第15話
『さて、そろそろよろしいでしょうか?』
そんな二人のじゃれ合いがひと段落ついたのを見計らって、もう何度目かもわからないパチンコの女神の仕切り直しが入り説明が再開される。
「すみません。ついついはしゃいでしまいました」
『大丈夫ですよ。お気持ちは理解出来ますので。という訳で身の危険を感じた際には、こちらを使って対処してみて下さい』
「わかりました」
『最後にトップ画面のブランクになっている箇所の説明をさせて頂きます。お二人ともトップ画面を開いて下さい』
二人は指示通りに【ホールメイカー】アプリをトップ画面に戻す。
それを確認してパチンコの女神は改めてアプリの説明を再開した。
『この一番上の項目は、店舗名の設定となっております。店舗名の付け直しに関して特に制限等はございませんが世の中に浸透させることを考えると余り何度も変更されない方がよろしいかと存じます』
「それはそうでしょうね。わかりました」
「名前かぁ、あれっ?この世界の言語ってどうなってるんですか?」
名前の話をしていて川口くんが根本的な問題に気が付く。
『言語に関しては、ご自身の力で学習によって習得されるか、パチカス交換一覧から特殊技能の【言語習得】もしくは【翻訳】等の魔法を入手するといった方法が考えられます』
「あっ、そこも魔法とかでいけるんですか」
「魔法半端ねーな」
なるほど魔法ってやっぱり便利だな、と顔を見合わせる佐野さんと川口くん。
「そんじゃあ、手っ取り早く俺は魔法で覚えるから川口くんは本でも読んで覚えなよ」
「いや、何で俺だけ自力学習なんだよ」
「面白そう、だから?」
「そこはせめて嘘でもコスト削減とか言おうぜ。しかも、何で疑問系?そんな曖昧な感じで俺に結構な重労働を押し付けないでよ。今から新しい言語の習得は中々だぜ」
ついつい雑談に花が咲く二人とそれを止める素振りを見せないパチンコの女神のせいでまた時間だけが無駄に消費されていくのかと思われたが、そこに突然の乱入者が現れたことによって事態が急変するのだった。
《何やら奇妙な気配を感じて様子を確認しに来てみれば、人間如きが一体このような所で何をしておるのだ?》
大気を揺らすような威圧感の込められた言葉がニ人の上空から降り注ぐ。
佐野さんと川口くんは、脊髄反射的に声のする上空を見上げるとそこには凡そ現代社会では見ることはない巨大な生き物が浮かんでいた。
「なっ!?」
「川口くん、あれってもしかしてあれかな?」
「もしかしなくてもあれだな」
その巨大な生き物は、全体的なフォルムが鹿によく似ていて背丈は10m以上あり、顔は龍に似ていて二本の角と更には牛の尾と馬の蹄をもっていて、毛は金色で身体には青い鱗がある。
そう、その姿はまさに日本ではビールのパッケージでお馴染みの四霊の瑞獣。
「麒麟だな」
「はい、激アツ来ました!」
「まあ、それキリン違いだけどな。ていうか、ここって中世ヨーロッパ系異世界じゃなかったの?何で初っ端から古代中国神話系の神獣みたいなのが出てくんの?」
『まあ、ここは貴方達のいた地球とは似て非なる世界ですからね。多少の誤差はあります。でも、不思議ですよね。どんな平行世界でも人という種がベースとなって文化形成を行なっていくと行き着く先は似たような物になるのですから』
突如現れた巨大な古代中国的ファンタジー生物を目の前にしても通常営業の佐野さんと川口くんであったし、パチンコの女神は楽しそうに微笑んでいるだけだった。
でも、流石にこれは遊んでばかりもいられないのではなかろうか。
二人は少し冷静さを取り戻して現在の状況を考えてみると、やっぱりこの状況はちょっと拙いというか死の危険もある様に感じてきた、というかいつの間にか背中が冷や汗びっしょりだ。
何故なら目の前の巨大なファンタジー生命体からのプレッシャーが物凄いからだ。
「あ、あのー、因みにここってどんな場所なんですか?」
麒麟に気付かれないように小声でパチンコの女神に問いかける佐野さん。
『転移先に関しては出来るだけ人がいない地域というカテゴリーで選んだだけですが、どうやら人がいなかった理由はアレのテリトリーだったからなんでしょうかね?』
事もなげに変わらぬ微笑みを浮かべたまま、そうしれっと言い放つパチンコの女神。
「いや、何で疑問系なんですか?ちょっとー、そこはちゃんと下調べして下さいよ!」
いきなり直近に迫った異世界ファンタジーな危機には流石に焦り始める佐野さんであった。
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