3.これから
僕らは高校生になっていた。
ここへ来てからもギターを続け、将来は二人でデビューしたいということも考えていた。
ある日、僕は写真部の先輩に写真を撮らせて欲しいと頼まれた。
僕より海輝の方がモデルとしては良いんじゃないかと思ったら、その先輩──春子は僕の素朴な感じが良いと言っていた。
モデルをしているうちに、僕は何故か春子と噂になっていた。
嫌じゃないから何も言わなかったら、本当にそうなってしまった。
春子の趣味はバイオリンだったけど、将来は記者になりたいと言っていた。
しばらくして、春子はマスコミ系の専門学校に行くからと東京に行った。
結果僕らは別れたけど、春子は泣きもしなかった。
僕はただの暇潰し相手だったのかも知れない。
高校二年になって少し落ち着いて、僕らは再び大阪に行った。
すると偶然にも叶依と再会出来た。
叶依はギターのコンテストで特別優秀賞を取り、賞金で自分のギターを買ったと話してくれた。
僕と海輝はほんの少ししか教えなかったのに、その上達の早さには正直驚いた。
後で海輝にも聞いてみたけど、『負けた』というのが僕らの本当の気持ちだった。
富良野に戻ってから、僕と海輝はデビューを本気で考えはじめた。
でも何から始めて良いのかわからなくて、何もない日が続くだけだった。
「あなたたち大学はどうするの?」
海輝の母親に言われた時、僕は始めて受験勉強をしていないことに気がついた。
もちろん勉強嫌いの海輝がしていたはずもなかった。
学校の先生にも言われたけど、どうして良いのかわからなかった。
受験シーズンが近づいても、勉強しようとは思わなかった。
悩みに悩んだ結果、僕と海輝は音楽の道を選ぶことにした。
大学に通ってお金を使うより、お金を稼いで海輝の両親に返したかった。
高校を卒業してしばらくして、僕と海輝は上京した。
都内で開かれるコンテストにも何度か出場したけど、なかなか賞は貰えなかった。
ギター以外に歌もしたくなったのはその頃だったと思う。
ライブハウスや路上で歌ったりしているうちに、デビューの道が開けてきた。
「お兄ちゃーん!」
いつか新宿で歌っていた時、修学旅行中の叶依が僕らを見つけた。
もうすぐデビューするかも知れないとだけ話し、それで別れた。
それから僕らはオーディションを受けまくったけど、どれも失敗に終わった。
このままじゃダメだ。何とかしないと。
気分転換に富良野に戻ろうとしていた時、僕らは事故に遭った。
目を覚ましたのはそれから数日後の夕方だった。
しかも僕と海輝は大切なことを忘れてしまっていた。
叶依に関する全ての記憶が事故のショックでどこかへ消えていた。
それが戻らないまま僕らは富良野で修行を続け、一年後、東京に戻った。
修行の成果があったのか、僕らは結構売れていた。
いろんなレコード会社からスカウトされ、Zippin' Soundsを選んだのは海輝だった。
順調に行けばギター弾き語りでデビュー出来そうだったのに、ドジを踏んだ。
調子に乗って歌いすぎて、僕も海輝も喉を痛めてしまっていた。
事務所の人に「ギターだけでも上手いからそれでも大丈夫だろう」と言われた。
歌は無しでギターだけのユニット、OCEAN TREEとしてデビューしたのは二十二歳の春のことだった。
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