第9話 価値観 4月16日
杏梨のハンバーグにお腹が膨れ、こおりはベットでうとうとしていた。
仕事も上手くいかないし、疲れたぁ。
寝返りを打つとシーツから杏梨の甘い香水の匂いがした。
杏梨の彼氏はなんでもっと構ってやらないんだ?泣いて、俺にまで頼って可哀想に。
彼氏が容認してるなら、できるだけ甘やかしてあげたいと思う。付き合っているときから、杏梨のことは本当に尊敬している。
あんなに努力できる人は他に知らない。
付き合っていたことは、薄っぺらな自分自身を見透かされるのが怖くて、見栄をはっていた。そんな俺を知ってか、杏梨は俺には弱みをみせなかった。
ただ、嫌なことがあったのかなと感じる雰囲気のときは、積極的にセックスするような流れを作られていた。それだけは、少しは杏梨の役に立てたかなと思ってら全てを受け入れて俺も頑張った。
もっと違う関係性を築けていたら、お互いに支えあえたのだろうか?
スマホをみる。あいりからは相変わらず連絡がない。
連絡できない程、体調が悪いのだろうか?もしかしてどこかで倒れてないか?
急に不安が募る。
あいりの家はわからないが、最寄駅とその近くにあるバイト先ならわかる。
ちょっと行ってこよう。起き上がって、財布をもって出掛けようとした瞬間、チャイムが鳴った。
ピンポーン
インターホンを見ると、暗い顔をしたあいりがうつっていた。すぐにドアを開ける。
「あいりっ!返事ないから心配してたんだよ。病院行くって行ってたけど、身体大丈夫か?」
あいりが俺の顔をみる。顔色が悪く、目は充血してくまができている。
「ちょっ!おまえひどい顔だぞ。大丈夫か。早く入って、横になれ」
引き寄せると、あいりは力なくこおりの身体にもたれかかった。
力が入らないようなので、代わりにスニーカーを脱がせ、おんぶしてベットまで運んだ。
「あいり、大丈夫か?手が冷えてる!温かいお茶いれるから、ちょっと待ってな。」
ベットに横にならせて、布団を優しくかける。ケトルでお湯を沸かして、ハーブティーをいれる。あいりがお茶が好きなので、こおりの家にも置いているのだ。
カフェインはなしで、カモミールとかのブレンドのリラックスできるのがいいかな…?
鎮痛剤とか体温計とかどこだっけか…?
あの感じじゃ食べてないかもな。俺んち、食べれるものあるかな?寝かせて、買いに行くか。
とりあえず、温かいカモミールティーをいれたこおりはあいりの元に戻った。
あいりはベットサイドのボックスを開けて中を確認していた。
「あいり、お茶いれたよ。少しは飲めるかな?
って、体調悪いのになんでコンドームの箱見てんの?えっちしたいん?」
ベットサイドの箱はコンドームを入れているものだ。あいりもそれを知っている。
あいりは悲しげな目でこおりを見た。
「こおりくん…女の人ここに寝かせた?」
「…えっ?」
ぎくっとする。
「知らない匂いがする。ゴムの数減ってないけど、その人にも中出ししたの?」
「えっ?なんで中出し…?してないよ」
血の気がさーっと引いていく。ベットから杏梨の香水の匂いがしたのだろう。どう伝えようか。
「嘘つかなくてもいいよ」
あいりの頬に涙がつたっていた。
「こおりくんにとって、私はただの都合の良いえっち用の女だもんね」
絞り出すような声が震えていた。
「脚も太いし、おしゃれでもないし、どうでもいいんだよねっ」
言葉に力が入る。
「何言ってるの?あいりは俺の彼女でしょ?」
こんなあいりは初めてみる。
「好きとも何とも言わないじゃない?!私と付き合ったのだって、成り行きでしょ?」
「違うよ…」
あいりとは何となくご飯にいって、何となくえっちして、そのあとあいりが「これって、付き合ってるんですか?」と聞いてきたので、面倒くさくて「うん」と言って始まった。
でも、付き合っていく内に、あいりのことを段々愛しく思えるようになった。
好きなんて言ったら、あいりは自信をつけて、他の男に目を向けるかもしれないと思って、口に出して言えなかった。
頭ががんがんする。あいりが離れる。
いやだ、いやだ、いやだ。
「元カノが彼氏と上手くいってないみたいで、慰めただけだよ。ほんとに!中出しじゃない!セックスはしなかったから、ゴムは使ってない。あいりが一番だよ!あいりとしかセックスはしない。」
こおりの言葉にあいりは目を見開いた。涙がぼろぼろこぼれ落ちた。
「いつもいってる、綺麗で、私よりスタイル良くて、乳首ピンクで、素敵な元カノさん?」
「そう、でもあいりじゃないから、俺セックスはしてない。迫られたけど、あいりが好きだから我慢したんだよっ」
ああ、好きっていってしまった。この思い、わかってくれるだろうか
「…セックスはしてない。…ね」
「そう、だからあいりを裏切ってないよ。浮気じゃないから」
あいりの目がさらに暗く沈んだ。
「こおりくん、私達…価値観合わないよ。
もう別れよう」
頭をがんっと殴られた気がした。
「今までありがとう」
ベットから起き上がったあいりはふらふらと靴を履き、俺を見ずに去っていった。
「えっ、あっあいり…?」
急いで、外に出てあいりを探したけれど、あいりはどこにもいなかった。
家に帰るとカモミールティーがテーブルの上で冷めきっていた。
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