第6話

『という訳で貴方にはこれから私の管轄している別の世界でパチンコ、パチスロを広める為に活動して貰おうと思ってます』


「それは、もしやというかやはり、異世界転移という流れですか?」


『今風に言えば、そうなりますね。どうですか?引き受けてもらえますか?』


 パチンコの女神の問いかけに佐野さんは間髪入れずに答えるのだった。


「引き受けましょう」


『貴方ならそう言うと思ってました。細かいルールなんかは現地で説明した方が分かりやすいと思いますけど、どうしますか?』


「そうですね、ならそのようにお願いします」


『じゃあ、早速転移させますね。あっ、そちらの荷物は持っていっても大丈夫ですよ。向こうでも使えるようにしておいたので』


 佐野さんは、まさか荷物の持ち込みが可能だとは思っていなかったので流石に驚く。


「いいんですか?というか、使えるんですか?」


『勿論、使用上のルールみたいなものはありますけどこちらの都合で働いて貰うのだからそれくらいのサービスは許容範囲内です』


「あっ、スマホはどうなんですか?通信とか電話とか、あと充電とかも出来るんですか?」


 佐野さんも流石に電子機器は無理だろうと思ったが、とりあえず聞いてみることにした。


「スマホに関しては、通話は不可。通信は閲覧のみで充電も勿論出来ます」


「それは、…かなり便利で有難い話ですね。もしかして、行き先は文明レベルが地球と同水準かそれ以上だったりしますか?」


 よくある異世界ファンタジーかと思いきや、近未来SFの可能性が出てきたので佐野さんは少し困惑する。

 というか、もし近未来SFだった場合にパチンコって流行らすことが出来るのだろうか?

 地球より文明の栄えてる世界にいったらパチンコの上位互換的な何かが既に流行っているのではないだろうか。

 しかし、そんな心配は杞憂に終わった。


『いえ、貴方達の感覚でいう所の中世ヨーロッパ後期の世界観に魔法、魔物、亜人有りって感じですかね』


「ま、魔物ですか!?それってホントに大丈夫なんですか?こちとら運動不足のサラリーマンなんですけど。いきなり襲われて、その…死んだりとかしたりしませんかね?」


 既に佐野さんは、無条件で魔物に対して喜び勇んで戦いを挑んでみたいという気持ちが湧いて来る年代ではない。

 ちょっと張り切って動くと息はすぐに切れるし、足だってもつれる可能性が高い。

 筋肉痛だって2日後だ。

 しかし、そんな佐野さんの心配などに気にすることなくパチンコの女神はこう答えるのだった。



『あなたは死なないわ、私が守るもの』



 そう言い切ったパチンコの女神に、一瞬面食らった佐野さんであったがすぐに心得たとばかりに神妙な、そして少しだけ寂しげな表情を浮かべる。


『さあ、行きましょう。……さよなら』


 佐野さんの方向を見ることもなく、その言葉を残してパチンコの女神は先に転移をしたのか何処かに消えてしまった。

 一人その場に取り残される佐野さん。


「…別れ際にさよならなんて言うなよ」


 まるで思春期の少年のように甲高い声を上擦らせながらそう呟くと誰も居なくなった真っ白な空間の中で佐野さんは、一人黄昏るのであった。

 しかし、その表情が満足気であったことは語るまでもない事実であった。

 まだまだ心が原始に戻りっぱなしの佐野さんである。



 その後、何事も無かったかのように普通に戻ってきたパチンコの女神は佐野さんとハイタッチを一つ交わして、これまた何事もなかったかのように話を再開する。


『こちらとしてもパチンコ、パチスロの布教に尽力して貰わないといけないのでそれなりにバックアップ体制を整えているのでご安心下さい。俗に言う特殊能力的なものも用意しています』


 さっき出会ったばかりなのにいつの間にそんな事になったんだ?と佐野さんは思わなくもなかったが、神という超常の存在と一人間の自分の時間という概念が共通の物であるとは限らないと思ったので無難に流す事にした。

 というか、特殊能力ですと?期待の高まるワードだ。


『しかし、あまりこちらにおんぶに抱っこということでは困りますので条件を設けて達成度に応じて報酬、といった所謂クエスト方式のようなものを取らせて頂きます。そもそもパチンコ・パチスロが普及していない世界なのでそこでの私の影響力自体がまだ弱く、だから何の動きも見られなければすぐにも…ということもありえます』


「つまりは働かざる者食うべからず、ってことですね」


『そういうことです。理解が早くて助かります』


 どうやらそこまでの佐野さんとのやり取りにパチンコの女神は合格点を付けたようで笑顔で頷くのであった。

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