瞬発力と柔軟性だ。
ちょっと無理っぽい体勢でも問題なしっ!
後はっ!
き・あ・い・だ・ああああああああああっ!
「ぬおおおおおおおおっ!」
俺は風になる。いや風になってお願い!
もう周囲なんてどうでもいい歓声も聞こえなくていいただ走れ走れ走れ走れっ!
足がなんだかガクつくような不穏な感じがするけど無視だ無視っ!
「んぎぎぎぎぎっ!」
意味わからん声が漏れる。
なのに、足音が近づいてくるってどういうことっ!
くっそ運動部マジチートだなっ!
息が切れてくる。
足が一気に重くなってくる。筋肉が悲鳴を上げて、動きが鈍くなってくる。
「う、ぜ、えええええええええっ!」
そんなもん、どっかいっちまえっ!
俺はただ走る。
何もかも忘れた。疲れも重みも痛みも全部ウソだ。全部。
だから、走れっ!
意識が遠のいた。
瞬間、わぁあ、と歓声が上がる。
抜かされたか? と思ったけど違った。
俺の胸にひっかかる、ゴールテープ。
おお、やったか。
どうやら一位を取ったらしい。
俺はへへ、と笑う。
そうすると力が抜けるもので、俺はあっという間につんのめった。
あ、やばっ!
頑張って減速するけど間に合わない。盛大にコケる! だっせぇっ!
「タクミっ!」
痛みに備えて目を閉じたときだった。
マキの声が、聞こえた。
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