第4話「外の世界」
旅をはじめる。
気のみ気のまま。
放浪の旅。
魔王の手から救ったこの世界は未だ混乱が残っていた。
街道を歩いていると後始末のほうが大変なんだと気付かされる。
かつては建物だった瓦礫がいたるところに積まれている。
向こうの一角にはテントが軒を連ねている。
おそらくあのキャンプ地は闇市。
食糧の需給が逼迫している証拠だ。
みんな食べ物に困っている。
グリザード領も物価の高騰が問題視されていたな⋯⋯
すれ違う人たちの中に難民となった子供たちが鎖で繋がれ商人に引き連れられていく。
そのような目で見られても私にはどうすることもできない。
地面に無造作に突き立てられた瓦礫の一部たちは犠牲者の墓標⋯⋯
グリザード領も王都も魔王の被害から免れた。
ゼオンと私が平和を取り戻したんだと誇らしげにいた。
だけど⋯⋯外の世界に出たら現実はまったく違った。
魔王の被害に遭った国では今もまだ戦いは続いている。
ーーデクタの宿場
今夜は宿場街デクタで宿を探す。
行商人の一行が部屋を押さえていてなかなか見つからない⋯⋯
困ったものだ⋯⋯
だけど、経済活動が再開してきたことは喜ばしいことだ。
街の雰囲気は活発。
酒場もにぎやかだ。
よく勇者ギルドでゼオンやパーティーメンバーと魔王軍の討伐方法巡って日が昇るまで語らったものだ。
「なつかしい⋯⋯」
「おっとお姉さん。ひとり? 俺たちと飲んで行かない?」
肩にもたれかかってきた⋯⋯
「宿を探しているところなんで⋯⋯その遠慮させていただきます」
「だったら、俺と朝まで。どう?」
「遠慮します! 急いでいるので」
「ちょっと待ってよ!」
待ちたくありません!
ああいうのはしつこいから相手にしない。
「この辺りもまだ治安悪いから気をつけろよぉ!」
あの金色の短髪の男性は身なりからして冒険者だろうか?
歳は⋯⋯私やゼオンと同じくらい。
日没前から酒とは⋯⋯何か難易度の高いクエストでもクリアしたんだろうか?
酒を煽ってみなを盛りあげている。
ああいう男はちょっと⋯⋯
***
なんとか宿をとれた。
普段は物置にしているという屋根裏部屋だが、女性のひとり旅ということでなんとか泊めてくれた。
とりあえず今晩は野宿を避けられた。
ろうそくに灯りをともし、紙にペンを走らす。
文字は勇者パーティー時代に頻繁に使用した暗号文。
ゼオンに私が見てきた外の世界を手紙にしたため教えるのだ。
迷惑に思うかもしれないけど、魔王を倒した彼ならきっと乱れた世の中を救ってくれるのではと
希望を抱いてしまうーー
「未練ねーー」
『火事だぁー!』
「⁉︎」
半鐘の音がけたたましく響く。
宿屋のマスターが扉を蹴破って叫んだ。
「お客さん逃げて! 近くで火事だ。ここも危ない」
「何が⋯⋯」
「おそらく盗賊だ。逃げるときに火を放ったんだ」
「それで?」
「ヤツらは闇市に流す物資を奪うためにこの辺りに目を付けていて、
こちらも冒険者雇って警戒していたんだけど、ついにやられたか⋯⋯」
ああ⋯⋯さっきの人たち⋯⋯
あれじゃあダメだわ。
***
火が出ているという宿屋に駆けつける。
すごい勢いで燃えている。
すぐに消すなんてむずかしい。
『中に子供が! 誰かなんとしてくれッ!』
しかたないーー
『風の精霊よーー ⁉︎』
そのときだった“ビュン”と人影が私の隣を抜けていった。
そして瞬く間に炎の中へ。
「「「きゃあああッ!」」」
周囲の悲鳴がこだました。
「ウソ⋯⋯」
アレはさきほどの金色の短髪の男性だ」
***
「まったく無茶して⋯⋯」
ヒーラー魔法の展開。
「へへへ、あんた聖女様だったんだな」
子供は無事だった。
そして愚者のこの男性は丸焦げ寸前の大やけど。
私がいなかったら命はなかった。
「反省」
「はい」
***
翌朝
私は次の街へと参道を歩く。
うしろから。
「おーい! 待ってくれよ」
昨日の男。
「俺はクラン! 旅のお供にいかがかな」
「結構」
「そう言わずにさぁ」
旅の道中、金魚のフンみたいなのがくっついてくるようになった。
「まぁ盾にくらいなるか」
「は?」
つづく
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