第52話

「確かに神様の勝手な都合であっちこっちで頻繁に神隠しが起こってたら世界がどうにかなるな。てゆーか、滅ぶな」


「凄えパワープレーなヘッドハンティング合戦みたいな感じか」


「実際に神様の都合で違う世界に飛ばされた身としては、そんな事が横行する世の中なんて溜まったものじゃありませんね」


『ええ、ですので神々と言えども最低限のルールは守らなければならないのです。そしてこの度のルール違反はその中でも重罪なのです。だから直ぐにでも罰したい所なのですがそこで問題となってくるのが高尾一子さん、貴女なのです』


「わ、私ですか!?」


 パチンコの女神から重要な所での名指しに少し上擦った声を上げてしまう一子。

 しかし、そんな一子の様子を気にも止めずにパチンコの女神は話を先に進めていく。


『ここで話を元の議題に戻しますね。貴方の存在は現在、ゲルゼ・ブラディオルスとかなり強く結び付いています。ゲルゼの化身として深くこの世界に馴染んでしまった貴女は、ゲルゼが罰せられ神性を失ってしまった場合にどのような状況に陥ってしまうのか予想が付かないのです』


「そんな!?それは罰する側の神様でもわからないことなんですか?」


『そもそも単一世界の信仰神が他世界の人間とこれ程強く結び付く事例はこれまで見た事がありません。恐らく貴女の存在自体がゲルゼにとても近かったことも原因の一つでしょう。我々神側としても何の落ち度もない貴女を危険な状況に晒すのは本意ではありません。しかし貴女の存在はゲルゼによって巧妙に隠されていて、今までは他の神々が繋がりを持つ事が出来ずに手出しする事が出来なかったのです』


 一子はパチンコの女神の説明に何だか納得がいったという様な表情を浮かべる。


「だから、行動の自由が少なかったんですね。そう言われて思い返してみるとよくわからない指示も結構ありましたし、気にならない程度には距離を取ってくれてましたけど基本的にはずっと監視も付いていましたからね」


『それは他の神々と繋がりを持たせない為の指示でしょう。例えば、衣類に関しても制限があったのではないですか?その衣装は貴女を囲う為の結界の様な物なのです』


 パチンコの女神からそう指摘されて、一斉に全員の視線が一子が羽織っている佐野さんのスーツのジャケットの隙間から垣間見れるV字アーマーに向けられる。

 そして一瞬間があり、あっという様な表情を浮かべ佐野さんと川口くんは罰が悪そうに顔を逸らし、一子はジャケットを強く交差させて身体を隠したのだった。

 …何だか気不味い雰囲気が周囲を漂う。

 しかし、そんな中でも川口くんが強気に発言した。


「俺は嫌いじゃないよ、それ。寧ろ大好物なくらいだし、何ならもっと面積少なくてもいいくらいだよ」


「いや、それだともう色々と隠せないだろう」


「そ、そうですね。これ以上の露出はちょっと厳しいです。グラビアみたいに見えちゃいけない物を後で修正する事も出来ませんし」


「あっ、やっぱりそういう事もあるんだ?」


「まあ、諸々の大事な部分はキチンとケア出来るようにはして貰ってますけどね。そこはモデルのことを第一に考えて現場が動いてくれてますので」


「へー、そういうもんなんだ」


「…それに比べてこの世界の教団の人達は酷いものでした。あっ、直接的なことはありませんでしたよ!でも、精神的に削られるようなことは多々ありましたし」


 そこまで言って一子は少し黙ると何かを曖昧返すように頷いた。


「…女神様の言葉で納得出来ることは沢山ありました。何であの人達がこんなエッチな装備の着用を強制してきたのかとか、生活のルールとか、それらは全て私を他の神々の目から隠す為にゲルゼが指示を出していたんですね」


『そういうことになります。現在貴女は長期間に渡ってゲルゼの神具を身につけていた為にそこに宿るゲルゼの力の影響を強く受けていて今や存在自体がゲルゼと深くリンクしてしまっている状態なのです。そのお陰でゲルゼに裁きを下した際に貴女にどのような影響が出るのか分からず今まで手を出せずにいた、ということは先程説明しましたね』


「はいっ」


 パチンコの女神の話を一通り聞き終えて、佐野さんは右手を頭の高さまで上げて説明フェイズから質疑応答のフェイズに移行する。


『どうぞ』


「1年間手を出せずにいたのに今になって接触を持ったってことは何か解決策が見つかったってことですか?」


『そうです。それは貴方達お二人のお陰です』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る