第7話

『それでは、現地に向かいましょうか。忘れ物はしないで下さいね、ここにはもう戻ってきませんから』


 何だか旅行のガイドみたいなことを言ってるなと思いながら、佐野さんは知らず知らずのうちに昂っていた気持ちが少し落ち着きを取り戻した気がした。

 そうすると一つ試してみたいことが浮かんできた。

 でも、ちょっと無理かなと思いながらも折角だからとダメ元でパチンコの女神に提案してみる。


「あの、もう一人一緒に連れていくことって出来ませんか?」


『もう一人?ですか?』


 まさか、そんな提案をされるとは思ってもみなかったパチンコの女神の表情は少し面食らっているようだった。

 しかし、次第に面白いものを見るような表情に変わっていく。


『それは、何故ですか?』


「いやー、何ていうか、まあ一人で大丈夫かな?っていうのもあるんですけどね。友達に同い年の川口くんっていうパチンカスのニートがいるんですけど彼はコミュ力のパラメーターが異常に高い愉快な奴でしてね。今回の依頼にはうってつけかなとふと思い浮かんだんで。それとやっぱり正直な話、誰も知り合いの居ない土地に一人だと寂しいんですよね」


『その彼は、役に立ちそうなんですか?』


 予想外の提案に興味を惹かれたのか、パチンコの女神は続けて尋ねる。


「まあ、実際には行ってみないとわからないですけど一人で行くよりは依頼を上手くこなせると思いますよ。ただ人間性には少し問題があるでそこがどう作用するかって話でもあります」


 それを聞いたパチンコの女神は、フムッといった様子で腕を組んで考えこむ。


『その彼は、ニートなんですよね』


「はい、だから連れて行っても問題ありません」


 勝手に人一人を拐かそうというのに堂々と言うには酷い言い草ではあるが、パチンコの女神は特に気にする素振りを見せない。


『それで貴方と同じくらいパチンコ、パチスロを愛していて今回の依頼に役立つと』


「そうですね、おそらくですけど」


『なるほど…』


 会話が途切れ、少しの静寂の後に何かを思案している様子だったパチンコの女神が考えが纏った素振りを見せると口を開く。


『わかりました。では、今ここで電話をしてみて本人の承諾が得られたら連れていくことにしましょう。それなら、多少強引ではありますが何とか捻じ込めるでしょう』


「やっぱり、無理を言ってしまいましたか?」


『それは人間一人を別の世界に移動させるのですから何でもかんでも大丈夫という訳にはいきませんよ。大きな力を行使する時ほどルールというのは厳しくあるべきなのです。それが神であろうとも例外ではありません』


 それはそうだろうなと佐野さんも同意する。

 何の制限も無しにそんなことを神様が自由に出来たら、人間社会が崩壊してしまう。


「じゃあ、どうするんですか?」


『どうやら、貴方が火災に見舞われた同時刻にその彼も別のパチンコ店に滞在していたようですのでその事実を書き換えて貴方と一緒の店舗にいて火災に見舞われたことにします』


「そんなこと出来るんですか!?」


『同意さえ得られれば他の神々の目を何とか欺くことは可能です。神にとってみれば人間一人の所在地くらいなら誤差の範囲内です。ましてや同じ日本国内、全く問題ありません』


 何やら神々のルールのようなものがあるようだが、先程のルールへの厳格さはどこに行ってしまったのか、方法的に思ったよりも力技であった。

 というか、日本国内なら誤差の範囲ってそれって殆ど何でも大丈夫と一緒じゃないか、っとツッコミたくなったが実際の神々のルールなんて理解出来ないだろうし、それでこのやり取りを台無しする訳にはいかないので何とか堪えることにした佐野さんだった。

 何せこの場合、恩恵を受けるのは佐野さんなのだから。


『では、今からスマホを繋がるようにしますので電話をかけてみて下さい。もし、同意が得られない場合にはこの通話自体がなかったことになりますので情報等の開示に制限はありません』


「へぇー、それは助かります。あっちなみになんですけど、異世界に転移した後の自分達の扱いってこの世界的にはどうなるんですか?」


『それは勿論、神隠しですよ』


 いい笑顔でそう言い切ったパチンコの女神を見て、こういう時どういう顔をすればいいのかわからないと思った佐野さんであった。

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