第3話「追放」

私は戦えないからだになった。

そして子供を産めないからだになったーー


領主を護ることができなくなった私はもうお払い箱。


国王も深く失望したとの噂を耳に聞く。


そんな私を不憫に思ってくれたルイズ様は私をルイズ様の侍従にして下さった。


毎晩、寝所の扉の前に立ち、2人が子づくりに励む、なめかしい声に耳を抑えることも堪え、情事ことが終わるのを待つ。


「ミレイナ」


私の名前を呼んで、シーツで前を隠した全裸のルイズ様が扉を開ける。


「ルイズ様、いかがいたしましたか?」


『ベッドメイキングお願い』


***


私はゼオンとルイズの汗でぐっしょりと濡れたシーツを黙々と交換する。


考えちゃダメ。なにも⋯⋯


考えたら心が折れてしまいそうになるーー


***


「ミレイナ⋯⋯」


この日、私はゼオンの部屋に呼び出された。


言葉を交わすのは久方ぶり、2ヶ月くらいは経とうか。


魔王軍と戦っていたころはあれほど言葉を交わしたはずなのに⋯⋯


「ミレイナ。素直に話す。俺はお前を側室にと考えている」


「⁉︎」


「いや、考えていたか⋯⋯タイミングを探していたんだ。

王命には逆らえない。だけど側室ならと⋯⋯」


「ゼオン⋯⋯」


「それももう叶わない」


「え⋯⋯」


「お前はもう子供も産めない身体になってしまった」


「⋯⋯」


「ミレイナ、俺の国から出て行かないか?」


「⁉︎ それだけは、それはだけはやめて!」


「ミレイナ」


「私はゼオンのそばにいたい! 側室になんてならなくてもいい。ゼオンのそばにいさせてください!」


「言わせないでくれ。お前を見ていると俺がツラいんだ!」


「⁉︎」


「侍従にまでなって懸命に働くお前の姿を俺は見ていた。だけどもう耐えられない⋯⋯出て行ってくれ⋯⋯

その方がお前にとって幸せなんだ」


***


“すぐに答えなんか出せない”


そのひと言を告げて部屋から立ち去った。


私にだってわからない。わからないんだ。

このやり場のない感情をどこにぶつけたら。


「聖女様!」


兵士が私を聖女と呼んで駆け寄ってくる。


「私はもはやただの侍従です。もう聖女などとは⋯⋯」


「お願いがあります」


***

兵士は私を連れて地下へとつづく階段を降りる。


「先日、グリザード領を襲撃した野盗を捕らえたんですが、

この男がずっと錯乱状態で話が聞けないのです」


男は鉄格子にしがみつき、うめき声をあげている。



「俺は聞いていない!聞いていない!聖女様をさせだなんて!」


「これは⋯⋯」


「聖女様に危害を加えたことで神罰を恐れているのです。

聖女様もお気持ちは複雑でしょうがこのままでは話になりません。

どうか癒しの力でおとなしくさせていただきたい」


「汝よ⋯⋯誰になにを聞かされなかったのですか?」


私はすぐにでもこの男を磔はりつけにしてでも殺したかった。


この男のせいで産まれてくるはずの⋯⋯はずの⋯⋯命が奪われた⋯⋯


でも聞きたい。


今回の襲撃は不可解なことが多いからーー


私は男の額に手のひらを近づけて魔法陣を展開した。


「話しなさい⋯⋯」


「お、俺は⋯⋯ロイド国の兵士だった⋯⋯家族を食わしていかなきゃならねぇ。

だから俺は士官先を求めてグリザードへやってきた。

そしたら伯爵夫人が妙なことをいうんだ。

門前に集まった野盗を討伐しろと。とくに頭目の女を殺せば高待遇で迎えいれると。

あの日、暗くてよく見えなかった。だけどたしかに女がいた。

俺は無我夢中で刺した。だけどとどめはさせずに捕らえられた。

あとから聞かされた。俺が刺したのは聖女様だ。

アレは! アレは! 母ちゃんを病から救ってくれたあの聖女様だ。

俺はなんということを!」


「ルイズ⋯⋯」


気づいたら私の頬に涙が伝っていた。


「⋯⋯」


すべてを口にした男は絶叫し、そのまま息絶えた。


私の頭の中ですべての点が一つに結んだ。


王命でゼオンとルイズの結婚を国王が命じたことも。


私が聖女でありながら兵士を束ね、国防を命じられたことも。


侍従として私をそばに置いてくれたことも。


それはすべて裏切り⋯⋯


ルイズ⋯⋯あなたの



「うああああん」


私は人目もはばからず泣いた。泣いて、泣いて、泣き果てた。枯れるまで⋯⋯


***


領内がルイズの懐妊に沸いたこの日、私はグリザード領をあとにした。


つづく

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