第39話
「さあ、この辺りで待ち構えいればいいかな?あんまり王都から離れ過ぎるともしもの時に後続が間に合わないしね」
私は王都の端から少し離れた上空で麒麟を待ち構える。
麒麟は敵国の王都に向かっているにもかかわらず自分の存在を一切隠すことなく、更にはいくつかの魔法を発動しながら逆に気付いてくれと言わんばかりに接近してくる。
しかし、そこに敵意というか害意というかそういって様子は感じ取れず一体何が目的なのかと私を混乱させる。
「とりあえず、状況確認からすれば良いのかな?もしかしたら何かの間違いだって可能性もあるものね。ていうか、言葉通じるよね?お願いだから何もしないで帰って欲しいな」
私は僅かな可能性に一縷の望みを掛けながら、麒麟に声を掛ける。
緊張している事がバレると弱味を見せる事になってしまうから声が震えないようにしなければ。
あと誤解が生まれないようになるべく簡潔に正確に言葉を相手に伝える。
そんな事を考えていたからか、
「そこの魔物、止まりなさい!」
私の口から出た言葉は少し不躾で語気の強いものになってしまった。
相手は敵国とはいえ守り神と呼ばれている存在。
下手に不興を買って戦闘に突入したらどうしようかと思って一瞬冷や汗ものだったが、どうやらそうはならずに麒麟は私の言葉に従って停止してくれたのでホッと胸を撫で下ろした。
よしっ、言葉通じるならなるべく丁重にお帰り頂けるように説得しないと。
正直、近くで見たら生物としての格の違いを感じずにはいられない。
こんなものを戦闘して退けようだなんて、いやそもそも戦闘になるなんて思い上がりにも程があった。
麒麟がその気になれば一瞬で王都は塵一つ残さず蹂躙されてしまうことだろう。
《脆弱な人間風情が妾に随分な口を聞くではないか》
しかし、私が次の一手を考えている間に先に麒麟から不機嫌そうな念話が返ってきてしまった。
あっ、やばい。
やっぱり私、初手でちょっとマズったかも…
ここは「止まりなさい」じゃなくて、「止まって下さい」にすれば良かったのかも。
いや過ぎた事を悔やんでも仕方ない、とにかく何とか挽回しないと。
「失礼致しました。見たところ獣人の国の守り神たる瑞獣とお見受けしましたが、目下戦争中の敵国であるゴシトニン王国の王都に一体何の御用ですか?」
私は何かと取り繕うようになるべく丁寧な言葉を紡ぎ出し、再度麒麟の出方を伺う。
しかし、麒麟は何かを考えこんでいるのか返答が中々返ってこない。
えっ?何?どういう状況なの?
もう少し、踏み込んで説得というか説明をした方がいいのかな?
「もしも何かの企みがあり、瑞獣自らがこの王都に直接攻め込んで来たのだとしたらここで戦闘を開始しなければなりません。しかし、それでは双方共に甚大な被害を齎らすことになり、こちらもそれは望ましい展開ではありません。何かの間違いであったのならば王都の軍隊が行動を開始する前にここから立ち去って下さい」
とにかく状況はよく分からないが、私なりに双方にとっての利害について説明をして説得を試みてみる。
しかし、そんな私の言葉が再びお気に召さなかったのか麒麟の纏う雰囲気がガラッと変わった。
《双方共にじゃと?ほう、そもそもここが人間の領域などという考え自体が思い上がりも甚だしいわい。この四霊の瑞獣たる麒麟相手にどこまで出来るか試してみるか?》
あっ、ダメだ。
この麒麟バトルジャンキーだったわ。
やばい、完全にしくじっちゃったかも。
それでも対話を諦めちゃダメだ、例え望みが少なかろうと平和的な道を自分の命が助かる道を探さないと。
こんな所でこんな恥ずかしい格好で一人でなんか絶対に死にたくない。
「正気ですか?」
何とか言葉を捻り出したが正直私がこの状況に対して正気じゃいられなくなってきている。
《正気も正気じゃ。大体、そんなとてつもなくハレンチな格好をした奴に正気を問われとうないわい》
「なっ!」
だからかな…この辺りから記憶が曖昧というか…
極限の緊張と逼迫した状況下で不意に自分の一番触れられたくない部分に触れられておかしくなっちゃったというか…
《何じゃ、その格好は?殆ど裸同然ではないか、そっちこそ正気を疑うぞ》
「裸同然っ!?…はだか…」
…やっぱりそうだよね。
これって側から見たら正気を疑われるようなヤバい格好なんだよね…
《ほれ、弁明出来るなら何か言ったらどうじゃ。寧ろ、全裸よりも恥ずかしい格好ではないのか?》
「…じゃないのに」
まあ、そのね…あれよ、あれ。
口からポロっと本音というか愚痴みたいなものがまろび出たというかね。
「…私だって着たくて着てる訳じゃないのに」
《何じゃ?》
「私だってこんな恥ずかしい格好したくてしてる訳じゃないのに!」
…はい、すみません。
ここら辺で私の中の何が爆発しちゃいました。
思ってたより1年間で色々溜まってたのかな?って、言い訳にはならないよね…
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