第7話 ライバル登場
「なぁ、ライン交換しようぜ?」
新しいクラスの席に座ってまだ二分も経っていないのに、俺はいきなり見知らぬ男子に言われた。
いや、見知らぬ男子ではないっ!
この完璧な中肉中背、一切の特徴を排したらこんな感じになるよなって言える三秒たったら忘れる容姿。
間違いない。お助けキャラの親友的ポジションのオオタくんだ!
なんだろう、この絶妙な親近感。
ありがとう。君となら親友になれる気がするっ!
「いいよ」
俺は早速スマホを取り出してラインを交換する。
すると、すぐに周囲のクラスメイトたちも群がってきて大交換会になってしまった。や、やべぇ。こんなにライン交換したの初めてだ。
何気に緊張していると、マキがさっと入ってきてフォローしてくれた。できる女である。
あっという間にクラスラインができあがって、俺にも招待がやってくる。
こ、これがリア充への入り口かっ……!
「……分かってるよね?」
肩にそっとマキの手が置かれて、俺は思わずびくぅっとなってしまう。
や、やべぇ。緊張してる!
ガチガチでマキを振り返ると、マキは何かを悟ってくれたらしい。顔を引きつらせながらも、ぽんぽんと肩を叩いた。
「落ち着いて。フツーに名前名乗ればいいだけだから」
「お、おう」
「変なことしないようにね。そういうキャラじゃないんだから」
ざっくり釘を刺されてしまった。
目立とうとするのは悪いことじゃない。けど、悪目立ちするのはヤバい。俺の場合、その加減っていうのがまったく分からないからやらない方がいい。
うん。そうだよな。
俺は間違いなく陰キャだから、派手にやったら絶対すべる。
なんかふざけた自己紹介できるヤツっていうのはリア充だし、確実に異能力者だ。
クラスラインが始まって、俺はベタな自己紹介だけを済ませておく。
そんなこんなであっという間にHRが始まって、席替えが行われる。
公平にくじ引きである。
……とはいえ、ゲームの世界設定準拠でいくのであれば、この席決めは結構大きい意味を持っている。
席替えした時点での新密度によって席の近さが変わるのである。
つまり。
俺の左隣が一番新密度が高い女子になるんだけど――
「よろしく、ね?」
ですよねー。綾瀬ルカちゃんですよねぇええええっ!
もう心臓ばっくばくである。
かすかに微笑みかけられてみなさいよ。もう昇天ものですよ。
「うん、よろしく」
しかも既にちょっと打ち解けてるから俺も自然に声を返せる。
ある意味ありがたい。
ちなみに右隣は思いっきりオオタくんである。これは固定だ。
で。
俺の真後ろには、マキがいる。
ってどういうことだ。どういうことなんですかっ!?
いや落ち着け、考えろ。
俺は他のヒロインたちとはまだ出会ってない。だから新密度は高くないのが当然なんだけど、この世界は俺のデータを下にしてるっぽい。つまり、出会ってなくても新密度は高いというハーレムに近い状態だ。
なのに、なんでマキが真後ろにっ!?
「何?」
ちらっと見ると、マキに見咎められた。
慌てて目をそらす。
「挙動不審やめなさいよ」
早速注意された。
やはりオカンか。
いやでも俺は今内心で大混乱である。マキとの新密度が高いのは間違いない。けど、告白したら絶対断られる。
いやホントどういうことだってばよ。
もちろん答えてくれる人はいない。
そんな俺の心配など気に留めるはずもなく、担任は授業を進めていく。
「みんなもお互いの名前は早く」
当然、誰もやりたがらないよなあ。
絶対めんどーだもん。
「立候補があれば受け付けるぞ」
クラスが一斉にざわつく。
その中で、ぴん、と手を挙げたのが一人。
「お、斉藤、お前がやるか?」
「はいっ!」
これぞハツラツっ! って感じの声を出して立ち上がったのは、まぁ好青年って連想するパーツで構成したようなイケメン男子だった。
う、うわぁ。
思わず声が出そうになった。
斉藤アツム。
ゲームの世界じゃあ最大のライバルになる完璧超人だ。
成績超優秀、スポーツ万能、そして顔も性格も完璧。どんな女子だってまぁ間違いなくカッコいいって言うだろう。
同じクラスだったのか……!
こいつは危険だ。
どんなヒロインの場合でも最強のライバルとして登場し、うっかり油断したらあっさりと奪われてしまう。もちろんそうなったらゲームオーバーである。コイツが狙うヒロインは攻略しない方がいい、というのが通説だ。
何より、今の俺はゲームプレイヤーじゃない。生身だ。
全てのスペックで雲泥の差があるんだぞ。挑むのは無茶の無茶だ。
いったい誰を狙うんだ……?
なんて思っている間に、斉藤は男子の代表委員に選出された。
残るは女子である。
緊張の一瞬だ。
この代表委員に選出された女子が、斉藤の狙うヒロインなのだから。
「あ、じゃあ私がやりまーす」
…………ジ、ジーザスっ……!
手を挙げたのは、マキだった。
ま、マジか、マジかよっ!?
俺はたまらず振り返るが、マキはきょとん、と首を傾げるばかりだ。
そうだった。
マキは中学校時代、生徒会長もやっていたタイプだ。
こういうの、やりたがるよな。アハハ。
もちろん反対意見なんて出るはずもなく。マキもあっさりと代表委員に選出された。
二人が壇上に呼ばれる。
斉藤の反応は分かりやすい。すぐにマキを気に入ったようだ。
ヤバい、マジでヤバい。
この状況で、マキとどうやって恋人関係になれっていうんだっ!?
しっかり頭を抱えていると、チャイムが鳴った。
HRが終わり、マキが俺に近づいてくる。
「どうしたの。なんかロコツにテンション下げてるけど」
「別に。難易度が鬼上がりしたなって思って」
「何の難易度?」
「言わない」
言えるわけねぇ。
「何それ。隠してたらタメになんないぞー」
「うるせーよ。それより代表委員やるって本気かよ」
「もちろん。内申に影響あるからね」
もう大学受験を視野に入れてんのか。さすが才媛女子。
代表委員なんてやらなくてもいいと思うけど。まぁ決まった以上はどうしようもないんだけどさ。
「あ、何? まさか一緒に帰れなくなるから寂しくなっちゃったとか」
「アホ抜かせ」
「はいはい。分かってますよ」
「会話中ごめんね。家村さん」
このタイミングでナチュラルに入ってきたのは、斉藤だった。
キラッとキレイな歯並びを輝かせつつ、爽やか全力スマイルを浮かべる。近くの女子が色めきたっている。
だよなー。正統派アイドルって感じだもんなー。
ちなみに俺がこんなスマイル浮かべたらどぶ川覗いてるほうがまだマシだって言われるぞ。
軽く嫉妬していると、斉藤はにこやかに隣の席に座った。
「僕たち代表委員に選ばれたから、ちょっとセッションしておきたくて」
セッションってなんだセッションって。意識高い系過ぎませんか。
「いいけど、何するの?」
「単純な話だよ。僕たちはこれからクラスのまとめ役になるんだ。でも、君は遠い学校から来てるから知り合いなんていないでしょ?」
「ま、まぁここに一人いるけど」
戸惑いつつ、マキは俺を見てくる。
って俺を見られてもだな。
でもどことなくイヤそうにしてるから、俺は頷いておく。
「一人じゃ少ないじゃん。僕は結構顔が広いから、クラスメイトのこともある程度は知ってるし、情報共有できると思うんだ」
「……なるほど?」
「その方が家村さんもやりやすいでしょ?」
「そうだね。そういうことなら」
あっさりと承認したっ!
さすが斉藤としかいえない。もうマキの懐に入る準備整えやがった。
んー。なんかムカムカしてきた。
それから二人が話し始めて、俺は蚊帳の外だ。本来、俺は黙って聞いてたほうが良かったんだと思う。でも、なんか我慢できない。なんだこれ。
ため息を小さくついて、俺は「トイレ」って言って席を外す。
なんだよ、もう。
「挟間くん」
拗ねるように廊下を歩いていると、綾瀬ルカちゃんが声をかけてきた。
「どしたの?」
「あ、ううん。なんかちょっと機嫌悪そうだなって思って」
うっ。そんな顔に出てたか?
ダメだダメ。平常心。へーじょーしん。あんまり不機嫌出しすぎると印象悪いって言われたからな。
「大丈夫だよ」
「そう?」
「もしかしてそれ気になって追いかけてくれたり?」
「……うん。昨日、仲良くしてくれたし」
ちょっと恥ずかしそうに言われ、俺はまた昇天しかける。
か、可愛い。どちゃくそ可愛い。
今すぐ抱きしめたいっ。
けど、けどそれはできないっ……!
俺は血の涙を流しそうになりつつ、苦笑した。
「ごめんな。ありがと。大丈夫だからさ。それより、また今度メシいこーよ」
「うんっ!」
明るく返事をする綾瀬ルカちゃんに、俺はすっかり癒された。
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