第45話

「ん?どしたの川口くん?急に真面目な顔して」


 急に先程までとは打って変わって真面目な表情を浮かべる川口くんに、佐野さんは何か不審な点でもあったかと僅かな緊張感を覚える。


「なあ?ひょっとしてさっきリン、俺のこと下僕って言ってなかった?」


 珍しく真面目なトーンで話し出したと思ったらやっぱり川口くんか、と残念なものを見る目で佐野さんは溜息を吐いた。


「…はあ、何を真面目な顔してるのかと思えばやっぱりどこに行っても川口くんは川口くんだね。まあ、当たらずも遠からずって感じじゃない?」


「やだ、何それ?興奮しちゃう。ビクンビクン」


 両腕を自身を抱きしめて悶えている川口くんを冷めた目でいると、さっき言葉の中で佐野さんもあることに気が付いた。


「あっ、そうなるとリンは俺の従魔なんだから、川口くんはそのリンの下僕になる訳で、つまりは俺の下僕にもなるってことか。おい、購買行って焼きそばパンと牛乳買ってこいよ」


 急に横柄な態度を取り始めた佐野さんは、自身の後方を親指で指し示してそう指示を出す。


「また随分とクラシカルな不良で来たな。ねーよ、購買なんてここに」


「じゃあ、ここでジャンプしてみなよ。小銭隠してんだろ?」


「現代人の大人が小銭を直でポケットに入れてる訳ないだろう。ほら、何の音もしないだろ?」


「あの〜、何してるんですか?」


 佐野さんの前で川口くんがピョンピョン跳ねていると少し顔を赤らめながらもどこか満足気な一子が声をかけてくる。


「あっ、終わった?」


「あっ、終わった?ではないぞ、主様よ。何故妾を助けんのじゃ!」


 一子のハグからの可愛がりから解放されたリンが一子の側から素早く退避してきて、佐野さんの背後に隠れる。

 そんなリンの行動を見て佐野さんは微笑ましそうにリンの頭を撫でてやる。


「いやぁ、2人とも楽しそうにしてたから止めなくてもいいかなって思って」


「楽しそうになんかしてはおらん。ほれ、下僕よ。あの軽装な女をその歪みきった性癖で懲らしめてやるのだ。あの女、一枚剥けば裸じゃぞ!」


 佐野さんの背後に身体を半分隠し、リンはビシッと一子に向けて指を差しながら川口くんに命令した。


「いや、無理矢理とかそういうのはちょっとね。それにリンが拘束される程の腕力なら逆に俺が懲らしめられて終わるから」


「むむ、リンちゃん。あの女とか言われたらお姉ちゃん悲しいよ」


 リンの言葉を聞いて一子は笑顔で再度リンに詰め寄ろうとする。

 それを見てリンは慌てて麒麟に変身するのだった。


《ええい、わかったから少し妾から離れるのだ。全く人間というのは変な生き物じゃのう》


 リンに軽くとはいえ威嚇された一子は、びっくりして尻餅を付いて倒れる。


「えへへ、ちょっと調子に乗り過ぎてしまいました。ごめんね、リンちゃん」


《わかれば良いのじゃ。ほれ、さっさと立つのじゃ》


 リンが一子が立ち易いように身体を起こしてあげようと手を伸ばした瞬間、一子とリンの腕の間に一本の剣が突き刺さる。


《何じゃ!?》


「えっ、急に空から剣が飛んできたよ!?」


「晴れの日に突然剣が降ってくるとは流石異世界だぜ」


「いや、そんなイカれた天気予報は流石に異世界でもねーだろう」


「あれ?この剣の紋章はラムリーツ様の?」


 突然目の前に突き刺さった剣に刻まれた紋章を見て一子が何かに気が付く。

 それと同時に聞き覚えのある怒声がその場に響き渡った。


「そこの魔物!今すぐそこから離れなさい!!」


 四人が声の方へと振り向くとそこには怒りの表情を浮かべたラムリーツがドレス姿で駆け寄ってきていたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る