第13話
「だとすれば、総パチカス数というのは総資産のことで消費パチカス数もそのままのことだと思うんですけど、排出パチカス数って一体何なんですか?」
佐野さんは自身のスマホに表示された項目を見ながらパチンコの女神に質問する。
『そう、その排出パチカス数というのがお二人にとっても今回の依頼にとっても最重要ポイントになります』
パチンコの女神の言葉にどうやらここからが本題のようだと二人は話を聞く姿勢を正す。
『今回の依頼の達成度を測る上で何を基準とすればいいのか検討重ねた結果、総出玉数で評価を下すことにしました』
「「総出玉数?」」
『来店者数や稼働率、店舗の売上高など色々な評価基準を考えてみました。しかし、来店したからといって遊技自体が短い時間の場合はどうするのかとか、稼働率といっても平均値を取る以上は例えば一つの台が一日中稼働していればそれで平均値が大きく上がってしまうので普及率と考えるとどうなのかとか。売上高に関しても高レートで数人の大負けがいればそれである一定の水準は賄えてしまうとか等ね』
「なるほど、それで何故総出玉数ということになったんですか?」
一つパチンコを広めるだけといっても女神様は色々考えているのだなっと佐野さんは感心するのであった。
『一番シンプルにパチンコ、パチスロが稼働していることを表す状況は、パチンコであればヘソ(筐体の中央下にある穴のことでそこに玉が入ると抽選が始まる)に玉が入賞して出玉が排出されること。パチスロであれば役(三つの図柄が揃うこと)が揃うことでメダルが排出されることと判断しました』
「確かにそれは確実な数値としてわかりやすいですかね」
『排出されたパチンコの出玉一個を1パチカス、メダル一枚を5パチカスと換算して計算します。稼いだパチカスはパチカス交換一覧で様々な商品と交換出来ることになります。レートとしては1パチカスを日本円で1円換算して(要するに1円パチンコ5円スロット換算)、それを日本と同じレートで商品と交換する形になります』
ルールは納得して理解した佐野さんであったが、一つの疑問が湧いてくる。
「それだと客の方がぼろ儲けしないとパチカスが沢山稼げないことになりませんか?それで店舗の経営が赤字になってしまったりしたらどうなるんですか?やっぱりペナルティーとかってあるんですかね?」
『何を持って赤字になると考えているのですか?』
佐野さんの質問に対して、何か含みがあるような返しをするパチンコの女神。
そのともすれば相手から道理のわからない子供を相手にしているような雰囲気を感じて佐野さんの口調が少し強くなる。
「いや、だからですね。出玉が沢山出る程こちらはそれに見合う景品を出さなければならないんだから、必然的に勝つ人間が増える程赤字になるじゃないですか?」
『そもそも、出玉に見合う景品というのはどう判断するのですか?』
「それは、このパチカス交換一覧に沿ってじゃないですか?」
『それはあくまで出玉と交換する景品のレートの、つまりはシステム上の話ではないですか?何を景品として出すかは、店舗経営者次第だと思うのですが』
パチンコの女神は自分で何かに気づかせようとしているか、持って回ったような言い回しを続ける。
ちなみに川口くんは大分前から会話に入れそうにないと自覚しているので黙っている。
「パチカス交換一覧から景品を出すことには変わらないじゃないですか」
『では、切り口を変えましょうか。この世界は中世ヨーロッパ後期程度の文化レベルだと先程お伝えしましたよね』
「それが何か?」
『砂糖などの精製技術が確立されておらず、甘味に乏しい世界観で現代日本で生産された完成度の高いお菓子が果たして額面通りの価値なのでしょうか?』
「あっ!」
やっとパチンコの女神の言いたいことが理解出来て、思わず間抜けな声が出てしまった佐野さんであった。
その様子を見て川口くんが説明を求める。
「んっ?つまり、どういうこと?」
「簡単にいうと砂漠で水が貴重なのと同じように甘いものが貴重なこの世界では、一箱100円のチョコレートが金塊にも変わるって話だよ」
「マジかよ!?何だよその錬金術」
「これで俺達も国家錬金術師の仲間入りって訳さ。二つ名はパチンコ玉から連想して鉄。鉄の錬金術師だ。金を失うと書いて鉄だ!」
「何か、俺達にピッタリ過ぎて泣けてくるな」
『さて、この話はここまでにしてこれ以上はご自身達で試行錯誤してみて下さいね』
「ええ、ありがとうございます。色々考えて試してみますよ」
佐野さんと川口くんは、ようやく依頼攻略の糸口が少し見えてホッと一息つくのであった。
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