第48話
「ホントにそれでいいの?」
「だって、この格好見て下さいよ。どんどん際どくてエッチな感じになってきて正直困ってたんです!でも、聖女の義務として着ろって教団幹部から強要されてそのせいで周囲からは痴女とか性女とか陰口叩かれて、監視も凄く厳しくて自由なんかも少なかったですし、変人と思われてたせいで特に親しい知り合いも出来ませんでした。それに食事も全然美味しくないし、行く宛がないから私はあの国に居ただけなんです!」
一子は、ジャケットから身に付けている神具のチラッと覗かせながら王国への恨み言をぶち撒ける。
その勢いに佐野さんはちょっと引き気味になるがここは大人の対応を何とか取り繕う。
「おっ、おお。そうなんだ」
「はいっ、だから私もお二人について行きます」
「男2人と一緒って忌避感とかない?大丈夫?」
「大丈夫です。お二人のことは悪人には思えませんし、それに可愛いリンちゃんもいますから。ああ、あと、私こう見えて滅茶苦茶強いんですよ。だから何かあったらこう、もぎ取ってやりますから心配しないで下さい」
一子は2人の目をしっかりと見据えて右手の拳を胸の前に突き出し、力強く握り締めながら良い笑顔を浮かべてそう言い切った。
そこから連想される事態を想像して佐野さんと川口くんは背筋に冷たい物を感じながら、少し強張った笑顔を浮かべるのであった。
「ま、まあ、やっぱり男の2人旅より女の子が1人いた方が華やかになるよな」
「川口くんはよく気をつけていないと男1人と女2人の旅路に変わっちゃうかもね」
「やめて、冗談でも俺の大事な所がもぎ取られる未来なんて想像しないで!」
「それじゃあ、リン。戦闘は無しで向こうに気付かれない内にこっから逃げるよ。いいね?」
《ふむ、つまらんのう。しかし、ここは主様の命令じゃから素直に従う事にしよう。ほれ、さっさと妾の背中に乗るがよい》
3人の動向を見守っていたリンは、少し納得いかないような雰囲気を出しながらも佐野さんの言葉に頷いて3人を背中に乗せる。
リンが飛び立つ間際、一子は未だ意識の無いラムリーツを方を見たが何かを振り切るように頭を振ると前に向き直る。
そんな一子の様子を見て、佐野さんが声を掛ける。
「大丈夫?」
「ええ、どうしてラムリーツ様があんなにも必死になって私を守ろうとしてくれたのか、それがちょっとわからなくて。私達の関係はお世話にも良好とは言えませんでしたから」
「案外、お姫様は高尾さんのこと親しく思っていたのかもねぇ」
「そう、なん、ですかね?」
「まあ、そんな難しく考えることないんじゃない?縁があったらまた出会えるだろうからそん時にでも聞けばいいよ」
《ほれ、無駄話なんぞしておると落っこちるぞ。しっかり捕まっておるんじゃぞ》
リンが3人を背中に乗せて飛び立つ。
どうやら王都の正規軍には気付かれていないようだった。
「こんだけの巨体が急に飛び出しても案外気付かれないもんなんだな」
《当たり前じゃ、今は魔法で姿を隠しておるからのう。人間如きに気付かれる心配などないわ》
そのあんまりなリンの返答に川口くんは思わずツッコミを入れる。
「いや、それ行きの時から使っておけよ!さっきまでのドタバタは何だったんだよ!」
《ふん、甘味に目が眩んで忘れておったのじゃ。妾もまだ子供故にそう言った失敗もあるじゃろう。一々細かいこと気にするでない、全く小さい男よな》
川口くんのツッコミに対して、リンは太々しく開き直って見せる。
「開き直っちゃったよ、この子!?」
「まあまあ、川口くん。失敗したと思ってくれただけ良くない?リン、これからはあんまり争いにならないようにお願いな」
「リンちゃんなら次からは上手くやれますよ。頑張ってね」
《うむ、任せておれ。あ、それと川口は搭乗料を行きの倍払って貰うからな。嫌なら今すぐここで飛び降りよ。歩いて戻ってくるが良い》
「えっ?何で俺だけ?いや、こんな高さから飛び降りた時点で死ぬし、こんな見知らぬ土地での徒歩移動でも死ぬわ。というか、どんだけ俺から搾取するつもりなんだよ!?まあ、勿論払うけどね」
「あっ、払っちゃうんですね」
「寧ろ要求されなくてもこちらから払うつもりだったくらいだよ」
何故から誇らしげにそう語る川口くんに一子は苦笑いを浮かべる。
「そ、そうなんですか」
「川口くん、高尾さんが引いてるからその辺でやめとこか」
「いえ、川口さんがそれでいいなら私からは別に何も」
「うそうそ、軽い冗談だから本気に取らないで!」
《何じゃと?妾は本気じゃぞ》
「いや、ややこしくなるからリンはちょっと黙ってて!」
「フフフ、アハハハ」
そんな笑いを交えた雑談をしならがら空の旅を終えて、最初に2人が転移して来た地点に戻って来たのであった。
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