第12話

『疑問が解消されたようなので話を戻しますが、この【ホールメイカー】というアプリの名前を見て頂いてわかる通りお二人にはこれからこの世界でパチンコ店の運営をしながらパチンコ、スロットの布教に勤めて貰いたいと思います』


「パチンコ店の運営ですか?」


「俺達、店舗経営の経験とかないですけど大丈夫ですか?」


 何やら思っていた異世界ファンタジーとは感じが違うことに不安とまではいかないが幾分か訝しげな表情を浮かべる佐野さんと川口くん。


『お二人が不安を感じるのは、恐らく貴方達の世界で店舗経営をすることをベースに物事を想定しているからだと思います。確かに、日本でパチンコ店を開店して経営を軌道に乗せる為には物件探しに始まり、資金調達、施設整備、広報活動、人材育成など様々な準備が必要になります』


「そうですよね」


「1から見知らぬ土地で店舗運営とか正直無理ゲーじゃね?」


 やっぱり不安が勝つなと顔を見合わせる2人。


『通常ならばそうでしょう。ですが、今回は神からの依頼です。人材、広報、運営費以外の初期投資に関わるほぼ全てのリソースはこちらで準備しております。勿論、当面の運営資金等も含めてです』


「それは、随時と大盤振る舞いですね」


 想像よりも遥かに手厚い待遇に二人は目を見張る。

 そんなことは反応の変化は意に返さず、パチンコの女神はさも当然とばかり話を進めていく。


『私としてはパチンコ、スロットが世の中に浸透しさえすればいいのです。それに神にとって即物的な要素を用意することなどは容易いものです。極論ですが物資的に解決する問題ならば如何様にも出来ます』


「如何様にも、ですか」


「はー、そりゃすげーな。流石神様」


 二人は神様という超常の存在のスケールのデカさを実感して改めて溜息が出る。


『しかし、人々の心情や文化、流行などの人の営みの中で産み出されていく価値観というものは、神々の力が及ぶところではないのです。勿論神託のように直接言葉を伝えることも出来なくはないですが、結局それをどう受け取るのかは受け取る側の価値観に左右されることになりますから』


「なるほど、だから実際に神の意思を正しく汲んで実行する人間が必要だった訳ですね」


「神託を受ける聖職者的な役割って事だな」


「聖職者というには煩悩に塗れ過ぎだけどな」


「違いねー」


 ふざけながらもようやく今回の依頼の概要が掴めてきた二人に対して、パチンコの女神は満足気に頷く。


『そうです。そして、その依頼を果たす為のツールがこの【ホールメイカー】アプリとなります。先ずは、アプリを立ち上げて下さい』


 その指示に従って二人はアプリを立ち上げる。

 トップ画面に表示されていたのは、



 ブランクになっている店舗名、

 ブランクになっている支店名、

 総パチカス数、

 本日の排出パチカス数、

 本日の消費パチカス数、

 パチカス交換一覧



 というものだった。

 各項目をタップすると次のページに詳細な項目の羅列がされていた。


 パチカスとは何だろう?とても心に突き刺さるものがあるんだが、まさか俺達の蔑称を指す単語なのだろうか?

 一瞬そう考えた佐野さんだったが、そうなると総パチカス数とか排出と消費の意味がよくわからない。

 川口くんも同じ考えに至ったようで二人はアイコンタクトを交わすとパチンコの女神に話を切り出した。


「このパチカスって言うのは、佐野さんの事ですか?」


「別に否定はしないけど、それなら川口くんはパチカスゴミクズクソニート野郎だな」


「うわーい、一個の悪口が4倍位になって返ってきたのに全く否定出来ないとか、軽く死にたくなってきたわ」


 悪口の豪速球を受けて、項垂れるように崩れ落ちる川口くん。

 そしてもう二人のやり取りに慣れたのか、そんな川口くんを気にする事なくパチンコの女神は説明を開始した。


『ああ、そちらの説明がまだでしたね。パチカスというのはこの地域の通貨の単位です。折角パチンコ、スロットを広く世に広めるのだからちょっと洒落をきかせてみました。数ある世界の通貨の中から結構探したんですよ。お気に召しませんでしたか?』


「なるほど、直接的な誹謗中傷かと思いましたよ」


 やり切ったような笑顔を浮かべるパチンコの女神に、何故ベストを尽くしたのかと問いかけたかったが佐野さんは諦めてスルーすることにした。

 実際ちょっと面白いなと思ってしまったのもまた事実だったからだ。

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