第13話 文学部文芸部戦争2
「は、入らないって、どうして?」
思いっきり動揺したのは文芸部の部長の方だった。
まあそりゃそうか。
けどもう言っちゃったんだ。俺は続ける。もちろん二人を同時に睨みながら。
「そりゃそうでしょ。部活の見学に来たらなんか部長どうしが大喧嘩するって。フツーに引きます。文芸部にも文学部にも入る気なくしますって」
文学部っていうのも含めたことで、双子が同時に「「うっ」」と呻いた。
「し、しかしだな新入生それはっ!」
「そうよ、何よりこっちが……」
あーこれまた言い合いになるパターンだな。はいはい。
俺はまた睨みあう二人に咳払いを送る。
「大体ですね、二人の言い方ひどすぎますよ? 純文学だろうとラノベだろうと、どっちもそのジャンルで本気で書いてる人たちがいるじゃないですか。そういう人たちを丸ごと含めて否定してるってこと分かってます?」
「「えっ」」
「ラノベがダメとか文学がダメとか、そりゃイイことばっかじゃないけど、お互い様でしょそんなの。リスペクトするもんじゃないの? それをいちいちディスるって見てるこっちは怖いですよ」
ずばっと言うと、二人はさらに声を詰まらせる。
「あと、一般人からすると純文学だろうとラノベだろうと小説書いてる人です。そういうのでケンカとかしてると、内輪もめって感じがしてすっごい気分悪いです。まして自分のほうが優れてるとかどうとか、そんなの言われても知ったこっちゃないし、そんなんで周囲の気分を悪くさせるほうがどうなんだって思うんですけど」
必殺、陰キャだからこその正論攻撃っ!
こういうのは得意である。
マキの受け売りだけど、ほとんど。
とはいえ、この攻撃はかなり効果があったらしい。二人は意気消沈してがっかりと肩を落とした。
「なんで、そういうの止めて欲しいし、そういうの続けるって言うんだったら仮入部も何も二度とここには来ないんで。あと、クラスメイトとかみんなにも言いまくるんで」
「「それは困るっ!」」
「でも、事実だし。情報は共有しないと」
俺がそう言うと、二人はまた呻く。
しばらくお互い気まずそうにしつつ、ちらりと互いを見やった。
なんだこの子どもたちは。
本当にセンパイなんですかねぇ? っと、これを口にするとさすがにディスってんな。お口チャック。
黙りこんで様子を見ると、二人はため息をついた。
「まさか、新入生にこう諭されるとは。お互いまだまだのようだな」
「認めるのは業腹だけど、その通りね。認めるわ」
二人はなんかこう、殴り合いのケンカで引き分けてお互い認め合うような雰囲気を出していた。
いや、実際そうかも知れないけど。言葉でがっつり殴り合ってたし。
「じゃあ、そういうのはもう止めてもらえるってことで良いですか?」
「ああ、そうだ」
「お互い利益にならないし、認めないというのも狭量だからな」
ふっと悟ったように微笑みつつ、何故か二人がじわりと距離を詰めてくる。
あ、あれぇ?
なんか変な重圧を感じて後ろに下がると、どん、と壁にぶつかった。
い、いつの間に追い詰められていたんだ……っ!?
驚愕して後ろをちらりと見た瞬間だった。
どん、と、二人が同時に壁ドンしてくる。いやなんでやねん。
え、え、えっ?
激しい息遣いが聞こえてきて、二人は同時に俺の胸倉を掴んだ。
あ、これって。
思った矢先、甲高いファンファーレが鳴り響く。《ダブルパッションタイム》が発動した!
っておいマジかぁぁぁぁあっ!?
「はぁ、あぁ」
「新入生が、この上級生に向かって口ごたえしてくるとは……」
「私の心がきゅんきゅんしてしまったではないか」
いやあの、口を、息が、あの、そのっ!?
心臓が一気に高鳴る中、二人がいきなり脱ぎ始めるってここどこだと思ってんだまさかの野外プレイかっ!?
童貞の俺にはハードプレイすぎるっ!!!
しかも、しかも二人とっ……!?
「この火照り、新入生の初々しい身体で慰めてもらおうか」
「ああ、そうしよう、そうしよう」
こ、ここここれはテンションマックスだぁああああっ!?
ヤバい、絶対ヤバいっ!
逃げ道はどこにもない。いや、これは逃げなくていいのでは?
二人の魔の手が伸びてくる。
俺の服が脱がされて――
ばつんっ。
と、視界が暗転した。
あっはい。そうですよね。そうなりますよね。
スン、と俺は一気に気持ちが冷めていく。
一度だけまばたきすると、もう目の前には真っ白な空間が広がっていた。
俺は黙ってその場に正座する。
『えっと、ゲームオーバーだね』
戸惑ったように言ってくる天の声。
俺は真顔で上を向いた。
もはや表情が完全に消し去っている。
「あのですね。今回は弁解の余地とかそういうのじゃないと思うんですけど」
『あ、うん、そうだね』
天の声はどこか気まずそうだ。
もし顔があったら絶対顔をそらしてる。そんな感じがする。
ともあれ。
俺は今回、マキのために行動した。もちろん綾瀬ルカちゃんとか俺のためでもあるんだけど、マキが気まずい思いをしなくていいように、だ。
そしてあの二人を狙ってなんていなかった。
まさに今回は偶然の偶然である。
つまり、だ。
「完全に不可抗力だよね?」
『それはそうだけど』
「じゃあ童貞くらい捨てさせてくれてよくない????」
『それはダメです』
「鬼畜生めっ!」
俺は地面をたまらず殴った。
ふ、ふふ、ふざけんなああああああっ!
「てめぇ、どんだけ童貞を嬲ったら気が済むんだ……っ!」
『大丈夫? 雰囲気が劇画調になってるけど』
「ならいでかっ!」
『とにかく、あの二人が発情したってことは、何かあるんじゃないの?』
「んなこと言われてもだな……」
あの二人に見覚えなんて……――あったわ。
思い出した。
別のエロゲと期間限定オンラインイベントで攻略できるようになってたんだ。しかも二週間だけという短期間で一度しか行われなかった。
その中の双子だったな、そういえば。
二年も前だぞ、それ。もう覚えてねぇよ。つか、なんでそんな限定キャラがここにいるんだっ! この世界に実装されてんだよっ!
『何で血の涙をまた流してるのさ』
「もう二度と攻略できないと思ってたヒロイン二人とくっつきそびれたんだぞ。激レアキャラだぞ。ふざけんな」
『とりあえず良く分からないんだけど、他の女子とくっつくのはダメだよ。貞操ゆっるゆるじゃないの』
「おいふざけんな今回俺はなんの下心もなかったんだぞ襲われただけだぞ」
『それもそう、なんだよね……』
俺の反撃に、天の声も歯切れが悪い。
『まぁ、今回だけはサービスかな』
「ほう? つまりそれは?」
ガタっと立ち上がると、天の声がまた響いてくる。
『特別に無事に説得が終わった後ってことにしてあげる。もちろん何事もなく相手が引き下がるって感じで』
「おい、おいっ」
『何かな?』
「そこはお前俺にオイシイ思いをさせるのが筋ってもんじゃねぇんですかねぇ!」
『いやそれは無理だから。それとこれとは完全に別の話』
キッパリと言い切られ、俺はがっくりと肩を落とした。
お、おお、おおおおおん……。
『大丈夫大丈夫。いいことあるから、きっといつか』
「そのいいことを俺から奪った張本人が言うんじゃねえええええぇっ!」
『分かった分かった。じゃ特別ボーナスしてあげるから。それじゃ、やり直し頑張っておいで』
ぱちん、と指が鳴らされる。
またこの感覚か、と思いながら、俺は意識が遠くなるのを覚えた。
っていうか、特別ボーナスってなんだ?
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