第1話 

 わたしと陵介はどこにでもいる大学生のカップルだ。

 講義が被ったとか、発表の班が同じだったとか、とにかくそんなありふれた出会い方をして現在にいたる。


 ひとつ、珍しいことをあげるのならば、わたしと陵介が釣り合わないことだ。背が高くて、頭が良くて、いつもおしゃれな陵介は傍目に見てもわたしとは釣り合わない。

 今日だって、白のシンプルなTシャツと腰の位置がどこにあるのか分からないパンツを合わせ、ハワイのパッチワークみたいなジャケットを羽織っている。

 わたしは知らないけれど、有名なブランドのものらしい。陵介が言ってた。


 海外生活の長かった陵介は、いつも堂々としていて人の目を見ながら真っ直ぐに話す男の子だった。人の話を聞く時も、自分の意見を言う時も、じっと相手の目を覗くのだ。

 促すように、さとすように、彼は目を使ってコミュニケーションをする。彼はいつも蛍光灯だとか、太陽だとか、とにかく明るい方を向いていた気がする。反射して瞳に光が灯るのが素敵だと思っていた。


 そのじぃっと見入る視線を、圧力みたいだと思うようになったのはいつからだったろうか。


「ミヨちゃん、これあげる」


 陵介はさっきから片手でぶらぶらさせていた小さな正方形のショッパーを机に置いた。

 白地に小花が散っていて、ヒモ部分は水色のリボンになっている。サテン生地の光沢がてらてらと柔らかい光をくるんでいた。

 前に友だちの誕生日に買ったデパコス。自分用に買ったことはない。


 中には店頭限定のマニキュアが綺麗にラッピングされていた。

 小瓶に詰められたサンセットビーチのようなビタミンカラーだ。大粒のグリッターがざくざく入っている。


「絶対に似合うと思うんだよね」


 視線がわたしの指先に一瞬滑る。

 シャーベットブルーに白い小花が散っている爪先を、無関心に、そこには何もないかのように。

 重ねたレジンがむなしくつやめいている。


「ミヨちゃんには絶対これが似合うと思ってさ。俺、オレンジ好きだし」


 陵介が笑っている。えくぼがかわいい。


「次のデートはそれ塗ってきてよ」

「でもさ、今のも好きなんだよね。この色かわいくない?」


 わざとなんでもないように爪を撫でた。つるつるした感触がひどく冷たい。花びらを模した白い線をなぞってみる。


「うん。でもこれが似合うから」

 陵介は有無を言わせぬ明るい声で言った。

 真っ直ぐにこちらを見ていた。

 いつか、この目線に圧縮されてしまう気がする。


 節っぽい指がわたしの手を取り、まだ呼吸しているネイルにオレンジの瓶を重ねた。

 爪に合わせてみると、目がくらくらするくらい明るくて浮いて見えた。


 うん、そっか、そうだよね


 あー、昨日したネイル落とさなきゃ。

 指先を机の下でいじる。

 レジンがかちかち音を鳴らした。

 酸欠の小魚みたいだった。

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