本当の名前
「はぁ。わかったわよ。頼むから落ち着いてちょうだい。私たちは生きて帰ることが1番大事ですもの。ね、清野さん?」
「…へ?」
風間さんは赤城が犯人と分かってから放心状態だった清野さんに突然話しかけた。
清野さんはまだ魂が抜けている。
「まだ気持ちが落ち着いてないみたいね。大丈夫ですか?清野さん?」
「…清野…。」
清野さんはなぜか自分の名前を呟いた。
「あぁ、そういえば。赤城さん。あなたもちろん偽名よね?本当はなんて言うの?教えてよ。それを教えることくらい出来るわよね?」
「…。」
赤城はなぜか少し困ったように悩んでいた。少しだけ時間が経ったあと、覚悟したように自分の名前を告げた。
「北条礼央です。聞いてどうするんですか。」
「っ…。」
私は清野さんが静かに驚いたのを見逃さなかった。
そして彼女は泣き始めた。
「気づかなかった…。あなただなんて、気づかなかった。」
清野さんはそこから涙が止まらない。
他の人は全員彼女の方を見て唖然としていた。
赤城はかつての余裕さはなく、絶望の表情を浮かべていた。
「…清野さん、やっぱりあなた。」
風間さんがそう口を開いた。こうなることが彼女は予測できていたようだ。
「もういいの。なんだか、今から隠さず全てを話せることが、自分にとってやっと解放されたようで、スッキリしてる。皆さん聞いてもらえますか。」
赤城が止めるかと思ったが、意外にも彼は静かだった。改めて彼の方を向くと、完全に意気消沈して、無の顔をしていた。
私が何より不思議に感じたのは彼女が今までで一番晴れやかな表情を浮かべていることだった。
「今から皆さんに、今回この島の旅館で起きた事件の全てをお話します。」
全員何も言わず、動かなかった。
夢の奴隷 @haruri00000
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