<第2章 あいつら>
4.いばしょ
僕と海輝のOCEAN TREEはデビュー後も順調に売れていた。
いろんなメディアから出演依頼が来たし、ファンの数もすごいという噂だった。
ある日、仕事場に向かう車の中でギターのコンテストの生中継をラジオで聴いていた。
優勝者の高校生は近々僕らと同じ事務所からデビューが決まっているらしかった。
僕らより若いのにレベルは高く、これは会わないとダメだと思った。
でもなかなか時間が出来ないので、事務所の人にとりあえずCDを渡してもらった。
高校生──叶依も夏にデビューして、CDが僕らに届けられた。
叶依には十二月に僕らのラジオに出てもらい、それでご対面ということになった。
東京での仕事が一段落ついて、僕とあいつは休暇を取って富良野に戻った。
高校時代の先輩が札幌時計台前のカフェでオーナーをしていると聞いていた。
海輝の誕生日が八月七日だったので、その前後にカフェでライブをする予定だった。
僕らはそのカフェの常連で、オーナーともよく話をしていた。
自分たちの曲をBGMに流すように頼んでいたのに、
「これ叶依ちゃんの曲じゃないの?」
オーナーは僕らがラジオで紹介した叶依のCDをずっとかけていた。
八月七日の正午前、カフェでのライブを中断した時、海輝は一人でどこかへ歩いて行った。
なかなか帰って来ないので何をしているのかと探していたら、一人の少女と話をしていた。
「何やってんの、海輝?」
「あ、冬樹! も、びっくりしてさー! この子誰だと思う? あの子だよ、例の!」
海輝と話をしていたのは何故か叶依だった。
もちろんその時僕もあいつも、昔叶依に会ったことを覚えていなかった。
それは事故をニュースで知った叶依も同じことで、本当に初対面だと思っていた。
丁度お昼だったので僕らはカフェでご飯を食べた。
大阪に住む叶依が北海道にいる理由を聞いたとき、海輝は叶依を家に呼んだ。
叶依は行くところがなくて困っているところだった。
また一人、あいつは人を助けた満足感で一杯だったに違いない。
家に戻ってパーティーの時、あいつはかなり嬉しそうだった。
僕はあいつの父親と釣りの話をしていたからあいつと叶依が何を話していたのかはわからない。
もしかしたら……。
あいつと叶依に何かが起こると直感でわかった。
案の定、一週間後、海輝はとんでもないことを仕出かした。
あいつの自由だから何も言わなかったけど、僕の居場所がなくなったような気がした。
叶依が大阪に戻ってからしばらくして、僕らも東京に戻った。
僕はちょっと田舎の安いマンションに住んでいたけど、海輝は違った。
都内で一番家賃の高いなかなか手を出せそうにないマンションがあいつの住処だった。
何度か遊びに行ったことがあったけど、とても僕には無理だった。
家賃の問題ではなく、外観の問題で。
でも、叶依は僕も海輝と同じようなところに住んでいると思っていたらしい。
僕の家に遊びに来た時、「同じOCEAN TREEなのにここまで違うのか」と驚いていた。
叶依に海輝を取られた寂しさに耐えて何とか二人を見守れるようになったのに、あいつらはすぐに別れた。
叶依は本当は海輝じゃなくて伸尋──後にバスケ選手になる親友のほうが好きだった。
あいつもそれに気付いて、僕と大阪まで叶依と伸尋に会いに行った。
でも僕らの関係はそれで終わりじゃなかった。
冬にOCEAN TREEのラジオに叶依を呼ぶことになっていたし、夏に出会ったことがきっかけでPASTURE結成の話も出ていた。
叶依は家族がいなかったから海輝の両親を実の両親にして、海輝は兄貴になっていた。
「なんか僕ら似てるね」
「ははは。海輝も大変やな」
叶依は僕の両親のことを知らなかったけど、僕があの夫婦を両親代わりにしていることはわかっていたと思う。
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