【第8話】終末の前奏曲

「はぁ…はぁ…お前達と会ってからいい事がひとつも無いな」


俺は岩下に向け悪態を放つ。こんな事も言いたくなる。なんの説明もないまま病院にぶち込まれてから連戦。体も心もボロボロだ。コイツらは疫病神以外の何者でもない。


「まぁ、そう言わんといてくださいよ。僕達からしたら君は降って湧いた女神の様なものですから」


「ハァ?何言ってんだお前」


「今までなんの動きも無かった状況が変わろうとしてる。まぁ、コッチの話ですわ」


俺は岩下の言葉を聞いて深くため息をつく。

俺はまだ何も理解出来ていない。特殊警備局の事、結弦の事、罪の芽病の事。そして、『聖歌隊』と名乗ったアイツのことも。

こんがらがった頭を整理しながら夜空を見上げる。 先程までは月に目を奪われ気づかなかったが、今日は綺麗に輝く星達が夜空を支配していた。


「いつか全部教えろよ」


「いや、それは無理な話でしょう。君から僕らは何も教えて貰ってないんですから」


「お前、本当にいい性格してるな」


「良く言われます」


ニコニコとこちらを見る岩下。岩下に「褒めてない」と俺が言うと「勿論分かってます」と返された。本当にいい性格してやがる。


「お前ら大丈夫か~」


相良の心配する声が聞こえてくる。大丈夫な訳は無いが、コイツらのお陰で幾分かマシなのは確実だろう。


「…かったよ」


「へ?」


「だから…助かったって言ってんだよ!!」


俺は少し恥ずかしい気持ちもあったが、素直に相良達に伝える。

相良達は少し拍子抜けした顔をした後大きく笑った。


「ハッハッハ!お前は面白いな~少年。こんな事に巻き込まれて感謝かよ~」


「ばっ!勘違いすんな!!助けられたらのは事実だから言っただけだ!テメェらの事は死んでも嫌いだよ!」


顔が熱くなるのを感じる。恥ずかしさで俺は死にそうだ。


「もしかして天野君ってツンデレ…?」


「テメェらいい加減にしろよ!殺すぞ!」


「やばいやばい!せっかく助かったのに死ぬ前に撤退ですわ」


岩下はそう笑いながら走っていく。相良も大笑いしながら歩き始めた。


「クソっ…なんで俺がこんな目に…」


俺は一人で愚痴を言いながらもう一度夜空に目を向ける。

熱くなった顔を冷ますように、夜風が頬を撫でる。


「ほら、行くぞ」


突如、寝転がる俺の顔の前に綺麗な手が現れた。顔を横に向けると、ヤマテがこちらに手を差し出していた。


「ん、サンキュ」


俺はヤマテが手を差し出していた事に少し驚いたが、その手を取り立ち上がる。

時計を見ると既にあれから1時間が経過している。


「明日も朝早いからな。帰るぞ」


「早いって何時だよ」


「5時起きだ」


「え、俺も?」


「当たり前だろう」


またため息がでる。静まり帰った公園は、俺のため息だけが響き渡る。最悪だ…


「最悪だよ」


「あぁ、最悪だな」


「まぁ、でも良いか」


俺は星達の光る夜空へ手を伸ばし、新たな居場所へと歩き出した

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