第127話 最終ダンジョンにリフォーム(後半)
「これより魔王城は最終段階に入ります。総員、衝撃に備えなさい。
セロがX字型に
「起動
「三番から六番までのドッキングも解除」
「全方位認識阻害展開!」
「進路クリア、システムオールグリーン!」
本当に嫌な予感しかしなかった。
すると、すぐそばにいたエークが唐突に可笑しなことをセロに言ってきた。
「セロ様! 早く、私の隣にある磔台で拘束されてください!」
「は?」
「すでに発進シークエンスの最終段階に入っています! とても危険です!」
「…………」
セロはつい無言になったが、エークがあまりにも真剣だったので、とりあえずX字型の磔台に近寄った。
たしかにエークは性癖的にはあれだが、それ以外の部分ではとても優秀で真面目でまともでしっかりとしている。多分。少なくとも、こういう緊急事態とやらに、性癖の同志を求めたりはしないはずだ。
セロはそんなエークと視線を交わして、こくりと肯き合ってから、仕方なくX字型に自ら磔になろうとした。
「セロ様、ダメです!」
「今度は何さ?」
「もっと、恍惚とした表情をしてください!」
「い、いや……僕にはそんな
「いいから時間がありません!」
意味が分からなかったが、エークこと近衛長の言うことだ……
もしかしたらこの磔台はそんな表情に反応する魔導器具かもしれないと思い直して、セロはえも言われぬ表情を作ってから磔の拘束具を手に取った。
が。
そのタイミングで司令室から再度、城内放送が入った。
「第六魔王城発進します、
直後だ。
大きな揺れがあって、セロは転倒しそうになった。
たしかにエークの言う通りだった。それでも、何とか磔台にX字にしがみついたので事なきを得たが、これはさすがに厳重に抗議しないとダメだろうと思って、揺れがやっと落ち着いた頃合いを見計らって、先ほどの司令室に戻ってみると――
巨大モニタは四つの画面に分割されて、上空から東西南北を映しているようだった。
「…………」
セロはまたもや絶句するしかなかった。
魔王城が本当に空を飛んでいるようなのだ。さすがのセロのその光景には毒気を抜かれて、ついぽかんと大きく口を開けることしか出来なかった。
「セロ様、どうかこちらにお越しください。
そのタイミングで
どうやら司令室から直通で魔王城上階に昇る
そこにはすでにルーシーや高潔の元勇者ノーブルもいて、人狼のメイドたちも空中飛行を楽しんでいるようだ。どうやら知らされていなかったのはセロだけらしい……
これにはセロも『ほうれんそう』は大切にしてほしいと厳重注意しかけたが――
「ふふ。セロよ。どうだ? 第六魔王となった暁に何もしてやれなかったからな。皆でサプライズを企てたのだ」
ルーシーはそう言って、はにかんでみせた。
その笑みだけでセロは「まあ、いいか」と許してしまった。真にちょろい魔王である。
しかも、このドッキリを仕掛ける為に、ルーシーたちはセロに隠れてこそこそと色々やっていたそうだ。そういった経緯もあって
もちろん、読取装置に関しては、そんな事情などさらさらなかったのだが……
さて、セロはバルコニーを見渡して、ダークエルフの双子ことドゥとディンがいないことにすぐに気づいた。こういうイベントごとはあの二人が一番喜びそうなのに――と思っていたら、場内放送がまた聞こえてきた。
「『かかし MarkⅡ』、発進スタンバイ!」
「安全装置解除確認」
「ハッチ開放、射出シークエンスの全工程確認終了」
「カタパルト推力正常。進路クリア! 発進どうぞ!」
すると、自信なさげな声が聞こえた。
「ドゥ、はっちん、します」
次の瞬間、地上にあった魔王城直下の山が開いてカタパルトが見えると、巨大なゴーレムが宙に発射した。どうやら今日の昼過ぎにコウモリによって届けられたジョーズグリズリーを早速魔改造したものらしい。
「ええと……何なの、あれ?」
セロがエメスに尋ねると、どうにもドゥが武器のことで相談してきたようで、それならばとエメスが腕によりをかけてドゥの為の武装を作ったようだ。
そういえば最近、エメスはドゥにやけに甘くなったんだよなあと思っていたところだったが、何にしてもドゥが喜んでいるならいいかと、セロは小さく息をついた。
「続いてディン、発進します!」
その城内放送のすぐ後に、二体目の巨大ゴーレムも射出された。空中ではそんな二体の試運転として正常動作の確認をしてから、簡単な模擬戦も行われた。
「そういえば、今、宿にお客さんがいるみたいだけど大丈夫なの? これ、バレやしない? 面倒事にならないかな?」
セロが当然の疑問を口にすると、
「魔王城周辺一帯に認識阻害を施してあるので問題ありません」
ヌフが胸を張って答えた。
セロはさすがだなあと感心すると同時に、それだけの労力をもっと他のものに使えばいいのにと若干遠い目になった……
「それはともかく、こんなふうに魔王城を浮かしてどうするの? 一種のパフォーマンスかな?」
セロはまたごく普通の疑問を口にした。
今度は、エメスがその問い掛けに丁寧に応じる。
「セロ様は以前、国防会議にて防衛拠点の重要性を説いておられました。ですが、現代の文明レベルだと、このように浮遊城に改修しておけば、まず敵から攻撃を受けることはありません。そもそも、空を『飛行』出来る種族は限られています」
「たしかにね。でも、これって落ちたりはしないの?」
「土竜ゴライアス様の血反吐を
どんだけゴライアス様は血反吐をはいているんだよと、セロはツッコミを入れたかったが、とりあえずは黙っておくことにした。
「そもそも、
「へえ、全く想像出来ないよね……」
「将来的には、この魔王城も変形や合体させなくてはいけません。
そんなことする必要があるとはさっぱりと思えなかったが、セロはやはり男の子なので変形や合体という言葉についロマンを感じてしまった。
すると、そんな話に珍しくヌフが割り込んできた。
「当方が考えるに、現代は古の技術を失い過ぎています」
「ええ。たしかに。何者かの意図を感じますね。何らかの理由があって、わざと喪失させられたのかもしれません。とても興味深いところです。
セロはその言葉に「ふうん」と相槌を打つしかなかった。
何にしても、翌日も引見の前に魔王城もとい浮遊城や『かかし MarkⅡ』の試運転と動作確認を再度行ってから、セロたちは王国や火の国の外交使節団と会うことになった。
ダークエルフの双子ことドゥやディンが模擬戦で熱くなりすぎて、ついつい引見の時間を過ぎてしまったわけだが――
そんな第六魔王国の国力をまざまざと見せつけられたドワーフたちはというと、まさに心ここにあらずといった感じで呆然自失していた。
「これはまさか……神代の力か」
浮遊城など、文献で読んだことはあったが、さすがに生あるうちに目の当たりにするとは到底思っていなかった。
隕石といい、赤湯といい、空飛ぶ鉄板といい、巨大ゴーレムや浮遊城といい、ここには鉄の種族とも謳われるドワーフたちの知的好奇心と探求心を刺激するものしかなかった。
かつて第五魔王こと奈落王アバドンに負けてからというもの、火の国はずっと鎖国政策を敷いてきた。だが、ドワーフの代表オッタは第六魔王の代替わりをきっかけに外に出て来て本当に良かったと心の底から感じていた。
実は、ドワーフとて一枚岩ではないのだ――人族、エルフ族と組んでまで挑んで屈した、歴史的大敗北については先祖代々耳が痛くなるほど伝え聞かされて、もう負けたくはないと鎖国主義を採り続ける保守派と、改めて敗北を覆さんとする開明派に分かれて、国内でも幾度かぶつかってきた。族長の息子でまだ若いオッタはその後者を代表してやって来たわけだ。
だからこそ、オッタは第六魔王こと愚者セロの力強さを眼前にして、
「このビッグウェーブに乗り遅れてはいけない」
と、魔王の前で
何にせよ、そんなふうに隠しだてもせずに魔王と向き合った――オッタと、もちろんシュペル・ヴァンディス侯爵に対して、セロはしっかりと報いようと静かに語った。
「両人とも、頭を上げてください。僕は王国と火の国との協調を望みます。今日の挨拶を機会にして、良い関係を築いていきましょう」
セロの言葉は、人族、亜人族、そして何より魔族の史上初めての連合を示唆するものだった。ついに大陸の歴史は大きく動き出したのだ。
―――――
実は、初期プロットではここでちょうど100話に到達となって、第二部が終了する予定だったのですが、モタとヒトウスキー伯爵が勝手に動き回って、さらにはヒトウスキーの曽祖父まで出てきて、ついでにバーバルのエピソードとか、追補とか、紙幅をずいぶんと取ってしまいました。面白くなっているならいいのですが……間延びしているように感じられたなら申し訳ありません。
何にしても、ここまで書いてこられたのは、読者の皆様の応援あってこそです。本当にありがとうございました。ここから先は一気に第二部の最後まで駆け抜けていきます。これからもよろしくお願いいたします。
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