第49話
「何とか無事に戻って来れたね」
「だな。おっ、岩美がいるからここで間違いないな。元気だったか岩美?おっ、ちょっと見ない間に大きくなったんじゃないか?」
「いや、この短時間で岩の大きさに目でわかる程の変化があるとかどんな天変地異だよ。つーか、よく岩なんかの区別がつくね」
「佐野さん、何言ってんの?この質感の良さとか佇まいが周りの岩と全然違うじゃんか?なあ、岩美もそう思うよな?」
「川口くんこそ、岩相手に何言ってんだよ。岩にしか同意を求められないなら、もう人間辞めちまえよ」
岩美を撫でながら再会を喜んでいる川口くんは放って置いて、佐野さん達は3人で今後のことについて話し合いを始める。
「さて、とりあえずは今晩の寝床をどうするかだよな」
「リンちゃんがいるなら獣人族の国に向かうのはどうですか?守り神っていうくらいなんですから何か手助けを、とまでいかないかもしれませんが宿の手配くらいならなんとかして貰えるんじゃないですかね」
「なるほどね。その辺はどうなの、リン?」
2人は期待を込めた視線をリンに向ける。
しかし、それに対してリンの表情はあまり芳しいものではなかった。
「うーむ、妾が自分で言うのもなんなんじゃが寧ろ守り神たる麒麟を従魔にしているなど奴等の反感を不要に買う結果になるんじゃないかのう」
リンはそう言って自分の首に刻まれた従魔の印を指差す。
それを見て佐野さんと一子はなるほど、と顔を見合わせた。
「ああ、そう言うパターンもあるのね」
「それは困りましたね」
うーん、と3人が頭を悩ましていると岩美との触れ合いに満足した川口くんが話し合いの場に入ってくる。
「どしたの?皆して微妙な顔して?」
「いや、今日の寝床をどうしようかと思ってね。人間の国だけじゃなくて獣人族の国も難しそうなんだわ」
「そうなの?じゃあ、もういっそここに店舗建てちゃえばいんじゃね?」
川口くんは、3人の悩みなど吹っ飛ばしてあっけらかんとそう言い放つ。
「店舗をここに?でも、こんな人気の無い所にお店を建てても繁盛しないよ」
「別に繁盛しなくてもいいじゃんか。ほらパチンコの女神様が言ってたろ?建物の設置自体は費用掛からないってさ。一番小さい店舗で最低限の設備だけ入れればランニングコストもそんなに掛からないだろうから寝泊まりする拠点として建てるのもありかなって。社員寮みたいな感じでさ。それにそのランニングコストだって2台だけスロットかパチンコの台入れて俺と佐野さんの2人で一日中打てば何とかなるんじゃね?」
「…なるほどね、それもアリか」
川口くんのその提案は佐野さんも悪くないと感じたらしく、店舗管理のアプリで計算を始める。
「まず、台は何入れるよ?」
「同じのは飽きたら悲惨だからとりあえずパチンコとスロットを1台ずつ入れておけばいいんじゃね?演出短い機種でその辺でいいでしょ」
「パチとスロを1台ずつね、最新台じゃなければとりあえず合わせて60万パチカスくらい見ておけばいいか。冷暖房は必須だろ?業務用の天井埋め込みのやつでこの広さだと、…20万のでいいか。あっ、ホールだけじゃなくてバッグヤードとかもいるじゃんか。これならレベル1の店舗でも男女で寝床を分けられるな。事務所的な小部屋は高尾さん用にして、クーラーは8万くらいのでいいかな?あと簡易キッチンとトイレは必要か。川口くん、高尾さん、ウォッシュレットは必要?」
店舗の内装を決めている内に段々楽しくなってきた佐野さんは、次々と項目を選んでいく。
「俺は欲しいかな」
「私はこの世界に来て一年経つので簡素なトイレに慣れてしまいましたけど、出来れば欲しいですね」
「オケ、ウォッシュレットは3万か。意外と安いんだな」
「あの、シャワールームとかも設置出来ませんか?」
「おお、いちごちゃんそれいいね」
「俺と川口くんの男2人だとその発想は出て来なかったな」
そして、その波は次第に川口くんと一子にも広がっていくのだった。
「えーと、シャワールームは、…7万か」
「意外と安いんですね」
「ガッツリ風呂って感じじゃなくて、簡易ブースみたいなやつだから」
「それでも、無いよりは全然いいです」
「シャンプーとかは景品の中にあるし、布団も景品にあったな。歯ブラシ関係もあるし、洗剤もある。食料品と酒類もあるし、あっ、米があるから炊飯器もいるじゃんか。そうなるとお湯沸かす為にケトルもいるし簡単な調理器具も欲しいかも。この辺のキッチン用品は店舗の備品扱いで発注出来るのか、滅茶苦茶助かるな」
最初の最低限の設備という話はどこにいったのか、次々と欲しい物を言い始める3人。
リンは、話の内容がよくわからないからか飽きて昼寝を始めていた。
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