第102話 最低だなと思い知らされる

 そして俺は山菜取りで疲れた身体と、今の現状を考察して疲れた精神を癒す為に露天風呂へと向かうのであった。





 私の存在は、犬飼さんから見ればまさにトンビに油揚げを攫われるようなものなのかもしれない。


 それも犬飼さんは私に昔何か嫌な事をされており嫌っているというような事も言っていた事から見ても、そのような女性がいきなり婚約者として現れるというのはかなり腹立たしいことであるのは容易に想像できてしまう。


 犬飼さんでなくても私ですら想像したら腹が立つほどなのだから本人からすれば尚の事だろう。


 にもかかわらず今まで何事もなく西條家で過ごせており、一度たりとも犬飼さんから報復のような事どころか嫌味な態度を取られたことがないのである。


 そのことからも、婚約したばかりの頃の私を思い返すと『嫌いだから』だとか『気に食わない』だからという理由で噛みついていた事を思い出し、改めて私という人間は最低だなと思い知らされる。


 そして今までは犬飼さんからは特に何もされないという事を良い事に過去から目を背け、逃げ続けながら過ごして来たのだが、流石に今日の犬飼さんの祐也さんへの頬へのキスを見て逃げ続けるのはもう止めなければと強く思った。


 犬飼さんは私の過去などほじくり返せばいくらでも優位に立ち回れるにも関わらず、それはせずに真っ向から私に立ち向かってきたのである。


 しかも、私にはまだ頬へのキスをするという事はハードルが高すぎて告白して私の気持ちが祐也さんに知られている現状ですらできないというのに犬飼さんはそれをやってのけたのだ。


 その時の犬飼さんの頬がいつも澄まし顔の犬飼さんには珍しく淡く朱色に染まっていたところから見ても相当な勇気だったのだろうという事が窺えて来る。


 それは同時に、私に対して『それだけの想いで挑んでいる』という事の表れでもある。


 ここまでされてこれからも過去の自分から背を向け続けて犬飼さんと祐也さんをかけて戦うなんて事は流石に嫌だと強く思ってしまった。


「それで話があると私を呼んだんですか?」

「そうです。 当時、私が犬飼さんに何をやってしまったのか、今度こそ逃げずに聞きちゃんと謝罪したいのです。 そうでなければ私はここにいる権利すら無いと思ってしまうので……」

「別に過ぎた事ですし、恨んでないと言えば嘘になりますがその結果祐也様に出会えたので今ではむしろ感謝の方が大きいので今さら謝られてもという気持ちの方が大きいのですが? それに謝罪された所で許せるとも思えませんし……」


 そして犬飼さんは私の話を聞き、怒るでもなく今の犬飼さんの感情を淡々と答えてくれる。

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