第41話
「リン、そのままだと目立つからまた人間の姿になって」
《何じゃ?何故妾が隠れなければならぬのじゃ。妾は人間共の襲撃なんぞ、一向に気にせんぞ。雑魚共が幾ら襲ってこようが薙ぎ払ってくれるわい》
「いやだから、薙ぎ払っちゃ駄目なんだって」
スーツの男性と会話を始めると、今まで大人しくしていた麒麟が急にまた好戦的な空気を醸し出して物騒な事を言い出します。
しかし、それを聞いて今度はTシャツの男性が子供に言い聞かせるように注意をしています。
本当に何者なんでしょうかこの二人は?
「どうしてこう直ぐにバイオレンスな方向に進みたがるかね。佐野さんから何かしらの悪影響でも受けてんじゃね?」
「俺が真っ当な人間で無い事は認めるけど、川口くんにだけは言われたくないね。自分の胸に手を当ててこれまでの行いを振り返ってみなよ、この世界に来てからだけでも酷いもんだったよ」
「何だよ、佐野さん。俺の事よく分かってんじゃん。何か照れるな」
「いや、全然照れるまでの流れが分かんねーんだけど。日本に脳味噌置き忘れてきたの?」
「くぅー、辛辣ぅー」
先程また好戦的になった麒麟に戦々恐々としていた私ですが、正直今の状況についていけていません。
これは何だか急激に緩んだ空気についていけない私が悪いのでしょうか?
しかし、そんな私を更なる衝撃が襲います。
「ほら、リン。また川口くんが馬鹿な事言い出してるから早く人間の姿に戻って」
《ふむ、仕方ないのう。川口には本当に呆れるのう》
「ほらな、やっぱり佐野さんの悪影響が出てるじゃないか。俺の見立ては正しかったって事だな。じゃなきゃ、俺に対してリンが冷た過ぎると抗議したいね」
「いやだから、川口くんは己の振る舞いをだね」
《ああもう、分かった分かったのじゃ。妾が人間の姿になるからもうその不毛なやり取りを止めるのじゃ》
そう麒麟が呆れたように言い放つと突然直視出来ない程の強い光を放ちました。
私は咄嗟の出来事に何かしらの攻撃かと身構えましたが直ぐに光が収まり、麒麟の居た場所には、…え?
麒麟の居た場所には、可愛いらしい金髪の女の子がいました。
…は?
「えっ?あの、これは一体どういう事でしょうか?」
あまりの出来事に呆然としてしまいましたが、そんな私の様子がおかしかったのかスーツの男性が笑いを堪えるようにしながら説明してくれます。
「ああ、びっくりするよね。まさか、さっきのあの馬鹿デカい麒麟がこんなに小さな女の子になっちゃったらさ」
「やっぱりこの女の子がさっきの麒麟なんですか!?」
実際に目の前で見ていたのに頭の理解が追いついていかない私は、とりあえず麒麟が変化した女の子をじっと観察します。
そんや私の視線に反応するように女の子は胸を張って偉そうに私の視線に答えてくれました。
えっ?何その可愛いポーズ。
「そうじゃ、妾はリンという。ところでお主、何か甘味は持っておらんか?そうすれば命だけは見逃してやろう」
「甘味、ですか?いえ、持ってないですけど。というよりも命って、やっぱり何かの罠だったんですか!?」
可愛らしい女の子の姿になった麒麟の振る舞いに微笑ましさを覚えて惑わされていましたが、よくよく話しを聞いてみるととても物騒な発言をしていることに気が付き、私は改めて警戒感を露わにして3人から距離を取ります。
しかし、どうやらそれは私の杞憂だったようで、
「こら、リン。話がややこしくなるから甘味の話は一旦置いときな」
「ふん、主様がそう言うのなら仕方ないのう。其方命拾いしたな」
「リンに悪気は無いから気にしないで。ちょっと異世界テンプレでチョコレートを上げたらこうなっちゃってね」
「ああ、そうなんですか」
スーツ姿の男性が麒麟の女の子の頭を撫でながら私の誤解を解くように優しく注意をする。
えっ?ていうか、チョコレート?
この人達チョコレート持ってるの?
それ私も欲しいんですけど。
いや、そんな事よりも先ず聞かなきゃいけない事があるでしょ、…でも私にも少しくらいなら分けてくれるかな?
そんな風に私が煩悩と戦っていると目の前ではまた三人のやり取りが再開されていました。
「まあ、そんなに欲しいなら川口くんから貰いなよ」
「えっ?何で俺から?」
「その方が川口くんも嬉しいかなと思って」
「流石佐野さん、わかってるー。心遣い感謝でーす。ほらリン、こっちにおいで」
「川口、妾に甘味を献上したいならまずは跪け、頭が高いぞ。話はそれからじゃ」
「え?何でそんな上からなの!?でも、悪くない。新しい扉が開かれそう」
突然Tシャツジーパンの男性が麒麟の女の子に跪いてチョコレートを献上しだした、ってやっぱりチョコレート!?何でこの世界にあるの!?しかもあのパッケージは完全に日本製のやつだよね?
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