第14話

『大まかなルールは理解して貰えたようなので次にパチカス交換一覧について、詳しく説明させて頂きます』


「普通に景品の交換だけじゃないんですか?」


 まだ何かあるのかとパチカス交換一覧をタップしながら各項目をチェックする二人。


『ご覧になって頂ければわかると思いますが、こちらのページには現在日本にあるパチンコ店で交換可能な商品がラインナップされています。地域振興イベント用の交換品も含まれているので偏りは有りますが結構なラインナップになっていると思います』


 表示項目をざっと確認して見てみるとジュース、タバコ、お菓子といった定番の交換品や洗剤やトイレットペーパーのような日用品、カップラーメンやレトルト商品等とほぼコンビニと変わらないラインナップに加えて更には地域の名産品や特産品、ゲーム機器や電化製品に高級食器や植物等も含まれた多種多様なものだった。


「あっ、ビールとチューハイにハイボールもあんじゃん。梅酒も瓶であるし、焼酎と日本酒にウイスキーも結構良いの入ってるじゃん。…それと、おいおい紹興酒とかもあるぜ。中々イカしてな」


「いやこれ、マジで便利だな」


 しかし、そんな多種多様なラインナップ中でアルコールに一番興味を惹かれる残念の大人二人組。

 因みにタバコに目が行かないのは、二人にとってパチンコ屋でタバコが交換出来る事は海に海水がある事と同じくらい当たり前の事なのだ。


「マジで至れり尽くせりだわー、川口くんも来て良かったっしょ」


「それな、マジ異世界最高だな」


 もはや居酒屋のタッチパネル感覚で一つ一つの商品ラインナップに一喜一憂しながら佐野さんと川口くんは交換ページを読み進めていく。

 すると読み進めていくうちにページ右上に星印があることに気が付いた佐野さんは、何の気無しに星印をタップしてみた。

 そして、表示された項目に眼を見開くのであった。


「ちょっ、川口くんこれ、右上の星印押してみ」


「何?なんか面白いもんでも、ってマジかよこれ!?」


 佐野さんに促されて星印をタップした川口くんも表示された項目に驚きを隠せなかった。


『お気付きになられましたか?そうです。そちらのページには、パチカスを消費して使用する事や習得する事の出来る魔法や特殊技能の一覧が記載されています』


 イタズラが成功したみたいにクスクスと小さな笑いを零しながら、楽しそうにパチンコの女神は話を進める。


『この世界が人間だけでなく魔法と魔物と亜人が存在する世界だというのは、転移前にお教えしたと思います。それはつまり、お二人がこの世界でその身を守るにはそのままでは些か心許ない。という事で、こちらはその対応策となっております』


「つまり、俺達も魔法が使えるってことですか?」


『その通りです。お試しに何か一つ使ってみましょうか。そうですね、危険が無さそうな【ウォーターボール】をタップしてみて下さい』


「【ウォーターボール】ですか?わかりました」


 佐野さんは、スマホに表示されている【ウォーターボール】の項目をタップする。

 すると目の前の空中にバレーボールサイズの水の塊が現れた。


「うわっ、スッゲ!?マジで魔法じゃないですか!?」


「やべーな。これで佐野さんも魔法少女の仲間入りだな」


「少女じゃねーけどな。…うお、冷てぇ」


 佐野さんは目の前に浮遊している水の塊に恐る恐る指を突っ込んで感触を楽しむ。


「あっ、俺も触りたい。…ああ、いいなこれ。夏に欲しいわぁ。てか、この水の塊はずっとここに浮いたままなの?」


 そう言われて、水の塊から手を引っ込めた佐野さんはスマホを確認すると【発動待機中】という表示とその下に【解除】【発射】という二つの項目が表示されていることに気が付いた。


「あっ、これ発射出来るっぽいわ」


「マジか!よっしゃ、こい!」


 佐野さんの言葉を聞いた川口くんはそそくさと水の塊から離れて距離を取り、両腕を大きく開いてポーズを決めた。


「えっ?川口くんに向かって発射すればいいの?結構痛そうだよ」


「いや、佐野さん。俺を信じろ!」


「ちょっと何言ってるかわからないですけど、面白そうなので発射しまーす」


 ノリノリでスマホをタップする佐野さん。

 そして、案の定水玉が顔面にぶつかって吹っ飛ぶ川口くん。


「ぶへっ!」


「ちょっ、川口くんwめっちゃ吹っ飛んでるしww」


 川口くんの身に起こった惨事を見て、身体をくの字に曲げて腹を抱えて笑う佐野さん。

 一頻り笑い終わった後、びしょ濡れになって蹲っていた川口くんを助け起こしてあげる事にした。


「あー、笑った。マジで今年一番笑ったかも。川口くん、無茶しちゃダメだよ。そんなにびしょ濡れでいたら風邪引いちゃうよ」


「いや、そっち!?確かに風邪引きそうなくらい体温を奪われてるけども」


「まあ、でも川口くんは風邪引かないから大丈夫か」


「馬鹿だからね、って普通に引くから。いや寧ろ、馬鹿だから体調管理出来なくて普通の人より引くわ。って、誰が馬鹿だ!」


「長めのノリツッコミ、サンキューです」


 自分達が魔法を使えるという非常事態に、興奮を隠せない佐野さんと川口くんであった。

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