第11話 部活何する?

 いやー、あれだ。やっちまいましたよ、私。家村マキ。

 タクミにラーメンを奢った後、私はまたもや自分の部屋に戻って悶えまくっていた。

 いや、なんで私あんなバカみたいな質問したのさ。

 もしそれでタクミがうんとか言っちゃったらどうするつもりだったのさ。

 絶対恥ずかしさに我慢できなくて無理とか言っちゃうだろ。

 なのになんで聞いちゃうのさ。

 いや、知りたいだけなんだろうけど。


「バカ。私のバカ」


 ベッドでちょっとだけ泣いて、私は気を持ち直す。

 あーでも上手く(かどうかはさておいて)誤魔化せて良かった。


「あ、そうだ」


 思い出して、私はスマホを取り出す。

 部活オリエンテーションでもらった資料を写真に撮って、タクミに送るためだ。


 何枚か送ると、返事がやってきた。


 《さんきゅ》

 《ここの学校、どっかに所属しないといけないみたいだよ》

 《そう言えばそうだったな》

 《どこ入るの?》

 《……帰宅部?》

 《ンな部活はない》


 私は即答する。

 分かってたけど何も考えてないんだよね。つまりこれってチャンスなのでは!


 《じゃあさ、文芸部はどうよ》

 《文芸部? 小説書く部活?》

 《うん。良いと思うんだけど》


 ああ、ドキドキする。


 《って言われても、俺は小説書いてないぞ》

 《大丈夫。文芸部には編集部員も募集してるから。タクミにはぴったりじゃない?》


 何せ私の作品を監修してくれてるからね。

 ちなみに編集としてのタクミの能力は私すごいと思ってる。誤字脱字の発見能力もそうだし、表現がおかしい部分とかの指摘も正確だ。

 書いてないとか言ってるけど、絶対書いてると思う。


 《いや、でも俺はラノベとか、ライト文芸くらいしか読まないぞ。純文学とか難しすぎて読んでも分からんし》

 《そこも大丈夫。文芸部はまさにラノベとかライト文芸だから。純文学とかそういう系は文学部になるみたいだし》


 部活オリエンテーションでも説明あったんだよね。

 もちろん私はラノベ書きなので文芸部しかない。他にも運動部からのお誘いはあったんだけど、ちょっと遠慮しておいた。 


 《うーん。とりあえず見学ってことでいい?》

 《うん。いいよー。じゃ、明日ね》

 《分かった》


 返事を受け取ってから、私はまたベッドにダイブした。

 だって、だって!

 コレ、部活デートってやつでは。いや部活デートってなんだ。まだ部活にも入ってないっていうのに。

 一人でツッコミを入れつつ、私は枕に顔をうずめた。



 ◇ ◇ ◇



 翌日の放課後。

 俺は早速マキと一緒に文芸部へいくことになった。

 ちなみにクラスでは微妙な感じになるかなって思ったけど、斉藤とマキが訂正してくれていたようで、なんともなってなかった。

 でも斉藤の評判はめっちゃあがってた。

 なんだこの差は。


 いや、今はいいか。


 ぶっちゃけ、スクールカースト最底辺だけは避けたいだけで、目立ちたいとかそういうのないからな。

 で、綾瀬ルカちゃんもついてきた。

 彼女もどの部活に入るか悩んでいたらしい。で、悪役令嬢とかそういうのも好きだし、あやかしモノとかも好きなので書いてみたいんだと。


 いいよなー、そういうの。


 いや、俺にもあったんだけどな。

 ただ、こう、その。

 今読み返すだけでもうイタ過ぎてあれなんだ、うん。マキみたいに面白い話でもないし、しっかりした文章でもないし。

 あれだ、あれ。

 文章書ける人はそれだけで才能あるんだよ、マジで。


「えっと、ここだよね」


 マキの先導で到着したのは、文化館の二階だった。

 文化系の部室が集まるとはいえ、それなりに賑やかである。


 美術部、茶道部、華道部、書道部、かるた部、囲碁部、将棋部……


 まさによりどりみどりなんだよなぁ。

 ちょっと目移りしつつも、マキはノックしてから扉を開けた。


「ようこそ! 文芸部へっ!」


 瞬間、思いっきり声をかけられる。

 お、おおう。なんだこの歓迎ムード。


 出迎えてくれたのは、きりっとしたメガネをかけた女子だった。


 リボンからして上級生だな。

 見るからに文化系って感じの女子だけど、気がとっても強そう。陰キャの俺としては尻込みしてしまう感じだ。

 絶対口げんかしたら負けるヤツ。


「我々は君たちのような逸材を待っていたっ!」


 逸材てまだ名前さえ名乗ってませんがな。


「さぁ入部しよう! ささっと入部しよう! 今すぐ入部しよう!」


 いやなんだその三段活用。しかも物理的にもぐいぐい来るし。

 若干どころじゃなく引いていると、マキと綾瀬ルカちゃんも同じだったらしい。さりげなく俺を盾にするように下がっていた。


「あの、えっと」

「良くぞ聞いてくれたっ! 私はこの文芸部の部長だ! 部長と呼んでくれて釜なわないぞっ!」


 いやまだ何も聞いてませんから。

 なんだこの人。どっかと電波通信でもしてるのか?

 本気で疑問に思っていると、部長はぐいぐいっとさらに詰め寄ってくる。なんだこの威圧感。やべぇ。


「君は何志望かな? 作家か? それとも編集か?」

「えっと、この二人は作家で、俺は編集志望です」

「な、なななななぁああああんとっ!」


 思いっきり戸惑いながら答えると、部長は大げさに驚きながらのけぞった。

 あれだ、なんだっけ、オリンピック特集とかで見たぞ。イナバウアーってやつだ。

 すげー、初めてナマで見た。

 感心していると、部長はまるでゾンビみたいに姿勢を戻す。


「編集志望とは素晴らしいね、へへっ」


 なんで口を拭うんだ。


「あの、とりあえず見学に来たって感じなんですけど」


 大分ヤバい気配を感じつつ、俺はそう進言した。


「何を言うっ! 見学だなんて水くさいっ! 今すぐ入部したまえっ!」


 ええ、何この人怖い。

 俺の対応力では無理だ。たまらずマキとバトンタッチだ。

 がんばれマキ。コミュ力の塊。

 さっと立ち位置を入れ替えると、マキは苦笑した。


「えっと、入部は前向きに検討させてもらうんですけど、まずは部活の雰囲気とかそういうの知りたいなーって思うんですよね。だってほら、雰囲気になじめなかったりとかしたら空気悪くしちゃうし」

「そんなことは問題ない、任せろ、任せたまえっ!」

「いやいや、もしそうなったらこっちが悪いですし、ね? それに今はオリエンテーリング期間だから入部できないし」


 そう。

 俺たち新入生は二週間の仮入部期間が設けられている。その間は入部届けを出しても受理されないシステムだ。


「むう、それもそうか……」


 マキの言葉に、部長もやや不満ながらも引き下がってくれた。

 おお、さすがマキである。

 半ば感動して俺と綾瀬ルカちゃんは小さい拍手を送った。ちょっと複雑そうにしながらもマキは照れていた。


「あははっ、なーにがそれもそうか、よ。カッコつけてバカさらしてるんじゃなくってよ」


 そんな部長を嘲笑するように、俺たちの背後から誰かが現れる。

 っていや誰。ホントに誰っ!?

 慌てて振り返ると、そこにはきりっとしたメガネをかけた女子――思いっきり部長と瓜二つだった。

 一瞬にして部長の表情が敵意に染まる。うわ怖っ。


「あなたたち。こんなバカが運営してる部活になんて入ったら身も心もバカに染まってしまうわよ。そんなとこなんて辞めて、うちに来なさい」


 さら、と髪の毛をすかしながら女子は言う。


「小説ならこっちでも書けるわ。むしろ洗練されているといってもいいわね。だからいらっしゃい。文章の至高を求める部活――文学部へ」


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