第16話
「と、というか、大丈夫なんですか!?こっちは丸腰なんですけど!」
上空から自分達を見下ろしてくる巨大な生物に声を上擦らせながら意味もなく自分のポケットを弄る川口くん。
「いきなり麒麟がエンカウントとかエッジが効き過ぎでしょう。最初は、スライムとかゴブリンとかその辺から慣らしていくのが基本でしょ。最近の異世界物ってこんな感じなの?」
「ああー、佐野さん。最近はそういうのもアリなんだわ、テンプレ崩し的な感じで。いや、寧ろそれすらもテンプレになりつつある」
「うわっ、時代の流れにガッツリ取り残されてるわー」
二人がそんなメタっぽい会話を繰り広げているとその何か緩んだ空気を感じたのか、痺れを切らした麒麟が更に威圧を強めてくる。
《何をコソコソやっておる、質問にさっさと答えぬか!》
益々強まった威圧感に、先程の少し緩んだ雰囲気は一気に吹き飛ばされ、二人は顔面蒼白となって立っているのも限界を迎える。
そんな中、先程から相変わらず微笑みを浮かべて成り行きを見守っていたパチンコの女神が何か思いついたような表情を浮かべて一度手を叩く。
『いい機会なのでパチカス交換一覧でどんな事が出来るのか、その実践をしてみましょうか。所謂チュートリアルというやつです。そうですね、今回は私が使用パチカスを持ちますので最大出力でやってみましょう』
「さっ、最大出力って?」
パチンコの女神の発言に何とか声を絞り出す佐野さん。
『魔法や特殊技能は、その威力や効果をFランクからSランクまで消費パチカス数によって調整することが出来ます。ちょっとスマホをお借りしてもよろしいですか?』
「え?あっ、どうぞ」
佐野さんからスマホを受け取るとパチンコの女神は、店舗管理アプリを操作し始める。
そして、操作が一通り終わると上空の麒麟に視線を向ける。
『跪け』
《何を、っ!?》
パチンコの女神がスマホをタップすると同時にそう言い放つと、上空で悠然と三人を見下ろしていた麒麟が突然上から何かに抑えつけられたかのように地面まで落下してきたのだった。
地面に着地した後も麒麟は首を誰かに上から抑えつけられているような体勢になっている。
『これがSランクの【威圧】の効果です』
麒麟が地面に墜落した衝撃で尻もちをついていた佐野さんと川口くんにパチンコの女神は説明する。
『先程までお二人が圧迫感を感じでいた原因は、上空にてあの麒麟がBランクの【威圧】を放っていたからです。今はそれをこのアプリを使って上から塗り潰した形になります。大体2ランクも差があればこのようなことも容易く行使することが可能です。勿論、その分消費パチカス数は増加することになりますが』
「はあ、そうですか」
「何か凄過ぎて言葉では表現出来ないな」
『お二人とももう自由に動けると思いますが、如何ですか?』
パチンコの女神にそう言われて、二人は立ち上がる。
確かに自分達が感じでいたプレッシャーは跡形もなく霧散しているようだった。
そのことを確かめると今回の事態を引き起こし、未だ地面に這いつくばっている麒麟に目を向ける。
「近くで見ると迫力が違うな」
「異世界に来たって、改めて実感するな」
「そうだな、異世界やっぱスゲーわ。それでこの麒麟はどうするんですか?」
先程までの顔面蒼白状態からすっかり雑談に興じれる程に落ち着いた佐野さんは、パチンコの女神に麒麟をこの後どうするのか尋ねる。
食べるとか?
いや、流石に言葉が通じる生物は食べたくないかなぁとそんな事を思案してみるが、正直自分達では手に余るどころか何をどうすれば良いのか最初の一手目から迷子状態であった。
『先程お話した中にも出てきた事なのですが、この世界で生きていくにはお二人の戦力では些かどころじゃない不安が残ります』
「それは今、物凄く実感しています」
「だな」
目の前の麒麟をチラッと見ながら佐野さんと川口くんは答える。
こんな不思議ファンタジー生物が跋扈する世界に日本で平和にパチンコに興じていたアラサー2人組がいきなり放り込まれて果たしてどうなることやら。
『ですので、こちら麒麟をテイムして従魔にするのは如何でしょうか』
「えっ!?」
「はあ!?」
これは何とも序盤から凄い展開になったものだと思う、佐野さんと川口くんであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます