第10話
「って、やっぱり見た目通り女神様なんだ。というか、パチンコの女神様!?じゃあ、俺達の主神じゃんか!有難や有難や」
『いえ、別に拝んで頂かなくても大丈夫ですよ』
放っておくと今にも五体投地しかねない雰囲気の川口くんにパチンコの女神は優しく声を掛ける。
『それに私はあくまでもパチンコ、パチスロの繁栄を司る神であってギャンブル運を上げる御利益はありませんから。それはまた別の神の担当です』
「あっ、そういうものなんですか」
『はい、そういうものなのです』
そう言われては仕方がないと、既に降ろしていた片脚を上げて立ち上がる川口くん。
そこでふとあることに気が付いた。
「あれ?異世界転移で女神様ってことは、ひょっとしてこれから俺に何かチート能力を授けてくれるイベントですか?」
『いえ、違います』
「違うの!?」
『貴方は、そちらの佐野さんの願いによってここに呼ばれた謂わば付属品のような扱いなのです。ですので、そういったサービスの対象外となっております』
「付属品って、マジかぁ…」
非情なパチンコの女神の言葉にテンションダダ下がりの川口くんだった。
しかし川口くんを着の身着のまま放り出すのも、それはそれで無責任だと感じているパチスロの女神は一つの提案を佐野さんに提示することにした。
『しかし佐野さんがもし宜しければ佐野さんに与える予定の能力、というか正確にはシステムなんですがそれは後で説明するとして、とにかくその能力を二人で共有することも可能です。その場合のデメリットに関しては、実際に運用してみないとわからないというのが現時点での回答にはなりますが』
「二人で一つの能力を共有するんですか?それでデメリットはやってみないと現時点では不明と。…うーん、川口くんはそれでいい?」
本来なら決定権を持ちお願いされる側の立場の佐野さんからの提案に、素直に驚く川口くん。
「いや佐野さんこそ、それでいいの?」
「だってもし能力を共有しないで川口くんがあっさり死んじゃったりしたら寂しいじゃんか。友達なんだから見捨てられる訳ないだろ?」
「佐野さん、マジかっけぇわ。そもそも俺が今困った状況に陥ってる原因が全て佐野さんにあったのだとしても」
そうなのだ。
よくよく考えてみると、そもそも今回川口くんが異世界で窮地に陥りそうになっている元凶は全て佐野さんに由来している事案なのであって、それをリカバリーするのは佐野さんの当然の責務なのだ。
「もうー、それは言わないでよー。いいじゃんか、異世界生活を一緒に楽しもうよー」
「それは激しく同意せざるを得ないな。それで佐野さんって、どんなチート能力貰ったの?」
「いんや、まだ何も貰ってないし概要すら聞いてない」
そうあっけらかんと答える佐野さんに、川口くんが口調を強めてツッコミを入れる。
「いや、そこは最初に詳しく聞いておくべき案件だろうが!?ゆとりか?ゆとりなのか?…あっ、俺達ガッツリゆとりだったわ」
「まあまあ、落ち着けよ川口くん。ゆとりだって馬鹿にされるぜ」
川口くんの言うこともわかるが実質的に断るという選択肢がなかった以上、佐野さんがこの件を後回しにしてもそれ程問題ではないという考えになったのは仕方がない事なのかもしれない。
でも、もう転移は済んでいるので現時点まで確認することを疎かにしていたのは佐野さんの明らかな失点でもあった。
「ということでもう転移も済んだことですし、諸々のルールとかさっきの能力の話とかを詳しく聞かせて貰っても大丈夫ですか?」
『では、その話を今からしてしまいましょうか。下手に人目を気にするよりもこちらの方が安心ですし。少し長くなりますがお二人ともよろしいでしょうか?』
「はい、よろしくお願いします」
丁度良い高さの木の根や岩場に腰を落ち着け、パチンコの女神は2人に向けてこれからのことを話し始めるのだった。
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