5.きょうだい
海輝が叶依と別れてから、僕はまた少しずつ海輝を慕うようになっていた。
でもあいつはなんとなくそれを拒んでいるような感じだった。
直接言われたことはないけど、多分そう思っていたと思う。
僕ももう大人だし、そろそろ一人でも大丈夫だろうと言いたそうだった。
叶依と別れたとは言え、仕事の関係上よく会っていたから、まだ余韻がある感じもあった。
一方の叶依も海輝と伸尋の間で大変だったと思う。
「話したいことあるからそっち行って良い?」
叶依からそう電話を受けたのは叶依が高二の時の一月だった。
その日叶依はMツボの収録があったので、それが終わる頃に楽屋の前で待っていた。
「話って何?」
楽しい話じゃないようで、叶依の表情は暗かった。
海輝にも聞いてもらいたいというのであいつの家に行った。
やっぱり叶依もまだ海輝のことを忘れられないんだと思った。
「こないだラジオで伸尋が王子で私が王女とか言ってたやん。あれ事実やと思う」
まさかそんなことはないだろうと、僕と海輝は笑った。
でも叶依は笑ってなくて、このことは伸尋には言っていないと、真剣な顔で続けた。
僕は家に帰ったけど、叶依はそのままあいつのところに残っていた。
あいつは僕が寄ったら拒むくせに、叶依を拒もうとはしない。
普通に考えたら当たり前かも知れないけど、僕は嫌だった。
誰にでも平等に接してくれる頃の海輝が好きだったから。
でも僕を拒もうとする海輝も、ある意味好きだった。
そんな海輝と同じように育ててもらえたことも嬉しかった。
つまり僕は海輝が好きなんだよ、兄弟として──。
あれから約半年後の九月、叶依は僕らの過去を見てしまったと言っていた。
その内容に実際との違いはなかった。
見た感じは普通の高校生なのに、中身は普通じゃなかった。
「海輝、叶依ってどうなるのかな?」
「どうって何が?」
「あの子……地球からいなくなったりしたらさ……」
多分あいつもそんなことを考えていたんだと思う。
「PASTUREとか……十八になったら行っちゃうんでしょ……?」
「うるさいな。あっち行ってろよ!」
やっぱり海輝はピリピリしていた。
仕事の話をする以外、ほとんど口を聞いてくれなかった。
満に叶依が飛び降りたことを聞いてから、僕は海輝に近寄ることが出来なくなった。
どうすることも出来ない、そんな自分が嫌だった。
「冬樹、……大阪連れてって」
数日後、僕はあいつを車に乗せて伸尋に会いに行った。
海輝は自分が運転するのは危険だとわかっていた。
叶依に聞いたことを伸尋に伝えて、そのまま僕らは東京に戻った。
でも僕は戻って良かったのか分からなかった。
もし戻っている間に──。
「おまえ、間違ったこと考えんなよ」
僕らが東京に戻る間に叶依は死んでしまうかもしれない。
あの言葉は忠告だったのか、それとも僕の顔にそう考えていると書いてあったのか。
そんなことはどうでも良い、とにかく祈るんだ。
海輝をマンションの前で降ろして、僕は家に帰った。
叶依に意識を取り戻してもらいたいという気持ちは僕もあいつも同じだった。
それにPASTUREのCD発売も当初の予定から二ヵ月以上遅れていた。
叶依が復帰したら海輝は飛んで会いに行くだろう。
僕はそう思っていたけど、実際そんなことはなかった。
「俺が行ってどーすんだよ」
あぁ、そうか。こいつじゃないんだ。
叶依は今、海輝と話をしてる場合じゃないんだ。
「海輝ぃー、私歌に専念するぅ……」
「はぁ? なんで? ギターは?」
「見てこの手。お化けみたい」
数ヵ月振りに叶依と会った時、あいつらはいつもと同じだった。
多分、叶依が地球からいなくなることには触れたくなかったんだと思う。
それから叶依は惑星に戻ったけど、結局は地球に帰ってきた。
僕は海輝の他に叶依とも兄妹だと思っていた。
つまり、PASTUREは葉緒家に属する三人兄妹。
海輝が叶依から離れないといけないのは可哀想だったけど、実は僕も嫌だった。
叶依が入院してる時でも、なんか穴が開いた感じだったから。
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