第47話
「でも、拙くない?てことはだよ、リンがぶっ飛ばしたのはこの国のお姫様ってことになる訳だろ?」
「ああ、これはもう戦争不可避だな」
事態が理解出来てくるにつれて、何だか一気に雲行きが怪しくなってきたのを強く感じる佐野さんと川口くん。
そこで川口くんがその不穏な空気を変えるように口を開く。
「なあ佐野さん、一つ提案があるんだけどさ」
川口くんが珍しく真面目なトーンで佐野さんに話し掛ける。
そして、その内容までもが珍しい事に真面目なものであった。
「とりあえず、ここから逃げない?」
「まあ、それしかないわな」
その2人のやり取りを聞いてラムリーツの介抱をしていた一子が驚きの声を上げる。
「えっ?逃げるんですか?」
「うん、だって」
と言って、佐野さんは親指を後ろに向けて自分の後方を指し示す。
一子が其方に意識を向けてみれば「ラムリーツ様どこですか!?」「姫様、聖女様、ご無事ですか!?」というような声が聞こえてきた。
「あれは王都の正規軍ですね、もうこんな所まで入り込んで来てましたか。てっきりまだ王都外周辺りの守備を固めて待機中かと思っていましたが」
「多分其方のお姫様が分かり易く上空から突っ込んできたから、それを見て慌てて飛び出してきたんじゃないかな?」
「流石にお姫様だけに戦わせて自分達は待機という訳にはいかないもんな」
まだ王都の正規軍はこちらに正確な位置には気が付いていないが、そこまで見晴らしの悪い場所でもないので発見されるのは時間の問題であろう。
麒麟という大きな目印がある以上、佐野さん達が隠れ続けるには些か条件が悪いのは明確であった。
そして、もし彼等に発見された時にどう見ても外的要因によって傷付いて気絶してるお姫様を見つけてしまったら、と考えるとその後はとても良くない檄マズの展開にしか発展しないだろう。
《何じゃ?戦わんのか?あの程度の戦力ならば妾が一瞬で片付けてきてやるぞ》
「だから、俺達は戦いに来た訳じゃないんだってば。これがきっかけで大きな戦争になったらどうするんだよ」
《奴等に妾達の関与を悟らせねば良いのだろう?妾達に気付く間も無く葬り去ってくれるわ》
「葬り去るって、もっと話が物騒になってるじゃねーか。それにもう麒麟の関与は揺るぎない事実なんだから方法論の問題じゃないんだよ」
相変わらず思考がバイオレンスなリンに呆れるしかない佐野さんと川口くん。
「そうよ、そもそも私達はリンちゃんの姿を発見したから出動してきたのよ。だからもし姿を見られなくてもここで大量に兵士が斃されたら真っ先にリンちゃんの関与が疑われることになるんだから、誤魔化すならもっと別の方法を考えないと」
その2人に追従するようにリンを諭す一子に川口くんが更に同調する。
「でしょ?もう何しても詰んでるから一旦逃げるしかないよ。それに逃げることは別に悪いことじゃないって結構頻度で漫画とかに出てくるから大丈夫だよ」
「それメンタル面の時に使うやつで多分こういう時に使う慣用句じゃねーけどな。まあでも、逃げるしかないのは事実だな。…高尾さんはどうする?」
「私ですか?」
急に自分に向けられた佐野さんの問いかけに対して、思考が追いついていない一子はそのまま問い返してしまう。
「さっきは助けて欲しいって言ってたけど、今説明したように俺達はこの世界に来たばっかりでしかも今日寝る場所すら確保出来てない状態な訳だし。というか、元々それを探しに王都に来たくらいでさ。ここから離れても正直どうなるかとか全く考えてないんだわ」
「とりあえず、岩美がいた場所まで戻ろうか」
川口くんがとりあえず急場を凌ぐ為に最初に転移してきたポイントまで戻る事を提案した。
「いわみ?まだあの岩にそんなに愛着湧いてんの?あのさ川口くん、頭に何か良くないものが湧いてんじゃない?」
「佐野さんの物言いが辛辣!?」
真面目に提案したつもりだったのに素気無くあしらわれて大きめのリアクションを取る川口くん。
そしてその様を完全に無視して、佐野さんは改めて一子に問いかける。
「お姫様のこともあるし、曲がりなりにも一年過ごした場所なんでしょ?愛着とかあるならこのまま留まることもアリだと思うんだ。自分で言うのもなんだけど、さっき出会ったばっかの男2人と一緒に過ごすのって中々リスキーじゃん?考える時間は殆ど無いけどその辺はよく考えて欲しいと思ってね」
「そうですね、…愛着ですか…」
佐野さんにそう言われて一子はこの一年を思い返す。
そして、佐野さんから借りたジャケットの下の自分の格好を見て一つ大きく頷き即決するのであった。
「私も連れてって下さい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます