第8話「ふたり」


「ようやく着いたぜ!」


「⁉︎ ウソ⋯⋯」


海沿いの国家 “オーシャン”


ここは魔王軍によって最初に滅ぼされた土地だ。


私たち勇者パーティーが駆けつけたときにはすでに遅かった。


グリザード領ほどしかない国土は見える建物すべてが破壊されて

住んでいた人の姿はほとんど見当たらないほどにひどい状況だった。


完全な壊滅状態。


それが見違えるように復興に向かっている。


「おお、王宮ができてる。前のより小ぶりだけどこっちの方が質素な感じでいいぜ」


「?」


「てことはいま立っているのがメインの大通りか。

道幅も拡張されて、これなら荷馬車が行き交いができて物資の流通もよくなるな。

おお! こっち見てくれよ」


「ちょっと待って」


「ここなんかパン屋ができてる!」


クランがパン屋の窓に顔を貼り付けて中の様子を眺めはじめる。


「クラン。みっともないから離れて」


この猿ははしゃぐとすぐコレだ。


「クランはここの出身だったの?」


「そうだぜ。言わなかったけ?」


「はじめて聞いたわ」


「うおおお! あっちにも何かできてるぜ」



『おふたりさん』


パン屋の中から店主が出てきた。


「「⁉︎」」


驚くことに見知った顔だ。


「おひさしぶりです」


「おお! オルザじゃないか!」


「リニムの街で会ったときの」


「オーシャンで店をはじめてくれたのか」


「はい。魔王軍に滅ぼされて以降は人も寄り付かないなんて聞いていたんですが

来てみて大正解でした。クランさんのお誘いのおかげです」


「お誘い? クラン、そんなことしていたの」


「1年も一緒に旅していたのに気づいてなかったのかよ」


「気づくわけないわ。あなたに興味ないんだもの」


「⋯⋯まぁ、そうだぜ。俺はこの国に人を戻したくて出会ったおもしろいやつに声かけてたんだ。

この国で新しいことはじめておもしろいことしようぜって」


「クランさんのおっしゃるとおりでしたよ。この国は一回滅んだからこそ、一から新しいことがはじめられる。

それが非常におもしろい。ここはいろんな人たちが集まっていろんなことができる。こんな国、他にはない。

みんな生き生きしてますよ」


「そうか、そうか」


「意外ね。クランの頭もちゃんと考えるってことができたのね」


「なんだよそれ」


「褒めているのよ」


「⋯⋯けなしてない?」


『大変よくできました』


「⁉︎ 急にそんな顔するなよ⋯⋯ドキってなるじゃん⋯⋯」


「?」


自然と頬が緩んだ気がしたけど気のせいか。


「おふたりさん。うちのパンです。ぜひ持っていってください」


「ありがとう」


「こんなにたくさんくれるのか!」


「港にも行ってみてください。アイスクリームというめずらしいものが食べれますよ」


「うおおお! 行ってみるぜ」


「すぐはしゃがない」


***


「ねぇ、クラン」


「なんだ?」


「こうやって観光も楽しんだし、アイスクリームもおいしかった。私は明日、ここを離れるの。明日よ明日」


「そうなんども言わなくてもわかってるよ」


「そっ」


「じゃあな」


「本当にあなたはここで旅をやめてしまうのね」


「そう話したはずだ」


「ねぇクラン。私、去っていく人を引き止めたりしないのよ」


「それは勇者パーティーは命がけだからか?」


「そうよ。クラン、もう少しだけ私と一緒に旅を続けませんか?」


「⋯⋯」


「⋯⋯」


「なんだよ。最初の頃は金魚のフンとか言っていたクセに」


「もう一度は言わないわ」


「すまん。俺はここに残る。ここに集まって来てくれた人たちとおもしろいことやりてぇんだ」


「だったらもう何も言わない。さようなら」


グスン


なんで涙が溢れるのかしら?


しかもクランに見られたくないから咄嗟に顔を隠した。


思い出した。


これは寂しいという感情だ。


私にもこんな感情が戻って来たんだなぁ⋯⋯


***


翌朝


宿を出発して次の街へ。


こうしてようやく私はひとり。


気のみ気のまま。


今度こそ。


「クラン、行く⋯⋯」


なにをしているんだ私ーー


***


『そこの方お待ちください』


「⁉︎」


甲冑を着た兵士2人に声を掛けられた。


わ、私がなにをした?


「特徴が一致する。この方だ」


「待ちなさい! ちょっと王宮まで来てもらう」


2人の男に両脇を抱えられて引きづられてゆく


「え、えええ!」


***


王宮に連れて来られた⋯⋯


正面には玉座が。


あきらかに王様と謁見する部屋だ。


どうしてこうなった?


私、何かやっちゃったか?


思い出せ。


うーん。以前、オーシャンで魔王軍と戦ったときに」強力な魔法を使ったような⋯⋯


⁉︎ もしかしてそのせいで国宝を吹き飛ばしてしまったとか⁉︎


ダメだ。心当たりが多すぎる。


『頭が高い。王の御成である』


ヤバイ。ひざまづかなききゃ!


『よろしい。表をあげよ』


「⁉︎」


煌びやかな金の装飾が入った王族服を身に纏う青年はよく見知った顔なのにとてもキラキラしていて凛々しく見える。


「クラン⋯⋯なの?」


「昨日ぶりだな。聖女ミレイナよ」


「はぁ⋯⋯」


「俺はこの国の王子。そしてさきほど国王に即位した」


「⋯⋯」


「ずいぶんと驚いているな」


「は⁉︎ はははぁ。(棒読み)国王様、数々のご無礼お許しをー」


「ほう。俺をいじる余裕はありそうだな」


「いったいどういうことなの?」


「国王としてお願いがある。我が妃となってこの国繁栄のために

俺を支えてくれ」


「⁉︎ 急にそんな⋯⋯」


「建物は治ったしたけど、戻って来てくれた民の心はまだまだだ。

ミレイナが旅して見て知ったことを広めてほしい。

手紙にもしたためていたじゃないか」


「わかっていたのね」


「集まってくれたおもしろいやつらと新しいオーシャンをつくろう!

俺はこの国の民を笑顔にしたいんだ」


「ズルい⋯⋯民のためとか言われたら断れないじゃない」


なんで涙が出るの?


これは嬉しいという感情のはずなのに。


「よろしく頼む」


「こちらこそ」


つづく




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