最終回「家族」
「おひさしゅうございます」
私のところに国王に仕えている王国戦士長がやってきた。
そこで彼から私こそが国王の本当の孫娘 ルイズ・ウィズであることを教えられた。
そしてあのルイズとは姉妹であったことも。
「私、こう見えてオーシャンの妃なの。そちらに戻るつもりはないわ」
「そのことは充分わかっております」
「簡単に引き下がっちゃうの? さびしい」
「(相変わらずめんどくさいなこの聖女様)」
「本題に入りましょうか」
「申し上げます」
「お願い」
『グリザード領は滅びました』
「⁉︎」
***
「国王様いかがいたしましょうか?」
「ルイズが蟄居(ちっきょ)していた屋敷が焼かれたともうしたな⋯⋯」
「はッ!」
「あの勇者は我が意を汲んだつもりなんだろうが嘆かわしいことだ」
「申しますと?」
「私が血も涙もない冷徹な王と思われていることよ。たとえ血がつながっていなくても
幼き頃から面倒を見て来たのじゃ。今さら血が繋がっていないと分かってもジジと孫の関係は変わらない。
勇者ゼオン⋯⋯ずいぶんと小さい男だったよのう⋯⋯もうよい。ミネルバ教に“勝手にせよ”と伝えておくがよい」
「ははッ!」
***
「ゼオン様は行方知れずになっている聖女ミレイナ様を探すため、各地に使者を送るなど血眼でした。
そして聖女様がオーシャンにいるとわかり、馬車に乗って出発しようとしたところを何者かに襲われお命を⋯⋯」
「ゼオン⋯⋯」
「心中お察し致します」
「かまわない⋯⋯なんだか不思議と落ち着いているわ」
「左様ですか⋯⋯ならばつづきを」
「つづき?」
「聖女⋯⋯失礼、オーシャン国妃ミレイナ様に会わせたいお方がおります」
「?」
***
「こちらです」
魔王軍によって廃墟になった建物⋯⋯
「ここに誰か住んでいるの?」
「3日ほど前からですが、どうぞ」
どうぞ? なんか私がお邪魔する形みたいだけど、不法滞在じゃ⋯⋯
「おかまいなく」
は?
こんなんでもいちおう王妃だぞ。
それにしても薄暗い部屋だ。
そしてカビ臭い。
「⁉︎」
そこにはボロボロのベッドの上に横たわる女性の姿が⋯⋯
「ルイズ!⋯⋯」
離れたベッドに寝かされている赤ん坊はおそらく⋯⋯
「この親子、ずいぶんと衰弱しているわね」
「はい。ルイズ様は肺を患い、デューグ様にお乳をあげることができないのです」
「どうしてルイズがここに?」
「ウィズ公爵が国家転覆の疑いで処刑されたあと、気をおかしくされた公爵夫人が
家来を使って妾(めかけ)だった侍従を亡き者にいたしました。
この気に乗じてゼオン様も何かしかねないと案じた我々は屋敷に火が放たれる直前、ルイズ様親子を救出いたしました」
「でかしたわね」
「ありがたきお言葉。ですが、ルイズ様はそれからというものも抜けのから、
王国のメイドも付き従わせましたが、ついにはデューグ様の面倒をみるのも放棄する始末。
ミレイナ様を頼ってオーシャンを目指す道中、お身体を崩され病に⋯⋯」
「どうして私なの?」
「それはミレイナ様がルイズ様にとって唯一残された家族だからです」
「家族⋯⋯そうだったわね」
「調べましたが、ルイズ様はミレイナ様の妹君です」
「妹⋯⋯」
私はゆっくりとルイズが横たわるベッドに歩み寄った。
こうして間近で血のつながった家族の顔を見るのははじめてだ。
「ミレイナお願い⋯⋯」
そういって彼女は私の手を握る。
痩せ細り、か細い手⋯⋯
もって数ヶ月か⋯⋯
無理に言葉にしようとしなくていいから、あなたの言いたいことはわかる。
わかるから⋯⋯だからねーー
「断る。私は聖女の力であなたを救わない」
「⋯⋯」
「ミレイナ様!」
「あなたは黙って!」
「はッ!」
「ルイズ、あなたは大勢の命を奪ったのよ。私から生まれてくるはずだったクランの子供たちの命よ。
罪を償いなさい」
「ごめん⋯⋯なさい⋯⋯」
「天命を全うしなさい。これがあなたの罪滅ぼしよ」
私はルイズを抱きしめる。
「そして生きていてくれてありがとう。妹のルイズ」
「お、おねぇちゃん⋯⋯お姉ちゃーん!」
ルイズは子供のように泣いた。
そして私の目にも涙が滲む⋯⋯
***
1年後
オーシャンの浜辺
「母上ー!」
「こっちにおいでデューグ。なにを拾ったの?」
「貝」
「ピンク色が綺麗だね」
「母上にあげます」
「じゃあ、イヤリングにしようかな」
「おーい! ミレイナ! デューグ!」
「父上ーッ!」
「クラン!」
いつか想い描いていた未来。
それとは少し変わってしまったけど。
波打ち際、旦那様と子供を追いかけながらはしゃぐ私。
たとえ血が繋がっていなくても私たちは楽しく家族をしている。
今日も笑顔は絶えない。
おわり
聖女は戦わない〜悪役令嬢に追放されてはじまる旅の物語 ドットオー @dogt
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