第51話
『まあ、問題と言っても貴女が悪いという事ではありませんのでご安心下さい』
「じゃあ、一体何が問題なんですか?」
『それは貴女をこの世界に連れて来た神です。いえ、私欲に取り憑かれてしまった彼女は既に邪神と呼ぶべきでしょうね』
「「「邪神!?」」」
パチンコの女神の口から出た物騒なワードに意図せず3人の声が揃う。
「ゲルゼは邪神だったんですか!?」
『正確には元々それに近い存在ではありましたが、今回の一件で邪神に堕ちてしまった、と言った所でしょうか。彼女は重大なルール違反を犯してしまったのです』
「ルール違反、ですか?それは私をこの世界に連れて来たことでしょうか?」
『そうです』
「えっ?それじゃあ、俺達をこの世界に連れて来た女神様もルール違反に該当するんじゃないですか?」
話を聞く限りだとパチンコの女神もそれに該当してしまう。
佐野さんは、当然の疑問としてその質問を投げ掛けた。
『いいえ、私にはその権限が与えられているのでルール違反には該当しません。そもそも神とは一体どのような存在だと思われますか?』
「神様の定義ですか?」
「何か禅問答みたいな話になってきたな」
触りの部分だけで既に強張った表情を浮かべている川口くん。
『神というものは万物の発生と共に生まれ、その一つ一つ全てに寄り添い宿る存在であり繁栄を見守る存在です。そして、司る対象の繁栄度合いがその神の力を表すものとなります。これはお二人には前にも話しましたね』
「はい、そうですね」
『しかし、それとは別に司る対象を持たない神も存在しています。例えば、宗教のような自身を信仰の対象とされる神です。かの神々は大抵の場合が生前の行いによって信仰の対象とされ、その過程で神に至った存在となります。ごく稀に実在しない想像の産物から信仰の対象となり、神へと至った存在もいますが』
「ッ!?つまり、ゲルゼは元は人間で神になった存在ということですか?」
あの圧倒的な存在であったゲルゼが元は人間だったという事実に内心驚を隠せない一子であったが、それよりも自分の今後に関わることへの関心が上回ったお陰で何とかそれを表に出さずに済んだ。
『そう言うことです。そして、2種類の神には大きな違いがあるのです。今回の問題のポイントはここにあります』
「違い、ですか?」
『万物に宿る神々はその性質上、単一の世界だけでなく現存している全ての世界で存在する可能性がある事から全ての世界へ干渉する権限が与えられています。しかし信仰によって生まれた神は、その根源となる存在が自身に由来するものなので自身が存在した世界にしか干渉する事が出来ないのです』
「なるほどね」
川口くんは、パチンコの女神の説明に大きく頷く。
そして、両腕を開いて太々しくこう宣った。
「俺はもう理解することは諦めたわ。佐野さん、後で結論だけ教えて」
「いや、今のが結論なんだけどね。それならもう川口くんは理解しなくても良くない?」
「ええ、仲間外れにしないでよー。俺にも噛み砕いて分かりやすい例題とか用いて根気強く説明してよー」
いつも通り、あっさりと突き放した佐野さんに川口くんは鬱陶しい感じで縋りつく。
「要望が厚かましい事この上ないな。えーと、つまり「ビール」って種別として定義された飲み物は世界中色んな所で数え切れない程生産してる会社があるでしょ?でも、それが「黒ラベ◯」って固有のブランドとして定義されたとしたら、それはサッポ◯一社でしか作れないでしょ?という感じの話」
「ああ、なるへそね。サンクス、殊の外ちゃんとした分かりやすい例えがスッと出てきて逆に引いたくらいだわ」
「構わんよ。そんな事言われるくらいならもう2度説明してやらんけどな」
佐野さんと川口くんの会話が毎度脱線して、何故かそのやり取りが終わるのをしっかり待ってからパチンコの女神が話を再開するという悪循環が既に出来上がりつつある。
2人は特に悪びれもせずパチンコの女神に説明の続きを催促した。
「失礼、続きをお願いします」
『先程説明した通り、ゲルゼ・ブラディオルスという女神はあくまでもこの世界でのみ存在を許されている神なのです。その彼女がこの世界とは別の、つまりは貴方達3人の本来生活していた世界から「高尾一子」という個人を許可なく拐かした。幾ら神とはいえ定められたルールを違反することは許されません。私利私欲を満たす為にこんな事が往々にして罷り通れば、まともに世界の秩序など維持する事は出来ませんからね』
パチンコの女神の説明に納得したものの少し薄寒さを感じる3人であった。
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