第8話 やきもきする!
マキからラインが届いたのは、晩飯が終わった時くらいだった。
「うん?」
見ると、文面から妙な不機嫌を感じた。
《ねぇ、なんで今日斉藤クンと話してる時にどっかいったの》
あー……あれか。
なんでって言われてもだな。
俺は素直に答えることにした。上手い言い訳なんて浮かばないし、下手な言い訳なんてツッコミくらって終わりだ。
《なんでって言われても、なんかムカついたから》
既読はすぐについた。けど、返事はすぐに来ない。
《それってさ、ヤキモチ?》
な、なななななななあななあああああっ!!?!!!?!?!
なんだこの剛速球はっ!
どう答えろと! どう答えたらいいんだ!
教えてください天の声っ!
願っても当然答えはやってこない。いやいやいやいやいやいや。
もちろんヤキモチなんてあり得ない。
あり得ない、のか?
マキは間違いなく可愛い。そして俺と仲良くしてくれるし、イロイロとお世話してくれる。天の声からの情報でも、たぶん脈はあるんだと思う。
それに幼馴染だし。
いきなり何も知らないヤツが間に入ってきて仲良くしようとしてきたら、そりゃ確かに気に食わない。
これがヤキモチならそうかもしれない? いや違う。
でも、俺は知ってる。
いや知ってしまっている。
それでも告白したら断られるって。
これでフられたのは二回目だ。
三回目もフられたらもう心が壊れる自信しかない。
けど――ここって思いっきり分かれ道じゃないのかな!? からかってんのか、ガチなのか、どっちなんだ!?
思いっきり悶えてから、俺は意を決して返事を打つ。
《それ、ガチで聞いてる?》
また既読はすぐになるけど、返事はすぐに来ない。
なんだ、何なんだこれ。
《どっちだと思う?》
なんで俺に答えさせようとするのかな!?
試されてる。試されてる気がするっ!
俺はベッドに思いっきりダイブしてから悶える。いや、これどうなんだ!? もしヤキモチやいてるって言ったらどうなる? アレじゃね? 絶対アレだ。
『バカじゃないの。面白っ』
とか言われるパターンじゃねぇのかこれ!
いやそうだそのはずだ。
だって俺は経験してる。そういう展開。何人の女子にそうやられてバカにされて心を踏みにじられてきたか。
マキがそういうヤツだとは思いたくないけど、女って分からないからな。
ここは警戒モード最強でいこう。
《ヤキモチなんて焼いてねーよ。ちょっと邪魔かなって思っただけ》
とりあえずそう返しておく。
《邪魔じゃなかったんだけどな。っていうかクラスメイトの情報もらえるんだから、聞いといた方が良かったんじゃないのさ》
今度は返事が早い。
っていうかなんだお説教モードかよ。切り替わり早いな!
《別に。マキから教えてもらうからいいだろ》
《私は便利屋か何かかな?》
《頼りになるお姉さまです》
いつもの感じで送ると、舌を出してくるスタンプが送られてきた。
何だ。なんで拗ねてんだコイツは。
こうなるとグダグダになるんだよな。
俺は呆れつつ、ふとカレンダーを見た。あれ? 明日って確か……。投稿締め切り日じゃなかったっけ?
《っていうか、お前締め切り大丈夫なのか? 明日までだろ?》
ふと気になって送ると、速攻電話がかかってきた。ってなんでやねん。
とはいえ、出ないわけにはいかない。
「もしもし?」
『忘れてた。助けてヤバい』
「助けてって言われてもどうしろって言うんだよ」
俺は小説なんて書けないぞ。
『誤字脱字チェック! あとあらすじの整合性! リアルタイムで!』
「え、リアルタイム?」
『そう! 今からデータ送るから! 私は仕上げする!』
え、拒否権なし?
返答するより早く通話が終わった。
え、ええ。何この展開ぃ……。
戸惑ってると、本当にファイルが送られてきた。
どうやら章で分けてるらしい。
「マジかよ……」
これ、無視したらシャレになんないだろうなー……。
それに色々と世話になってるし。ここは協力してやるか。昔みたいに。
とにかく誤字脱字チェックだな。
俺はデータをPCに転送してから早速チェックに入った。
――空に昇る君たちの歌
とタイトルされた小説は、飛行機乗りたちを主題にしたライトノベルだ。少年少女の傭兵たちが織り成す重厚なストーリーだ。
マキは本当に小説が上手い。
一度読み始めたら止まらなくなるんだよな。
それでも公募へ送っても落選するんだから、世の中厳しい。
なんて思いながら、俺は誤字にチェックを入れていく。
誤字脱字ってヤツは本当に厄介で、何度も何度も読み込まないと見つからないものもある。もちろんソフトも活用して見つけていくんだけど、それでも見つからないもんは見つからない。
後は誤用とかもな。
こういうのって、物語の面白さの本筋にはあまり影響しないんだけど、完成度の高さには影響してくる。
このほんの僅かな差で選考を抜けられることだってある。
だから、手を抜かないようにしないと。
◇ ◇ ◇
スズメが鳴いている。
け、結局夜中までかかってしまった……。三時間くらいしか寝てない気がする……。いや今日本当に学校サボろうかな?
なんて思ってたら早速ラインがやってくる。
《起きた? 学校いくよー!》
元気なヤツである。
俺より遅くまで起きてたはずなのに。いや、ほぼ完徹したんじゃね? そんなマキが行くんだから、俺も行かなきゃダメだよな。
それにここでサボったら責任を感じられそうだ。
俺はとりあえず返事をしてから着替えた。
表に出ると、思いっきり目にクマを作ったマキがいた。いや寝ぐせ? それ寝ぐせなの? 髪もなんか跳ねまくってるけど?
え? これツッコミまちなのか?
「え、えっと、おはよう?」
「おはよー……」
「だいぶ眠そうだけど大丈夫なのか?」
「うん。なんとか。あ、おかげで原稿出来上がったよー。今回のはいい感じだと思う。うえへへへへ」
マキはそう微笑むが、やばそう。
これ絶対授業中寝るパターンだな。
「で? いつ出すんだその原稿」
大きい郵便局はここからかなり遠い。となると地方郵便局に出すしかないんだけど、窓口は十五時までのとこばっかだ。
今日から授業は始まるし、放課後は部活紹介オリエンテーションだ。
つまり、普通じゃ間に合わない。
もちろん今の時間帯は開いてないぞ。
マキも当然分かっているようで、ちょっと困り顔で後頭部を撫でる。
「うん。昼休みにちょっと抜け出そうかなって」
「それしかない、か」
俺はゲームの設定を思い出す。
この学校は昼休憩時なら外出できる。購買部も学食もあるんだけど、それでもコンビニに行きたいヤツとかいるからな。
「けど大丈夫なのかよ。今にも寝落ちしそうだぞ」
「うーん。電車の中ではちょっと寝る。だからタクミ、隣に座ってよ」
「……はい?」
「その肩で枕になってって言ってんの」
「はい――っ!?」
俺は思わず声を上げるが、マキは譲らない。むしろ真顔だった。
あ、これ断ったらぶん殴られるヤツ。
仕方なく俺は頷いた。まぁ俺も電車で寝るつもりだったし、こっちから学校へいく電車はいつも空いてるしなー。
なんて思ってた俺が甘かった。甘かったです。
がたんがたん、と電車が揺れる中、マキは本当にすーすー寝息を立てながら俺の肩を枕にしている。近い。超近い。しかも思いっきり油断しまくってる顔だ。
なんだその安心しきった顔。
可愛いかよ。超かわいいかよ!!
俺はなるべく見ない振りしてたけどやっぱ気になるし心臓はずっとバクバク言いまくるし、寝るつもりだったのに余計疲れたわ……。これはヤバい。
結局電車を降りてから、俺とマキは眠気覚ましの栄養ドリンクを買ったのだった。
そして事件はその昼休み直前に始まる。
選択授業からクラスに戻る途中、顔を真っ青にさせたマキが走り寄ってきた。あ、これ何かあったな。
長年の直観で俺は悟る。
「た、大変、どうしよう、タクミっ!」
人前で俺を名前で呼ぶって相当焦ってんな?
息を切らせるマキに、俺は周囲の目を気にしつつも肩を支える。
「大丈夫かよ? っていうかどうしたんだ」
「げ、げんこうっ……」
軽く咳き込みながら、マキは泣きそうな顔になった。
「原稿がどっかいったの……!」
…………は? はい?
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