【第3話】記憶
「それにしても…『観察対象』との接触に謎の力。お前には色々聞かなければいけないな」
黒の背広を着た女の方が俺に詰め寄る。綺麗なロングの黒髪で黒のマスクをしている。少しキツそうな目付きをしているが、マスクをしているのにも関わらず彼女の可憐さが際立つ。多分美人に入る部類なのだろうが、無機質なその声はそれを帳消しにする程であった。
「先輩、いきなり高圧的過ぎますって~。あっ、自分らはこういうもんですわ」
男は胸ポケットから手帳を取り出し、こちらに見せる。そこには
特殊警備局というと、去年『罪の芽病』による犯罪に対して新設された組織だったはずだ。先程の争いを見て誰かが通報したのだろう。
「あ、自分は岩下って言います。それであちらの女性は僕の先輩でヤマテさんです。寝た状態で申し訳無いんですけどちょっと事情聴取受けて貰えます?」
目が笑っていない。何か有無を言わせぬ迫力があり、俺は思わず目を背けてしまう。そもそも、こんな怪我人をこの状態で放置する人間がいるだろうか。なんて非情なヤツらだ。
しかし、いくらあっちから攻撃されたとはいえ、殺したのをこいつらに見られたのは不味かった。
「あんたらに力の説明しても分かんねぇよ。それに、俺は自分の身を守る為にやっただけだ」
「そんな事には興味が無い。それらは警察の仕事だ。私達が知りたいのは何故お前が観察対象と接触したのか、そして相手に触れず両断したのか、それだけだ」
ヤマテと呼ばれた女は淡々とした口調で話す。そこには一切の感情は感じ取れず、まるでロボットが喋っているような感覚さえ感じる。背筋が凍るようなその声は、先程の岩下とは違う迫力があった。
「ま、そういう訳ですわ。しょっぴかれたくなかったら話して貰えます?あ、後そっちの女の子もこっち来てもらっていいですか。君にも聞くことあるから…っと、すんません、先輩。課長から無線入ったんでちょっと外します」
岩下がその場を離れると、入れ替わりの様に先程の少女がこちらに寄ってきた。コイツには聞きたいことがあるが、今はそれ以上にこの状況をどうするかの方が先決だ。
無言の圧力が続く中、俺は上手くやり過ごすにはどうすれば良いかと考えていた。しかし、その静寂を破る音がヤマテの方から聞こえてきた。
「どうだ?喋りたくなったか??」
ヤマテは拳銃をホルダーから取り出すと俺の額へ当てる。流石のこの状況に俺は背中から冷や汗が垂れる。
こいつの目は躊躇しない目だ。本当に撃つつもりだろう。
「死体が一つから二つに増えたところで構わんだろう。どうだ、まだ話す気は無いか…?」
銃のトリガーにかける指の力が段々と入っていくのが分かる。
話す気が無いも何も、俺は本当に知らないし説明しても理解されないからしょうがないだろう!クソっ、こいつらもここで殺っちまうか…そう考えるが、流石にこの足で二人を相手取るのはキツすぎる。こんなものは事情聴取ではなく尋問では無いか。
ヤマテが今にも銃を発射せんとする時岩下が戻ってきた。
「先輩、警察の介入がありました。処理班と医療班が到着次第本部に戻れと。あ、それから『観察対象』だった
「命拾いしたな」
女はそう言うと銃を元の場所に戻す。
天野、天野結弦? …?天野という同じ苗字。流石にそんな奇跡は無いだろう。お兄ちゃんという言葉からもしかしてとは思ったが。こいつは…
岩下とヤマテはパトカーのサイレンを聞きつけると、背中を向け立ち去って行く。テレビの報道でも詳しい解説が無い特殊警備局とは一体なんなのだ。アイツらは本当に同じ人間なのか…?
「お兄ちゃん大丈夫?」
少女がこちらに駆け寄ってくる。これを見て大丈夫だと思えるのならば一度喰らってみるといい。二度と立てなくなるのではと言う程痛い。
「お前…俺の妹なの?」
少女はコクリと頷くと、ポケットから謎の鉄の欠片を取り出した。
「あ?なんだそれ」
「三年前、一鉄おじいちゃんがくれたの。危なくなったら遊星お兄ちゃんの所に行けって。これがその道を指し示してくれるって」
「じ、ジィちゃんが!?」
鉄の欠片は震えながらこちらに切っ先を指し示している。いったいどういった理屈でこうなっているのだ。
いや、それよりも何故ジィちゃんがこの話に関与してくる。三年前といえば、丁度あの火事が起きる少し前くらいだろうか。何故ジィちゃんと俺の妹が接触している。それよりも、何故俺に妹が居ることを黙っていた。
「お前今までどこで過ごしてたんだよ」
「お父さんとお母さんと…でも、一年前、あの事件に巻き込まれて死んじゃったの」
「あの事件ってなんだよ」
「3月18日…通称『
贖罪の水曜日…?どこかで聞いた事がある様な…無いような…なんだ、頭がだんだんクラクラ…してきた…た。
突如俺は過呼吸を起こし、肺が押し潰されそうになる。苦しみにもがく中、意識が落ちていく。
最後に聞こえてきたのは、サイレンの音と結弦の俺を呼ぶ声だけだった。
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