第46話
「ラムリーツ様!?どうして、ここに!?」
一子が突然の予期せぬ乱入者に目を見張って驚愕の声を上げていると、パーティーの時と変わらずドレスアップされた状態ままのラムリーツが息を切らして一子とリンの間に飛び込んできた。
そのまま、先程投げた剣を拾い一子を庇うようにしてリンと向かい合うラムリーツ。
「貴女、無事ですの!?」
「ラムリーツ様こそどうしてここに!?パーティーはどうされたのですか?王太子殿下の御指示では私が先行している間に王都の戦力を纏めるという話だったではありませんでしたか?」
「偶々窓から空を見上げていたら貴方とそこの麒麟が一緒に墜落していくのが見えたから急いでこの剣だけ持って飛び出して来たんですわ」
「飛び出したって、そんなことして大丈夫だったんですか?」
「さあね、元々パーティーなんて乗り気じゃなかったですし別に構わないですわ。まあ、お兄様はカンカンだったみたいですけどね」
無邪気そうにまるで悪戯が成功して喜んでいるような笑顔でそう言うラムリーツに困惑を隠せない一子。
こんなに柔らかい表情を浮かべる人だったかしら?
一子のイメージでは、常に自分にも他人にも厳しいイメージしかないラムリーツなのだが今日は随分と違うように感じられる。
それにあれだけ慕っていた兄である王太子を蔑ろにするような言い回しは、一体どういう事なのだろうか?
「貴女は下がっていなさい。この化物は私が始末致しますから」
そんな困惑する一子を自身の背後に下がらせると先程までの柔らかな空気を一変させ、ラムリーツはリンに殺気を向けて剣を構え直す。
「いえ、その子は」
二人の衝突を避けようと慌てて声を掛ける一子であったが、その言葉は振り返ったラムリーツによって遮られてしまう。
「巻き込まれて怪我をしたくなければさっさと下がりなさい。大丈夫、貴女は私が守ってあげますから。だって、貴女は私の大切な、ヘブゥ!?」
「ラムリーツ様!?」
剣を構えてはいたものの意識の大半を一子に向けていたラムリーツは、リンの一撃を回避することが出来ず台詞の途中で無残にも吹き飛んでしまうのだった。
一子は、慌ててそのまま近くの大木に激突したラムリーツの元に駆け寄る。
「ラムリーツ様、大丈夫ですか!?…はぁ、良かった。息はしてるみたい」
一子は、気を失っているラムリーツがちゃんと呼吸をしている事を確認して安堵する。
一連の流れを見ていてラムリーツは悪い人には見えなかったので、とりあえずその事について川口くんがリンに指摘した。
「おい、リン。今あの子、なんかいい感じのセリフ言う所だったっぽいぞ」
その指摘を受けてまさか牽制程度の一撃でこうなるとは思っていなかったリンも若干の困り顔だ。
《じゃが、妾に剣を向けて殺気も放っておったからのう。隙が見えたからついつい排除してしもうたわ。まさか、一撃で気を失うとは思わなんだが。まあ、一応手加減はしておるから死んではおらんとは思うぞ。此奴は其方の知り合いなのであろう?》
「ええ、まあ確かに知り合いではありますけど…」
「何?彼女、命懸けで高尾さんのこと守ってくれようとしてたけどそんなに親しくないの?」
佐野さんの問いかけに対して、一子は腕を組み少し頭を傾げながら答える。
それ程までに先程のラムリーツは今までと印象を違えていた。
そう、先程一子に向けられた言葉や表情はまるで親しい友人に向けらたもののようであったと。
「え、ええ、それ程親しい関係ではありませんでしたね。寧ろ、ついさっきまで私のことが嫌いなのかと思ってたくらいです。よく厳しい言葉も頂いてましたし。あっ、でも何か実害のある嫌がらせをされたとかは別に無かったですけど」
その一子の回答に川口くんが嘘だろ?と一子とラムリーツを見比べながら疑問を口にする。
「えっ?そうなの?めっちゃ大親友を助けに来た、みたいなテンションだったよ」
「王族としての責務みたいなものに厳しい方でしたから、ひょっとしたら私を自国民だと思って親身になって助けて下さろうとしたのかもしれませんね」
一子の口から飛び出た王族という言葉に佐野さんと川口くんは一瞬顔を見合わせ、その顔色が変える。
「高尾さん、王族ってことはこの子ってひょっとしてお姫様か何かなの?」
「はい、そうですね」
あっさりと肯定する一子に川口くんは絶句した。
「えっ?何でお姫様がドレス姿で最前線に出てくるの?この世界はそういうのが主流なの?」
「いえ、彼女は特別な部類です。うーん、どう説明すれば分かりやすいですかねぇ。ああ、お二人には姫騎士と言えば何となくの事情は伝わりますかね?」
姫騎士という単語を聞いて佐野さんと川口くんは納得のいったような表情を浮かべた。
「ああ、なるほどそういう系のお姫様な訳ね。へー、ホントにいるんだね。姫騎士って」
「それな。何か異世界に来たって実感するな」
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