第40話
…とにかくそこからは自分が抑えられなっちゃいまして。
途中チラッと視界に入った麒麟の表情が若干引いてるような気はしたんですだけど、もう止まらないというか止められなくて…
正直その時にはゴシトニン王国の行く末とか頭からはすっかり抜け落ちていました。
やはり私は聖女の器ではありませんね。
まあ元々流されてただけで、そんな気概を持ってやっていた訳ではないんですけど。
「…おーい、い…ーん!ちょっ…ップストップ」
「へっ?」
どれくらいの時間そうしていたのかは覚えてないですけど、息切れするくらい不満をぶち撒けていたら突然何処からか私の耳に男の人の声が聞こえてきました。
もうトリップし過ぎてて、あれ?ひょっとして私もう死んじゃったのかな?とか、実は麒麟と遭遇した時点で私は瞬殺されてて今はあの世なのかな?とか、本気で思ったりしました。
だって日本語なんてこの世界で聞こえ来る筈無いし、やっぱりこれは夢なんだと自己完結しようとしたその時、急に麒麟が旋回して横向きに体勢を変えたんです。
突然大きく身体の向きを変えられたんで驚いて漸く私は我にかえったんですけど、驚きの本番は寧ろここからでした。
「えっ!?人間!?何で人間がまるで飼い主みたいに瑞獣の背中に乗ってるの!?」
麒麟の背中を見ると人間の男性が二人背中に跨ってたんですよ。
ホント、ビックリしちゃいました。
だって麒麟は獣人族の守り神と言われている程神聖な生き物で、例え獣人族の王族だったとしてもそんな暴挙が許される事は無いんですから。
そして、そんなあり得ない光景を見て思考停止していた私に背中に跨っていた男性がこう言う訳ですよ。
「まあ、それは色々あってね。それで君はいちごちゃんで合ってるかな?」
「はい、確かに私の芸名はいちごで活動してましたけど、って何でそのことを!?あれ?その服装、スーツとTシャツジーパンって、顔の造りからしてもしかして貴方達は日本人ですか!?」
驚きのあまり開いた口が塞がらないというのはこういうことなんだなって、しみじみ思いました。
だって、異世界でスーツを着たサラリーマンと空中で出会うなんて思わないじゃないですか。
まあ、私がこうして異世界召喚されている訳ですから人の事は言えないですけど、まさか他にも異世界転移している人がいるなんて想像もしていませんでしたからね。
それでそんな私の様子を見て、その男性は苦笑しながらこう答えてくれました。
「そうだよ、俺達も日本からこの異世界に来たんだ。君も日本から来たみたいだね。少し話を聞かせて貰ってもいいかな?」
「ええ、それは勿論。だったら一度、彼方の目立たない場所に降りませんか?このままでは目立ちますし、先程言ったように王都の軍隊が動き出したら面倒なことになっちゃいますから」
馴染みのある日本人と会話が出来たことで私はやっと少し冷静さを取り戻すことが出来ました。
はぁ、一年振りの日本語懐かしいなぁ。
この世界に来た最初の頃から私は女神の恩恵で人族が使う言語と獣人族の使う言語を習得していたので会話に困った事はなかったですが、やはり母国語が一番しっくりきますね。
そんなこんなでとりあえず私は、話が通じるならと王都から少し離れた場所に降りることを提案しました。
二人の日本人男性が提案を受け入れてくれたからか、麒麟からも先程までの敵対的な姿勢が無くなり私の誘導に従って移動をしてくれました。
しかし王都から少し離れた森林部の木材の伐採や加工の為に切り拓かれた場所に降り立った私達でしたが、麒麟のサイズが大き過ぎて完全木々の上に頭が出てしまっているので逆に悪目立ちしている状態になってしまいました。
「あのー、申し訳ないんですけど頭の位置を低くする事って出来たりしないでしょうか?今のままだと一面緑の森の中に顔が浮かび上がってるみたいに見えて、物凄く目立ってしまうと思うんですけど」
ここまでの移動中に冷静さを取り戻した私は、今度は丁重に麒麟に話し掛けるよう心掛けます。
そんな畏まった私の様子を見てスーツ姿の男性がそんなに気を使わないでいいよ、と麒麟の首元を撫でながら答えてくれました。
麒麟をまるで子供扱いしているこの男性は一体何者なんでしょうか?
…同じ日本から来た転移者ですが状況が大分違うようですね、何か縛りとか無さそうで自由そうだし正直羨ましいです。
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