第103話 自己嫌悪

「で、ですが……それだと私の気持ちはモヤモヤしたままで、犬飼さんに対しても申し訳ない感情と謝りたいという感情も無くならずにしこりとして残ったままだからスッキリしたいというか……」

「それは貴女の事であって私の事ではありません。 むしろ私からすれば今あなたがその事で苦しんでいるのだと知れたというのに何故その苦しみを解放する手助けをしなければならないのでしょうか? 私に一生忘れる事が出来ない記憶を植え付けた罰を一生背負い償って欲しいと思うのは私自身我儘で大人げないとは思うのですが……どうしても謝りたいと思うのでしたら彩音さんご自身で思い出してから謝ってほしいものです。 私から教えてもらってから謝られてもやられた方としては納得いきませんもの」

「そ、それは…………わ、わかった。 でも取り敢えず謝罪だけさせてください。 犬飼さん、ごめんなさいっ!!」


 そして犬飼さんはこの謝罪は犬飼さんの為ではなく私の為の謝罪である事、そして本当に謝罪したいのであれば私が何をしてしまったのか思い出してから謝罪してほしいと言われてしまう。


 そして犬飼さんにその事を指摘されて、私は犬飼さんと同じ土俵に立ちたい一心で犬飼さんの気持ちなど一切考慮していなかった軽率な行動であたと思い知らされる。


 結局相手の為だなんだと理由を付けて行動しても蓋を開けてみたら自分の事しか考えていない自分が嫌になる。


 祐也さんの時だってそうだ。


 そしてもう二度としないと思い反省したにも関わらず私は同じような事をしてしまった事に自己嫌悪してしまう。


 それでも、一言だけ謝りたいと思い、席を立ち頭を下げて謝罪する。


 何に対してだとかどういう悪事を働いてしまっただとかこれからどのような償いをしていくのだとか、そういった事は一切説明せず、ただ心から一言『ごめんなさい』というだけの、シンプルな謝罪である。


 聞くが聞けば怒るような謝罪なのだが、今の私にはこれが精いっぱいである。


「全く、別に良いわよ。 そんなに謝られたらこっちが悪い事をしているみたいじゃないですか。 ですが私としても今あなたが過去に私へ行った行為によって苦しんでいる事が分かっただけで十分です。 そんな事より彩音さん、仲良くなるには裸の付き合いという言葉があるでしょう? 今から一緒に露天風呂へ入りませんか」

「は、裸の付き合い……ですか。 わ、分かりました。 入りましょう」


 そして犬飼さんは唐突に裸の付き合いとして一緒に露天風呂へ入ろうと言うではないか。


 これはもしかしたら当時の私が行たであろういじめの痕跡が犬飼さんの身体に今も尚残っているのでは? と思わず身構えてしまう。

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